戦争アトラクション。感想「1917 命をかけた伝令」
「1917 命をかけた伝令」は、第一次世界大戦を舞台に、二人のイギリス人兵士が、作戦中止命令を届けるために、遠く離れた部隊へと伝令に走る、という話になっています。
ワンカット風で撮影されたということでも話題になっていた作品ではありますが、当映画の本質は、別のところにあります。
これは、戦争アトラクションとでもいうべきものになっており、映画体験として大変面白いものとなっておりますので、そのあたりを含めて、感想を述べていきたいと思います。
スポンザードリンク
?
二人の兵士
主人公は、トム・ブレイクと、ウィリアム・スコフィールドの二名です。
彼らは、コリン・ファース演じる上官にある指令を言い渡されます。
登場人物は決して多くはない本作品において、その作戦を伝える人間が、コリン・ファースというところで、緊張感が増すところは、役者の配置の妙といえるでしょう。
ちなみに、コリン・ファースといえば、「キングスマン」や、「英国王のスピーチ」など、幅広い役をこなしつつ、いずれにしても演技派として申し分のない実力をもつ名優です。
そんな彼が、将軍として下っ端の兵士に極秘命令をくだす、ということから、本作戦がいかに異例なものかがよくわかります。
また、彼らが伝える伝令を受けるマッケンジー大佐は、ベネディクト・カンバーバッチという豪華さも一つの見どころとなっています。
一応、トム・ブレイクという兵士をつかったことには理由があって、ドイツ軍におびきだされそうになっている部隊の中に、彼の兄がいるため、ということになっています。
兄弟がいるからこそ、この過酷な命令を実行するだろうという狙いがすけてみえるところが、上層部のいやらしいところでもありますし、なんとかして遂行したいという想いの表れにもなっているように思われます。
戦争において、兄弟云々という出だしではじまるものといえば、言わずと知れた「プラーベード・ライアン」という名作がありますが、もし、本作品をみていながら、まだご覧になっていない人がいれば、ぜひ復習しておいていただきたいところです。
さて、背の高いウィリアムと、小太り気味なトムの、でこぼこコンビは、塹壕を通り抜けて、最前線へと向かい始めます。
塹壕戦
戦争映画というのは、様々なところで作られていますが、「西部戦線異状なし」とか、まぁ、塹壕戦というのは、第一次世界大戦とは切っても切り離せないものとなっています。
特に、第一次世界大戦は、その名前の通りヨーロッパを舞台とした、はじめての世界大戦となっており、地球のあらゆるところから物資があつまり、その結果、塹壕というジメジメした環境下から、ウイルスが発生して、世界中で病が発生したという点で、疫学的にも重要な戦争となっています。
インフルエンザがこの結果広まったと言われていますが、実際は、違うウイルスといった話など、映画の本筋とは関係ないので、さらっと流しておきたいと思います。
第一次世界大戦は、戦争がかつてのものとは根底から変わった戦いということも、重大な点です。
人間VS人間というのがまだ色濃く残っており、鉄条網といったものがあたりまえに張り巡らされているのも、戦闘が対人間というところに特化していたからだといえるでしょう。
では、そんな前提を頭にいれつつ、本作品の魅力について語ってみたいと思います。
ノーカット映画
記事の冒頭でも書きましたが、本作品は、ワンカット風の作品となっています。
ところどころ編集点が存在しており、本当のワンカット撮影ではないのですが、監督自身もこれは「ノーカット」映画だといっているそうですので、本作品の見どころは、ワンカット風という点ではないことは、重ねて強調しておきたいと思います。
「カメラを止めるな」といった作品のワンカットであるとか、引き合いに出されることの多いイニャリトゥ監督の「バードマン」といった作品も思い出されそうなところではありますが、本作品は、とにかくワンカットというよりは、没入感を高めることに、ワンカット風の魅力をつかっているところがポイントとなっています。
映画の魅力というのは、編集にこそあるといっても過言ではありません。
映像と映像をどのようにつなげるかによって、意味や意図が変わってくるというのは、映画という表現技法がつくられた当初から内包していた魅力となっています。
ですが、編集、即ちシーンがかわるごとに、観客の気持ちも一瞬切り替わってしまう。
これは、映画というものの性質、魅力上やむえないところではあるのですが、「1917 命をかけた伝令」では、編集をほとんどしていないノーカット映画となっています。
その結果、現れる効果として、圧倒的な没入感が生まれるのです。
戦争アトラクション
没入感が生まれた上で、本作品を二人の兵士に接近して見続けると、まるで、戦争というアトラクションを楽しんでいる状態になっていくるから不思議なものです。
寝ていた兵士の二人が、将軍に呼ばれて密命を受け、塹壕を通って最前線へ行く。
美しい映像もたくさん見ることができますが、前半に広がっているのは、死体の山と、その死体を食らうネズミたちです。
顔が地面めり込んでいたり、馬が死んでいたりと、もう目をそむけたくなるような光景が連続しています。
それを、ノーカットの、ワンカット風で見せられることにより、嫌がおうにも、自分もまたそこにいるような感覚になっていきます。
ちなみに、本作品は、物語としての複雑さはほぼありません。
ですが、遊園地の乗り物系のアトラクションに乗っているような、不思議な気分を味わえるのが最大の魅力となっています。
タルコフスキー
ここからは、完全な感想です。
主人公たちが、塹壕からでて、鉄条網をおっかなびっくりくぐっていくシーンがあります。
ネタバレですが、物語の序盤、将軍の情報通り、ドイツ軍は撤退した後となっており、人っ子一人いない状態になっています。
ですが、現場の兵士たちは、二日前まで、数え切れないほどの死者をだしながら戦闘をしており、とてもじゃないですが、ドイツ軍が撤退した後だなんて、信じられる状況ではありません。
トムとウィリアムもまた、おっかなびっくり塹壕からでて、爆発でへこんだ地面を歩きながら、戦場を歩いていきます。
ふと、誰もいない中を、敵でもでてくるようにおびえている二人をみて思い出したのは、タルコフスキーの「ストーカー」です。
詳しくは説明いたしませんが、タルコフスキーの「ストーカー」という名作は、いい年をしたおっさん3人が、何もない草むらを、まるで何かがあるかのようにおそるおそる進んでいくのです。
その姿は、はたから見ると、子供のころにやったゴッコあそびのようにしかみえないのですが、そこにいる登場人物たちからすれば、死ぬかもしれないとんでもないことをしている、というギャップの面白さと、でも、それを、笑い飛ばすことのできない緊張感が、画面から伝わってくるという奇妙な状況に、目を離せないというものになっています。
「1917 命をかけた伝令」もまた、前半はタルコフスキーの「ストーカー」のように、どことなく珍妙にみえながらも緊張感が途切れないで進んでいき、後半になると、怒涛の展開になっていく、という緩急が、ワンカット風で行われているというところに、本作の素晴らしが見て取れます。
二人の友情
もちろん、本作品は、トムとウィリアムの友情という点でみることもできます。
物語の発端は、トム・ブレイクという男が、兄を助けるために伝令に走る、というのがポイントとなります。
ですが、転機となる事件を経て、トムが、その意思を継いでいくという物語になっています。
あまり、キャラクターの過去に触れるような内容にはなっていないのですが、ウィリアムという男は、故郷にかえるつもりがない人間として描かれています。
「どうしても故郷に帰るのが嫌だった。残れないと知り、二度と会えない覚悟で」
戦争に行って戻ってくれば英雄といわれる時代だったにも関わらず、彼は、故郷を捨てるつもりだった。
でも、トムとの出会いや任務を通じて、故郷に戻る、あるいは、故郷を想うようになるというところで物語が終わります。
戦争の詰め合わせ
本作品は、監督の祖父を含めたいろいろな話を聞いたものを、統合した作品となっているそうです。
本当にあった話ではないかもしれませんが、本作品は戦争における真実を掬いあげている作品ともなっていると思います。
命をかけて伝令をしたウィリアムは、1600人の兵士たちを守ろうとか、そんな崇高な考えではなく、親友の兄に、親友のことを伝えに行きたい、その一心で走ったに違いないと思うからです。
ちなみに、この戦場で走り続けるというシーンから、ついつい「フォレスト・ガンプ」などを思い出してしまいました。
何かのために走り続ける主人公というのは、ぐっとくるものがあります。
ノーカット風となっていますので、我々がみている時間と主人公たちが体験している時間は、同じ時間というのも面白い点です。
一度、気絶したときには時間は飛びますが、それ以外はリアルタイムに時間が流れますので、面白い体験であると同時に、バリバリの戦争映画ということでキツイながらも面白い体験ができる映画となっています。
以上、戦争アトラクション。感想「1917 命をかけた伝令」でした!