ゲーム的ループの傑作。映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」
ライトノベルス原作でありながら、トム・クルーズ主演でハリウッド映画化されたことで有名な「オール・ユー・ニード・イズ・キル」。
「よくわかる現代魔法」でお馴染みの桜坂洋氏によって書かれた本作品は、いわゆるほかの作品のループものと呼ばれる作品や、タイムトラベルものとは一線を画する内容となっています。
そんなラノベ界でも異色の作品の映画化について、その面白さや、見どころについて考えてみたいと思います。
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主人公について
本記事をみにきたという時点である程度の内容把握はされているかと思いますが、本作品はいわゆるループものとなっています。
トム・クルーズ演じるウィリアム・ケイジは、米軍のメディア担当のアメリカ人で、前線で戦うような人物ではない男です。
彼は、メディア担当としての力を発揮し、言葉と映像によって多くの若者たちを戦場に送り込んできました。
絶対的に安全な場所から、誰かをたきつけていればよかった彼は、ブリガム将軍に、前線で戦うように命じられます。
少佐として行ってこい、といわれるのですが、戦場に行きたくないがあまりに、将軍を脅すようなことをいって、二等兵に降格させられて戦場に送り込まれてしまいます。
物語の表面だけでみるのであれば、武器も満足に使えなかった卑怯な男であったはずの主人公が、途方もない回数死ぬことによって、戦士として成長していくことを描いた物語としてみることができます。
ですが、原作ももちろんそうなのですが、本作品を楽しむうえで、知っておいていただきたい知識があります。
いわゆるループもの
ループもの、と聞いてピンとくる人は説明する必要はないかと思いますが、本作品は、同じ時間を何度も何度もやり直すことで進んでいきます。
ループものの映画で有名なものといえば、ビル・マーレイ演じる「恋はデ・ジャブ」ではないでしょうか。
嫌味な主人公が、謎のループ現象によって同じ一日を繰り返してしまいます。
他人のことなど興味がなく、女性に対しても紳士ではなかったビル・マーレイ演じる主人公は、何度もループする中で、自分には関係ないと思っていた小さな町の住人達や、何でもない物事にも感謝できる人間に変わっていきます。
難しくいえば、ニーチェでいうところの超人へと変貌していく過程を描いた作品であり、人間的な成長とループという特殊な設定を組み合わせた作品として、人生において一度はみておきたい作品となっております。
また、タイムリープものとして、名前が知られているものとしてば「バタフライ・エフェクト」でしょうか。
人生において、ああしていれば、とかこうしてれいば、ということを叶えると、どういう影響がでてくるのか。
地球の反対側の蝶々のはためきのような小さな出来事でも、自分の予想もしないような出来事に発展する、というカオス理論を説明するのによく使われる表現からでてきたタイトルと、それをタイムリープものと組み合わせた作品となっています。
一番構造的に近いのは、「恋はデ・ジャブ」ですが、もうちょっと深く考えてみたいと思います。
ゲーム的ループ表現
原作者である桜坂洋氏がどのような影響のもと本作品を書いたのか、ということは比較的いろいろなところで名言されています。
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」においては、まぎれもなく、ゲーム的な感性から発生した内容となっているのが、本作を他のループものや、タイムリープものとは一線を画する要因となっています。
どういうことかわかりづらいと思いますので、補足します。
みなさんは、なんらかのアクションゲームをやったことがあるでしょうか。
どんなものでもかまいませんが、いわゆるアクションゲームとかは、レベルという概念が存在しません。
よくあるゲームでは、敵を倒すと経験値があがりレベルがあがって、敵に与えるダメージが大きくなったりするものです。
ですが、アクションゲームで長時間ゲームをやって変わるのは、キャラクターの性能ではなく、操作しているプレイヤー自身の操作力です。
ジャンプのタイミングもおぼつかなかったプレイヤーが、最終面が近くなるにつれて、難しいステージもクリアできるようになるものです。
任天堂でいうところのスーパーマリオでいえば、プレイヤーは何度もマリオを殺すことになります。
簡単な穴に落ちたり、集中力を失って敵にぶつかってみたり。
マリオ自身に意識があるとすれば、途方もない回数死んでは生き返り、同じステージに挑んでいるような気分でしょう。
実際は、もうちょっと違うゲームから着想を得ているはずですが、大枠の考え方としては間違っていないと思います。
あくまで、本作品は、ゲーム的なループ表現から派生した作品だ、ということを考えてみると、より面白くみることができる作品となっています。
パワードスーツはキャラクター代わり
主人公であるケイジは、ギタイと呼ばれるエイリアンと戦います。
原作では、機動ジャケットと呼ばれるパワードスーツを着た主人公が、そのスーツをうまく使いこなしていくというところが、ゲーム的なキャラクターの操作と対応をするようになっています。
主人公は本来、体力だって十分ではない新米兵士であるはずですが、パワードスーツを乗りこなすことによって敵のボスを倒せるようになっていきます。
本人の力というよりは、パワードスーツを操作する力があがることによって、強くなる、という感覚は、まさにゲーム的なアイデアから発生したものとしてしっくりくるものです。
映画版は、途中からスーツを脱ぎ捨ててしまいますが、まぁ、映画的な面白さとしてみていただきたいと思います。
とにかく、満足に武器も操れなかった主人公が、何度も死ぬことによって知識と経験を身に着け、ループしていない人間からすれば、超人的な力を身に着けているようにみえるところがポイントです。
忘れ去られるつらさ
本作品はゲーム的な戦いの面白さもありますが、恋愛要素としてみても面白くみることができます。
はからずも、ブルース・ウィルスが未来から自分を殺しにやってくるという、一応タイムループものの映画「ルーパー」に出演していたエミリー・ブラントが、戦場のビッチと呼ばれる最強の兵士リタ・ヴラタスキとして登場します。
彼女からすれば、トム・クルーズ演じるケイジは、初めて会ったたんなる一兵士に過ぎません。
自分と同じようにループのさなかにあるというのを聞いて、何度も彼を殺してくれますが、彼女はケイジとの記憶が共有されることはありません。
この手のループ物というのというのは、自分は憶えているのに相手は憶えていない、という切なさがあります。
「Re:ゼロから始める異世界生活」において、主人公であるナツキ・スバルは、死ぬとセーブポイントのような場所に何度も戻る能力をもってしまっています。
ほとんど、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」と同じループの仕方をしているわけですが、この作品上でも、同じ思いでを共有したはずの登場人物たちと、何度も死んで戻るを繰り返す中で、自分だけが時のループに閉じ込められていることを実感せざるえない場面が何度もでてきます。
並の人間では、ループという現象に耐えられえるものではない、ということを教えてくれる作品にもなっているのが面白い点となっています。
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」における主人公もまた、何度もループしているうちにリタのことを愛するようになってしまいますが、本人との心のギャップがあったりするのがツライところです。
死にました、という表現
本作品がゲーム的な面白さというのは演出にも表れています。
アクションゲームだと、一回ダメージを受けてしまうと、もう、これ以上先にいっても無駄だな、というポイントがわかってしまうときがあります。
そういうとき、わざと死んで、また特定のポイントに戻ってやるほうが効率的だったりします。
それと同じで、本作品も、ちょっと失敗するとあっという間にリタは、ケイジを殺してしまいます。
また、ギタイによって殺されたりすると、もとの場所に戻るのですが、はじめのほうこそ丁寧にやっていますが、観客がなれてきただろう段階で、場面が不自然に切り替わることが、死を意味するようになってきます。
一つの作品の映像の編集が、死んで、またやり直した、ということの共通認識になるというのは、まさに、この作品ならではの表現であり、その表現そのものがギャグのようにもみえるところが絶妙です。
あらゆる手段を試す
また、本作品がゲーム的だな、と思うところは、その細かさにあります。
後半は、あまりに死に過ぎてしまうので、色々な細かい違いによって生き残るすべを探します。
「ここで顔をさげて、一回転」
みたいな感じで、まさに、ゲーム的な細かさでトム・クルーズは指示してきます。
そのやり取りだけで、主人公が何度この場面を経験して、失敗してまたやり直したのか、ということが想像できるようになっています。
何回ループした、なんて野暮なことを言わないのも素晴らしいです。
映像だけで、観客に、こいつ相当ループしているな、ということを編集や動き、演技でみせているところが素晴らしいのです。
足の運びや、顔の動かし方まで工夫しながら、目的を達成する。
それは、まさにゲーム的な表現に基づいて作られている「オール・ユー・ニード・イズ・キル」ならではといえるでしょう。
誰も知らない未来
またまた、ループもの、タイムリープものの作品として有名な作品の一つとして、「シュタインズゲート」をあげておきます。
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タイムリープ・トラベルをすることによって、主人公たちが、世界線をかえていくことを目的とするパソコンゲームです。
世界を分岐させるできごとを発生させることで、未来の収束点を変更し、その観測数値である世界線と呼ばれる数値を可視化することで、未来について予測をする。
タイムループものとしては、また変わった面白さがある作品です。
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」においても、最後は、ケイジのループ能力が失われてしまうことで、一度も経験したことのない未来で戦うことになります。
本来、それが当たり前であり、人間なのですが、そこに改めて戻ってくることで、死ぬということの恐ろしさ、やり直しができないことへの恐怖がにじみでてくることも面白いです。
結果として、彼は、勝利とともにギタイを倒した世界線に進むことになるという、非常に今までのループものの作品の集大成的な物語になっていることも「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のまとめかたのうまいところではないでしょうか。
似たようなループものはありますが、その発想の原点を含めて考えてみると、見え方も変わってきますので、様々なループものをみてみるのも面白いと思います。
以上、ゲーム的ループの傑作。映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」でした!