シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

重ねたSFを読み解け。感想&解説 映画「ミッション:8ミニッツ」

ミッション:8ミニッツ (字幕版)

いわゆるループものとされる作品は、映画表現のみならず、数多くの作品で使われるモチーフです。
代表的なものでいえば、ビル・マーレイが主演する「恋はデジャ・ブ」なんかは、嫌みな主人公が気が遠くなるほど同じ1日を繰り返すことによって、やがて、人間的に変わっていくことを描く作品となっています。
 
本作品は、ループものとしての要素を土台に複数のSF要素が盛り込まれた作品となっており、SF設定になれていない方であれば、わかりずらい部分もありますので、感想&解説をしてみたいと思います。
ネタバレありで話を進めていきますので、ご理解いただいたうえで読み進めていだきますようお願いします。
 

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8分間という短さ。

「8ミニッツ」は、そのタイトルの通り、8分間を繰り返すという点が面白いところです。
前述の「恋はデ・ジャブ」は、1日を繰り返しつづけますし、トム・クルーズ主演で話題となった「オールユー・ニード・イズキル」なんかも、一定の期間のループになっているところです。

 

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 ループものの面白さの一つとしては、何度も同じ状況を繰り返すことによって、主人公がその場に極端に適応することです。


「8ミニッツ」では、一回目と思われるループのときには、汽車の乗車キップがどこにあるのかもわからないで慌てるありさまでした。
目の前にいる女性のことも知らず、観客自身もどういう状況に主人公がいるのかもわからないで見ていくことになります。
しかし、突然の爆発が起こり、主人公がシステムの中で死に、それが、シミュレーターのようなところでの出来事であることがわかってくるのです。

主人公は、8分間の繰り返しの中でいったいどういう風に行動していくのか。
短い時間の中で彼がとるべき行動がパズルのようにつながっていく点は、他のループもの同様の面白さがありますし、8分間に限定されることでテンポよく進んでいく点が見ものです。

スリラー的演出

「父親に会わせてくれ」
と、主人公は言います。
ジェイク・ジレンホール演じる主人公スティーブンが、なぜ父親に合わせてほしいのか、ということもはじめよくわかりません。
子供なんだから、父親に会いたいのは当然なのでは、と思うところですが、そういった、演出含めてこの物語の構造にかかわっている点が、脚本としてよくできているところです。
 
閉じ込められている主人公。
自分の任務が明らかになるにつれて、彼が、実は死にかけの人間であることがわかります。
少なくとも、世間的には死亡してしまっていることを。
この作品の第一のSF要素は、ループ世界というものです。
そして、彼自身が閉じ込められていると思っている部屋は、彼自身の精神世界そのものであった、ということが明らかになる点も驚くところです。
 
SF設定一つでも混乱しそうになるのに、さらに重ねてくるのか、と驚きます。
 
彼自身が、対テロ用のプログラムの中の部品として組み込まれて生かされているという現実を知り、絶望しながらも、8分間の間に何度も死にながら、彼は疲弊していきます。

ループから抜け出すために

ヒロインであるクリスティーナも魅力的です。
ティーブンは、繰り返しの世界の中で彼女を好きになっていきます。
「8ミニッツ」の世界は、劇中でも説明されますが、過去の残像に介入しているにすぎないと説明されます。
とで、大どんでん返しの設定が明らかになってくるわけですが、少なくとも、物語の当初、これがすでに終わった世界であることがわかるのです。

ティーブンは、その事実を半ばわかりながらも、クリスティーナを事故現場から助け出したりするのですが、事実を認識すればするほど絶望していくのです。
また、この映画もそうですし、「恋はデジャ・ブ」でも、そうですが、何度も繰り返すことによって、モブだと思っていた人々に個性が見えてくるところが面白い点です。

「恋はデジャ・ブ」では、ビル・マーレイ演じる主人公は、他人に対してたいして興味のある人物でありませんでしたが、繰り返しの世界の中で、町中の人と仲良くなっていきます。
「8ミニッツ」でも、周りのお客がどういう人かがわかってきて、怪しそうに見えていたインド系の人が、たんに乗り物酔いがつらい、という人だったりして、ループする世界であるからこそ、その中の人物たちも生きている、ということがわかってくるところです。

そして、何度も繰り返すことによって、スティーブンは、犯人を見つけます。

ラストの設定

さて、ここからはいよいよ物語のラストにかかわるネタバレなのですが、 本作品は、過去の映像に恋をする男の寂しい物語ではありません。
古い館で、ホログラムに恋する男の短編小説というのがありましたが、「8ミニッツ」は、さらにSF設定を重ねることによって、今までの疑問も解消するつくりになっています。

過去の残像に介入するプログラムについて博士が説明したときに、疑問が芽生えた人もいるのではないでしょうか。
ティーブンは、ショーンという学校教師の男と同化しています。
ショーンの脳に焼き付いてのこっている8分間を繰り返すことによって、テロ事件の犯人を見つける、というのが本作品の表向きの内容となっています。
量子力学の話を持ち出されたところで、結局、スティーブンがみている光景は、ショーンという一人の男から生成された世界にすぎないはずです。

それを、列車の中にある銃の場所や、それぞれの観客の知られざる内面などが発覚していきます。
内面だけであれば、適当に作られたかもしれませんが、そこで犯人しかわからない事実と、現実が連動するというのは、どう考えても虫が良すぎます。
もっと何人もの観客の脳が使われていたり、知らない部分は不鮮明だったりすれば、まだ納得がいくところですが、量子力学という点だけでそこがぼかされており、つくった博士自身もそこまで深く考えていないのではないかと思うところです。

そんな設定が根底から覆されるのが、本作品のキモであるループ設定が、パラレルワールドへの関与が可能ということが発覚するところです。

パラレルワールド

パラレルワールド、いわゆる並行世界といった、可能性の世界として説明されるところかと思います。

本ブログで説明するところであれば、伝説的なゲーム「YU-NO 世界の果てで恋を唄う少女」における世界の考え方といってもいいでしょう。
ケーキを食べた世界と、食べなかった世界が同時に存在していて、且つ、それが、因果関係によってつながっている世界です。
また、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督における「ミスターノーバディ」なんかもSF設定の理解の一助になるかと思います。
8ミニッツは、一見、プログラムの中で完結している世界に見せていましたが、主人公が介入した分だけ、世界ができあがっていたことがわかります。
最後にスティーブンは、全員が助かり、笑顔になれる世界をつくり、そこで命を止めます。
プログラムだけで言えば、その世界は真っ暗になるか、意味が消失してしまうところでしょう。
ですが、並行世界が生まれることによって、スティーブンは、その並行世界の中で生きることができた、というのが本作品のラストとなっています。
 
しかも、過去にも戻っているため、発生する出来事までわかっているというおまけつきです。
もちろん、主人公がそのまま死んでしまった並行世界もあるかもしれませんが、我々が映画の中でみている世界のスティーブンは、ショーンの頭の中に入りこみ、クリスティーナとともに生きることになったのです。
ショーンがちょっと、かわいそうに思いますが、並行世界のショーンは、きっと、クリスティーナと生きているに違いないのです。
 
本作品は、単なるループものにみせながら、パラレルワールドの世界も取り入れた、SF設定として面白い組み合わせてを行っているのが特徴です。
時間も短いため、さくっと見ることができますので、SF設定がちょっと理解しずらかった場合にも、もう一度見直すのが楽な作品となっています。
 
以上、重ねたSFを読み解け。感想&解説 映画「ミッション:8ミニッツ」でした!
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