ゾンビものの変化球。感想。「ゾンビーバー」
ゾンビものの映画というのは、タケノコのように増えてはなくなっていくのが世の常ではありますが、ジョージ・A・ロメロ監督がつくりだした「ゾンビ」をひも解くまでもなく、そこには時代の雰囲気や問題点が感じられるものです。
そんな中、酔っ払って記憶を失ってしまった男たちのハチャメチャな状況を、ミステリアス且つ、爆笑によってつくりあげた名作「ハングオーバー」シリーズのスタッフが多数参加しているというだから、これは、見てみるしかないだろう、と思うのも世の常ではないでしょうか。
たとえ、それが、あきらかにB級映画っぽい作品だとしても。
さて、冒頭で書くのもなんですが、本作品はB級ホラー映画が好きな人には面白いでしょうが、ゾンビ物とかB級と名の付くものに対して、愛着のない人は、見るためのモチベーションを保つのが難しいかもしれません。
そんな方のためにも、この記事をみるだけで十分なように書いておきますので、そのニュアンスだけでも感じ取っていただければと思います。
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ゾンビもの
ゾンビ物含むB級ホラー映画というのは、本当に数多く出回っています。
ちゃんとつくると製作費がかかってしまうものではあるものの、安く抑えようと思えば、かなり安くすませられるように設定できるのも魅力の一つでもあるためです。
さて、そんな制作サイドの事情はともかくとして、予算が安いわりにリターンが見込めるということの裏側として、やはり、わかりやすい点があることは否めません。
暴力描写。
エロ。
この2点がないB級ホラー映画は、メイン料理だけで前菜もデザートもないコース料理みたいなものでしょう。
B級映画である「ゾンビーバー」も、勿論この典型に沿ったものとなっています。
物語の前半で、なぜか、汚すぎる湖で女子大生3人が水着になり、あまつさえ、そのうちの一人は上半身を露出して泳ぎだしたりします。
現代の若者が、そんな小汚い湖で泳ぐのかは疑問ですが、視聴者的には、必要な措置に違いないのです。
一応、しぶい猟師風のおっちゃんが、「若い娘が、そんな恰好をしちゃいかん」と窘めるあたりは、バランスというか、視聴者への配慮を忘れていません。
ちなみに、本作品は、「ハングオーバー」スタッフがつくっているから、ということもあるでしょうし、そもそも、予算がかかっていない感じが伝わってくるのもあるのですが、コメディゾンビ映画といって間違いのない作品となっております。
むしろ、これを、ちゃんとしたゾンビものとしてみると、肩透かしを食らいますのでご注意ください。
内容について
この時点で、だいたい見る気をなくしてしまった方も多いかもしれませんし、俄然みたくなった人もいるでしょうから、改めて内容をかいつまんで説明します。
非常にくだらない、でも、実は危険なラインの世間話をしている廃棄物処理運搬のトラック運転手たちが、廃棄物を一個落としてしまうところから、騒動が始まります。
物語のオチをつけるためのトラック運転手なので、物語そのものには関係しません。あくまで、この人たちの不注意で、川にいるビーバーたちが、ゾンビになった、というだけの話です。
男女関係でぎくしゃくしてしまった友人を元気づけるために、携帯の電波も届かないところへと気分転換に出かけた女性3人。
浮気した男を忘れさせるという名目で、山奥に行ったはずなのに、結局、それぞれの恋人たちがきてしまい、あっちこっちから性に励む音が聞こえてきます。
そんなときに、ゾンビーバーがやってきて、次々と襲われ、人間までゾンビーバー化してしまいながらも、脱出しようとする、というのが、すべてです。
細かい内容については、気になった方はご覧いただきたいところですが、本記事においては、ポイントだけ解説&感想を述べていきます。
参考映画
本格的にゾンビーバーたちに襲われるあたりは、スティーブン・スピルバーグ監督による傑作「ジョーズ」風です。
ゾンビがビーバーとなっていますので、水陸両用というところがポイントです。
また、家の中に立てこもって云々というのは、冒頭でも書いたジョージ・A・ロメロ監督の「ゾンビ」を彷彿とさせますし、儀式こそしないものの「死霊のはらわた」を含む、だいたいの立てこもって戦うホラーものと変わらない構造となっています。
ホラー映画を何回かみてきた人であれば、十分に見てきたであろう内容です。
さて、ゾンビもの含むホラー映画ものというのは、どれだけ微妙な作品であったとしても、なんとなく時代性が反映されているものですので、そのあたりをちょっと、みていきたいと思います。
いまふう
今の時代だと、電波の届かないところへ行く、というのも理由付けが難しいものです。
SNSで浮気現場がアップロードされたことで、恋人同士の仲が悪くなった、というのが「ゾンビーバー」における物事の発端となっています。
大学生たちが、乱痴気さわぎに興ずるというのも、まぁ、アメリカだからそんなものかな、と思ってしまうところ。
ですが、ここからはネタバレですが、本作品にでてくる登場人物たちは、とにかく救いのない人物ばかりです。
いわば、本作品は主人公不在のゾンビ映画といえるでしょう。
ゾンビ物では、あきらかに死ぬだろうなと思うやつがいます。このあたりのお約束というのがありまして、「キャビン」という映画では、そのあたりのホラーものの映画のお約束を逆手にとった作品として有名です。
映画内で、性的な行為に及ぶと死ぬ、というのがあったりするので、彼氏に浮気された女の子は死なないのかな、と思うところですが、あっさりゾンビーバーになります。
行為の最中にゾンビーバー化する女子、もう、楽しむところがどこかわからなくなるところですが、とにかく、登場人物の知能指数が低いのがたまりません。これもまた、お約束というものです。
ゾンビの形式
作りもの感あふれるゾンビーバーですが、それ自体はあまり不満はありません。
CGでリアルなものをみたところでしようがないですし、かつての特殊撮影が卓越していたころの時代のようなリアルを期待することもできないでしょう。
この映画は、あくまでコメディが前提となっていますので、そのチープさも含めて楽しむ必要があります。
唯一、ゾンビものとして面白いのは、人間ではなく、ビーバーがゾンビになるという点と、ゾンビ化した人間の口から、ビーバーのような歯が生えてくる、というところぐらいでしょうか。
ビジュアル的な面白さはあるものの、社会的な問題とか、人間の共通する恐怖とかにはまったく直結せず、なんだこりゃー、と笑えるところにこそ本作品のポイントです。
そして誰もいなくなった
この手の作品では、結局、お約束というものがありながら、誰が生き残るのか、というところが見どころとなっています。
ミステリーものでいえば、その犯人を当てることや、なんとなく誰だろうなと思いながらみていくとより没頭できるのと同じようなものです。
ゾンビーバーでは、本来、そうそうに殺されてしまいそうな女の子が最後まで生き残ります。
はじめとキャラクターかわってないか、と思うところではありますが、最後には足をひきずりながら、一人脱出に成功したかと思いきや、冒頭のトラックの運転手に轢かれて終わります。
そんな終わり方ありか、と思うでしょうが、コメディとしてパッケージングしているからこそ、これはゾンビーバーとして成立するのだな、と改めて思わせるオチでした。
さて、ゾンビーバーは77分という短い作品となっていますので、気軽に見ることができるのもうれしいところです。
ビックバジェットムービーと呼ばれる大予算映画もいいものですが、手作り感と古き良き時代を感じさせるB級ホラーというのも、肩の力が抜けていいのかもしれません。
以上、ゾンビものの変化球。感想。「ゾンビーバー」でした。