『北野武映画ザ・ベストテン』&『北野武映画史 1989~2015』
今回は日本の映画史においてこれからも名前の残ると思われる北野武監督作品の中から、自分なりのベストテンを選んでみました。
カウントダウン形式で紹介していきたいと思います。
みなさんも自分のランキングと比較して楽しんでください!!
各ランキングの最後にはブログ内のレビューへのリンクを貼ってますので気になった方はぜひぜひ読んでくだされ!
10位
『座頭市』(2003年)
勝新、三隅コンビの名作『座頭市物語』に別角度から挑戦した北野版『座頭市』。
映画評論家、蓮実重彦は北野武演じる座頭市を宇宙人であると喝破した。
自分は『BROTHER』、『Dolls』と続いてきた「ある程度、海外の視線を意識した」作品群の集大成ともいえると感じた。
そういう意味で、岸本斉史の漫画『NARUTO-ナルト-』と重ね合わせてみた。どちらも主人公が金髪(?)であるし…。
CGを使った殺陣はあいかわらずタイミングばっちりで、「リズム」をテーマとした今作の作風にも合致している。
9位
『アウトレイジ』(2010年)
硬質なムードに彩られながらもエンタメへと大きく踏み出した作品。
過去作『ソナチネ』などの暴力映画とは異なり、非常にわかりやすいストーリーとわかりやすい小ネタに溢れ、観客へのサービスに余念がない。
過去のヤクザ映画を踏まえた結果、どこか無国籍風、時代から切り取られた感じを受けるのはその独特の編集力によるものだろうか。
筋を追って話が転がっていく簡潔さは次作の『アウトレイジ ビヨンド』においてその鋭さを増している。
しかし、そのかっちりとした画面構成、よどみを許さないカット割は確かに心地よいものの、それまでの北野映画にあった「余韻」のようなものを排除しているともいえる。
今作はエンタメ性を追求することでその作家性を発揮しているわけだ。
8位
『菊次郎の夏』(1999年)
夏休みに遠方の母を訪ねようとする少年と、不良中年の菊次郎との旅を通して他者との交流を描くロードムービー。
ただ単にお涙頂戴的な展開にならないのはさすが北野監督。
ノスタルジーに溢れた夏を、情感たっぷりに描いており、少年だけでなく菊次郎自身の母親との関係にも触れながら、次第に理解しあっていく少年と中年の友情の物語として見事に仕上げている。
「菊次郎」とは北野武の父親の名前でもあり、それを自らの役名に関することによって、少年としての北野と中年としての北野に分裂している様子を表現しているとも考えられる。
この「分かたれた視点」が、これ以降の海外からの視線を意識している作品群を通した後に、自己言及的な作品群(『TAKESHIS`』~)に発展していくと仮定すると面白い。
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これまでの作品でも語られていた、「庇護する者と庇護される者」の関係性の一つの頂点のようなストーリーである。
前作『HANA-BI』でも家族関係というのが大きなテーマになっており、このころの北野が取り上げたいテーマだったのではないだろうか。
映像も、とくに「田舎/自然」を取り入れた映像が美しく、北野特有の映画らしい構図がふんだんに見られる。
天使の鈴や少年の母親の現状など、ありふれているともいえる材料を使うところもエンタメを意識したご愛嬌というところか。
7位
『Dolls』(2002年)
独特の色彩感覚に溢れた作品。
ストーリー云々というより、構図を、衣装を観る映画ともいえます。
主人公カップルが途中まで載っている車の色がすごくいいですね。
小道具として色々と象徴的なものを挟み込んでいるんですが、少しサービスしすぎな感じもあります。
『HANA-BI』後半の夫婦の道行きをより発展させ、色彩を付与したイメージ。
ヤクザと昔の恋人を待つ中年女性、アイドルオタクとアイドルとのエピソードも盛り込まれており、複数のストーリーを重ねていく手法は『座頭市』をはさんで、『TAKESHIS`』や『監督・ばんざい!』に結実していく。
美しく、目をひく衣装が虚構性を担保しており、映画の雰囲気にマッチしている。海外でロングランを記録したのも頷ける作品となっている。
完全に余談だが深田恭子演じるアイドルが歌う曲が「キミノヒトミニコイシテル」であり、アイドルオタクがある理由で自分で自分の視力を奪うというエピソードの伏線になっている…のか?
6位
『HANA-BI』(1998年)
警察をやめた男と死期の近づいた妻との最期の旅行。世間から逃れ、たどり着いた海辺は「あの世」への入り口だった…。
バイオレンスを取り入れながら中年夫婦の愛情をテーマにした作品。
確かに説明的なきらいはあるが、相変わらず画面の構図で魅せる北野の作家性が発揮されている。
『Dolls』でも道行きにおける季節/色の変化が表現されているが、今作でも雪のシーンが印象的。今作でも海辺は生と死の境界として描写される。
同僚が殉職したり、負傷して退職するなどのエピソードも大きなパートとして存在し、北野演じる元刑事が静かに心に抱えた贖罪の意識がラストシーンに静かにつながっていく。
5位
『その男、凶暴につき』(1989年)
記念すべき処女作にして、問題作。
救いのなく、連続する暴力が当時の世相を静かにすくい取っている感じをうける。
まさかこの時点で、将来の日本を代表する映画監督になると予想した人はあまりいなかっただろう。
物語が真相に近づくにつれ、しだいに明るさを失っていく映像が不気味だが見事。
また敵役の白竜、岸辺一徳の存在感が非常に良い。後々の作品にも彼らはでてくるので、北野監督の思惑通りの演出ができたのだろう。
視点を空中に置いて襲撃シーンを表現したり、執拗に歩くシーンを写したりするなど独特の映像表現がすでに見られる。
他業種の業界人が映画を撮ることは今作以降も多くみられるが(というか北野が影響を与えたとも考えられるが)「映画における作家性」を考えると、やはり一番「映画」しているのが結局のところ北野作品なのではないだろうか。
4位
『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)
あまりにせつな過ぎる夏の海を描いた作品。
捨てられたサーフボードに自分の魂まで乗せて海に消えた青年。つねにかたわらで見守っていた恋人。サーフィンを通じて形作られていく新しい人間関係。全ては新鮮な空気に満ち溢れていた日々だった。
サーフボードを抱えながら歩く、「横の構図」が非常に印象的であったが、ラストシーンは「画面の奥行き」を使い、(こちら側の)生と(あちら側の)死を描写している。
悲しくも開放感溢れる画面構成であり、心を打たれる。
波の描写と浜辺に座っている人々を写しているだけなのに退屈ではないのが非常に不思議で、しかし説得力のある映画である。
主人公カップルが一言も喋らずに、表情の変化も乏しいが、それでも映画を成立させてしまうのが北野監督の力量である。
3位
『キッズ・リターン』(1996年)
とくにラストシーンのセリフが有名な作品。
落ちこぼれの少年が、ボクサーとしてヤクザとしてのし上がろうとするが、夢半ばで挫折をよぎなくされる。その様子が彼らの周囲の人物の人生の浮沈も絡めて描かれる。
何者かになりたい、だけど何者にもなれないのかもしれない。
若者の誰しもが抱く「欲望」を忠実に描いており、無理なく作品世界にひたることができる。ファンが多いのも納得できる一作である。
当時のインタビューで語っていたが、北野監督は主人公たちの内部に入って物語を描写するのではなく、少し離れて、上からの視点で映画を作ったようだ。
それが「教室―グラウンド」における視線の高さの違いにも関係しているようで非常に興味深い。
2位
『3-4x10月』(1990年)
『ソナチネ』で大きく花開くとこになる「沖縄/ヤクザもの」の一本。監督二作目にして日常に侵入する非日常の暴力を見事に描いている。
物議をかもしたラストシーンをあなたならどのように捉えるだろうか。
初期北野作品に顕著な「小ネタ」を挟み込むスタイルもここから導入されている。
なんといってもカメラワーク・カット割がすばらしい。
前作『その男、凶暴につき』でも独特な構図が見られたが、今作ではよりスタイリッシュに表現されており、何度観ても飽きない。
タメやタイミング、繰り返しの素晴らしさもいうまでもない。
北野監督が好き(そう)なヨーロッパ映画を思わせるような構図(とくにヤクザ事務所にガダルカナル・タカ=井口が乗り込み、話し合いをするシーン)も多数見られ、これまたきちんと「映画」している作品である。
1位
『ソナチネ』(1993年)
北野映画最高傑作に挙げる人も多い今作。全編に溢れる濃厚な死の匂いが観るものを魅了する。
個人的にはエレベーターでの銃撃シーンがお気に入り。
ヤクザ映画と作家性の美しい結実であり、以降この作品を超える演出がなされたヤクザ映画はない、ともいえる。
生きるけだるさと突然の死の混在が、沖縄という土地とマッチしており見どころいっぱいの映画である。
まさに海辺での遊びのシーンは、生と死に囲まれていかんともしがたいヤクザたちがただただ気晴らしに耽るという感じがでて、非常に楽しい。
ヤクザの中に闖入してくる女性の使い方も効果的である。
映像表現としては、車を対象としての遠景が時々はさみこまれているのが特徴でもある。
人がただ歩いているだけでも印象的な画面が作れるということを自分はこの映画で学ばせてもらった。
ランキングまとめ
改めてまとめてみると以下のようになります。
10位 『座頭市』(2003年)
9位 『アウトレイジ』(2010年)
8位 『菊次郎の夏』(1999年)
7位 『Dolls』(2002年)
6位 『HANA-BI』(1998年)
5位 『その男、凶暴につき』(1989年)
4位 『あの夏、いちばん静かな海。』(1991年)
3位 『キッズ・リターン』(1996年)
2位 『3-4x10月』(1990年)
1位 『ソナチネ』(1993年)
北野武映画史 1989~2015
さてさて、ここから先は余談というか蛇足というか、自分なりに北野武映画を振り返ってみたいと思います。
非常にざっくりかつ思い込みやこじつけも入った定義づけですので、まあアイスキャンディーでも食べながら見てください。
①フィルム・ノワール期(1989~1993年)
・対象作品『その男、凶暴につき』『3-4x10月』『あの夏、いちばん静かな海。』『ソナチネ』
誰もが目を見張ったデビュー作からしばらく続くことになる初期フィルム・ノワール期。静かな暴力・黒い世界を描いている。
その中で『あの夏、いちばん静かな海。』は明らかに異質であるが日常の中に存在する死の突然性・暴力性を美しく抑えた映像で見せている。
彼流の暴力の一つの描き方ではないだろうか。ほかの作品では銃が世界の異物・暴力の発露として取り上げられていたが、『あの夏、いちばん静かな海。』ではそれがサーフボードになっている。社会生活を忘れるほどまで熱中したサーフィンに命を奪われる、という悲劇性。
それ以外の作品では銃撃でのタイミングを重視したシャープな演出がなされており、以降の映画監督に大きな影響を与えている。
これら初期4作品の特徴といえば主人公がいずれも死亡していることである。物語をわかりやすく終わらせるためには手っ取り早い方法であるが、その死に必然性/物語性があるため説得力がある。
②ノスタルジー期(1995~1999年)
・対象作品『みんな~やってるか』『キッズ・リターン』『HANA-BI』『菊次郎の夏』
これらの作品の中においても『HANA-BI』はフィルム・ノワール期の作品ともいえるが、メインは夫と妻の絆/愛情を描いているため一種のノスタルジー作品としてとらえることもできる。
『みんな~やってるか』では性欲の悲しみを、『キッズ・リターン』では青年期の夢と挫折を、『菊次郎の夏』では少年と中年の交流をみずみずしいタッチで描いている。
暗い死に彩られていた初期4作品からよりエンターテインメントに近づきつつあった期間といえる。
③クールジャパン期(2001~2003年)
これら三作品は日本市場はもちろんのこと、海外の視線を意識した作品群といえる。
『BROTHER』は舞台がアメリカですし、『Dolls』は和文化をうまく使い(今流行のアイドル文化まで取り入れるという先見性の高さ)、『座頭市』では日本の誇る座頭市物語を再構築・新たな切り口で見せた。
世界で成功した数少ない日本人デザイナー、ヨウジヤマモトの衣装を三作品とも採用しているのもポイントです。
北野自身の作家性が暴力性→感傷→を経て変化していくのが理解できる。
④実験期・自己言及期(2005~2008年)
・対象作品『TAKESHIS`』『監督・ばんざい!』『アキレスと亀』
外部からの視線を意識した後、北野作品は急に自己言及的に内にこもるようになる。
作品の評価軸を一度自らの中に取り込んだのだ。つまり、評価という概念から開放されるためにとった手段だといえる。クールジャパン期を経なければこのような実験作には向かわなかっただろう。
とくに『TAKESHIS`』、『監督・ばんざい!』は非常に自己言及的・もしくは自己破壊的な作品で、フェリーニ『8 1/2』などに影響を受けたことは明らかであり、作品を重ねた作家がついつい挑戦してみたくなるテーマでもある。
『アキレスと亀』においては芸術に翻弄された芸術家の人生そのものを描いており、こちらも内省的でイノセンスな一本であるのだが、この実験期はやはりエンタメから大きく離脱した期間と表現するほかない。
⑤エンターテインメント期(2010年~)
・対象作品『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド』『龍三と七人の子分たち』
さて、実験作を続けて発表後、北野作品は急に暴力を取り戻した。
ただそれは、かつてのギラギラした濃厚な血にまみれたものではなく、妙に乾いた印象を持っており、それがエンタメ性と結びついた結果、あらたな魅力となった。
最新作『龍三と七人の子分たち』はアウトロー界隈における世代間闘争を盛り込むなど、自身の老いという個人的な問題を社会問題に結びつけて作品に昇華している。
映画史まとめ
というようにかなり大雑把ですがだいたい五年くらいの期間で作風というか作品の味付けを変化させているように思えます。いろいろな引き出しがあるわけですね。
そう考えますと、エンタメ期は終わりに近づいているかんじですが、今後、どのように進化していくか非常に興味深いですね!
自分が勝手につくったランキングと絡めてみてみると、個人的には①期、②期の作品が好きなことがわかります。90年代北野映画派ですね。わりと多いタイプの気もします。
こんな小童のたわごとなど吹き飛ばすくらいの快作を北野監督には期待しています。