エヴァ監督庵野秀明初実写作品「ラブ&ポップ」の感想&解説1
庵野秀明監督といえば、言わずと知れた「新世紀エヴァンゲリオン」の人であることはもはや説明するまでもないと思います。
ただ、エヴァの監督だ、ということはよく知っていても、それ以外での評判というのはあまり知らない、という人が多いのではないでしょうか。
一応、最後のエヴァンゲリオンと言われる劇場版の公開もありはしますが、あえて、アニメ監督の庵野秀明ではなく、実写映画の監督である庵野秀明作品「ラブ&ポップ」について、感想と、語りを入れてみたいと思います。
本記事は、長めになってしまっていますので、前編(1)と後編(2)に分けて掲載しますのでご了解願います。
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ラブ&ポップとは
内容そのものについては、村上龍の作品「トパーズ」から派生した「ラブ&ポップ」が原作となっています。
1996年に刊行された原作というだけあって、社会問題になりつつあった援助交際という題材を取り扱った作品となっており、当時の空気感がバリバリ伝わってくる作品となっています。
そのため、当時の空気がわからない現代人にとってすると、理解できない部分も多いでしょうし、条件反射的に気持ちの悪い話だ、と敬遠してしまうかもしれません。
記事の後半では、バンバンネタバレを書いていきますで、あえて内容を大づかみでお伝えしますが、本作品は、援助交際を取り扱った作品ではありますが、その当時の女の子たちの青春や友情の物語であり、どこまでも、揺らいでいく日常の価値を再発見する作品になっているところに、魅力があります。
特に、庵野秀明監督はこの空気感を実写に取り出すことに卓越しており、自分の価値観であるとか、あたりまえにあると思っていた友情を、危なく崩してしまいそうになる瞬間を見事に描いています。
戻ってこれなくなりそうな気持ちになりつつも、最後にはちゃんとした着地点がある作品になっていますし、作品を最後まで通した時の、本作品のエンディングは見事なものになっていますので、ぜひ記事を最後まで読んでいただきたいと思います。
援助について
「ラブ&ポップ」のメインの話は、女子高生である裕美が、友達と水着を買いに行って、戻ってくるまでのほぼ一日を描いたものになっています。
事前の話も回想という形で描かれていますが、メインとなるのは彼女がたった一日で体験した内容となります。
さて、援助交際といえば、いわゆる、おじさんにお金をもらって若い人(性別は関係ない)が、何かをする行動全般といったところでしょうか。
肉体的なことばかり考えてしまう人もいるかと思いますが、「ラブ&ポップ」においては、どちらかというと、過剰にフェティッシュな部分に焦点を当てています。
たとえば、裕美が友人と二人で坂道を歩いていると、モロ師岡演じるオヤジに声を掛けられます。
「ねぇ、君たち。飯、付き合わない。二人で1万ずつ」
「名刺、見せてもらえます?」
「警戒するね」
裕美の友人である知佐こと、サチは、慣れた感じです。
名刺なんてものに何の身分証明も保証もありはしませんが、彼女たちならではの防衛手段であると同時に、彼女が、そのようなことでお金をもらったことがゼロではないことを示唆しています。
主人公である裕美は、テレクラ(といっても、今は廃れてしまっていますが、出会い系アプリの電話版だと思ってください)を使ったことはあるものの、怖くなってやめています。
裕美という存在は、自分の価値を金銭に変えたりすることについて、まだふらふらしている状態となっています。
もちろん、友人たちが悪いというわけではありません。このような環境に彼女たちは置かれており、それに対して、特別な罪悪感をもっていない、というところがポイントではないでしょうか。
さて、この時点で拒絶反応を示す人もいると思いますので、もう少しだけ当時の情勢について考えてみます。
制服少女たちの選択
「ラブ&ポップ」とはまったく関係ありませんが、援助といえば、社会学者である宮台真司氏を除いてしまうわけにはいきません。
「制服少女たちの選択」を発表し、センセーショナルな少女たちの実態を明らかにした人物でもあります。
自分を売るということが、果たして本当に悪いことなのか。実際にそのような行動をしている若者たちに取材をした中で作られた内容となっており、宮台真司を知っている人物であれば必読の一冊となっているところです。
本記事においては、詳しい内容は書きませんが、当時の若い一定の人たちの中では、お金を稼ぐということについて、もっと強かであったことが書かれているということだけ押さえておいてください。
もっとも、宮台真司氏は、その後の社会情勢の変化に伴って、意識の変化が起きてしまっていることも後述していますが、それはまた興味の出た方は別途お調べいただきたいところです。
さて、「ラブ&ポップ」に戻りますが、そんな強かな人になるかどうか、といったところで、倫理や友情や日常の中で揺れ動く裕美は、違和感を感じながらも、変な人たちからお金をもらってしまいます。
しゃぶしゃぶオジサンの気持ち
さて、ここからはネタバレに入っていきますので、ぜひご覧になってから、もやもやした気持ちを晴らすために本記事を使っていただきたいと思います。
本作品では、様々なおじさんたちがでてきます。
モロ師岡演じるしゃぶしゃぶご馳走おじさんは、本当に女子高生に1万円ずつはらって、しかも、高級しゃぶしゃぶをたべさせるだけで、本当に満足してくれるのでしょうか。
肉体関係があるんじゃないのか、と思うところですが、本作品では、後半にならないとでてきません。
その理由については後述します。
さて、モロ師岡演じるオヤジは、突然説教を始めます。
「おまえらなぁ! 人の話を聞かないからダメなんだ! 今の10代の終わりの時期が人生でどれほど大切なのか。ようするにわかってないんだ!」
突然人が変わったかのように、怒り始めるのです。
それに対して、
「おやじが言っていることは案外、間違いではない。でも、あんたに言われたくないよ、と思った」
と裕美は心の中でつぶやきますが、まぁその通りです。
おやじは、お金と食事をご馳走する代わりに、説教をすることで快楽を得ているのです。
そこをちゃんとわかっているから、友人のサチは、ビールを持ちながら「まぁ、お一つ。私たちダメですかねぇ」と言いながら、お酌をするのです。
サチは、オヤジの本質的な欲求をよくわかっているのです。
まっすぐな人間への罪悪感
裕美のもう一人の友人である奈緒は、誰かに頼まれると断ることのできない女の子です。
そんな彼女が、捨て身でトライしていることが、パソコンとダイエット。
彼女は、自分のお小遣いをためてパソコンを買っていたのですが、裕美はそのことを聞いて、罪悪感を感じます。
裕美は、おやじに援助してもらったお金をつかってカメラを買っており、それを使ってなんとなく撮影をしていたためです。
やりたいことがあって、それのために健全にお金をためて、それをつかって自分のやりたいことをやる。
そんな彼女をまぶしく思う一方で、おやじたちは、そんな彼女の努力をゆさぶってきたりします。
「バイトのつもりで付き合ってくんないかな。一度食事に付き合ってくれればいいんだけど。この近くにマンションがあって、僕の作った手料理を。一人5000円でどう? 7000円?」
「食べるだけでいいんですか?」
ちょっと、反応してしまうともうダメです。
結局、二人はそのオヤジの手料理を食べ、ダイエットを頑張っているはずの奈緒は、そこで気持ちが折れて、食べまくってしまいます。
子供を助けるような立場にいるはずの大人が、子供たちを堕落させていくのです。
傾くココロ
渋谷で水着を選んでいる裕美でしたが、時間が余ったため、宝石ショップへと足を向けます。
そこで裕美は、インペリアルトパーズがはめ込まれた指輪を見つけるのです。
12万8000円。
「心がドキドキする。心がドキドキする。まるで、初めてのキスの時の瞬間のように。心がドキドキする」
それを見ていた裕美に、友人たちは言うのです。
「裕美、今すぐ欲しいんじゃないの?」
一介の高校生がおいそれと払える金額ではありません。
その質問自体がナンセンスに思いますが、仲間由紀恵演じるちーちゃんは言うのです。
「あのおやじまだいるかな。下にさ、妙にオシャレなおやじがいてさ。しゃぶしゃぶ食べるだけで、二人に5万払うって」
みんなでそのオヤジを探し出し、4人で12万円を払うように、ちーちゃんは話をつけてしまうのです。
仲間由紀恵演じるちーちゃんは、裕美の友達の中で唯一、積極的に年上を狙っており、一人でお金を稼いだり、大人たちに対して恋愛をしていたりします。
裕美は、そんな友人たちから少しずつ影響を受けて、悪いほうへと傾いてしまうのです。
おやじたち
続いて、主人公たちに援助を行うオヤジたちを紹介していきます。
しゃぶしゃぶをご馳走しつつ、説教をかますオヤジは、先ほど説明したとおりですし、自分の手料理を食べるだけで7000円払う、という吹越満演じるオヤジも、意味がわからないところです。
そして、3人目が、もっとも理解のできないオヤジです。
ダンディな俳優さんである平田満演じるオヤジは、カラオケで裕美たち4人を歌わせたあと、医療用のゴム手袋をし、ピンセットでマスカットをつまむと、一人一人にそのマスカットを一粒ずつ渡します。
「皮は剥かなくていいから。くちゃくちゃと何回か噛んで、手の上に吐き出して。名前を教えてよ。本名じゃなくていい。適当な名前を考えて、それを言ってよ」
正直言って、まったく意味がわかりません。
彼はその4粒を手に入れるために、12万円を彼女たちに払うのです。
そのオヤジは言います。
「本名じゃなくてもね。自分で考えた名前は、自分の名前なんだよ。わかるかな。それは、別のもう一人の自分の名前なんだよ」
「ラブ&ポップ」の中でのクライマックスの一つは、まさにこの場面といっても過言ではありません。
そして、視聴者の気持ちも一端を、裕美が語ってくれます。
『私たちは、誰も、あの男の話題をださなかった。あの中年男のことは、理解できないし、理解したいとも思わない。ただ、この世の中には、女子高生が噛み砕いたブドウを、12万で買う人間がいる、という情報は私たちに残る』
まだまだ、踏み込んだ内容を紹介していきたいと思いますが、次回更新時に後編を紹介してまいります。
理解できないものに出会って、よくわからないけれど魂があるとすれば、その魂が汚されるような感覚というのが、「ラブ&ポップ」によって味合うことができるという点だけでも、ご覧いただきたいところです。
以上、エヴァ監督庵野秀明初実写作品「ラブ&ポップ」の感想&解説1でした!