未来少年コナンの原型? 高畑勲初監督作品/太陽の王子 ホルスの大冒険
高畑勲の初監督作品であり、宮崎駿が作品に本格的に関わった作品として有名な「太陽の王子 ホルスの大冒険」。
公開当初、興行的には失敗とされながら、後に有名となる実力派の人間がかかわっている本作品について、感想を述べてみたいと思います。
スポンザードリンク
?
物語の概要
本作品は、アイヌ民族の口承伝承であるユーカラにヒントを得た作品となっており、そのこともあってか、主人公のお供としてクマがついてきたりしています。

カムイ・ユーカラ―アイヌ・ラッ・クル伝 (平凡社ライブラリー)
- 作者: 山本多助
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1993/11/01
- メディア: 新書
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
岩男の腕に刺さっていた剣をぬいた主人公ホルスは、父親の言に従って、村にいきます。
巨大な魚のせいで困っていた村を救ったものの、ヒルダという謎の少女が村にきたことで歯車が狂い始め、やがて、混乱におちいっていきますが、紆余曲折あって、太陽の剣を鍛えなおし、悪魔を倒して終わり、という冒険活劇です。
詳しくは語りませんが、アニメは子供の見るものという意識がつよかった当時の情勢の中で、大人がみれるアニメーションをつくりだそうとした東映動画における大変な意欲作となっています。
今の時代にストーリーだけみると、少し突飛に思えるかもしれません。
ただ、本作品には、人間の残酷さや誠実さ怠惰さを含めて描かれた作品となっており、決して今見たとしても古びるものではありません。
アニメーション
冒頭から、紐をつけた斧による戦闘シーンが始まります。
主人公のホルスは、何匹ものオオカミに襲われながら、すこしずつ追い詰められていきます。
アニメーションの動きには驚かされます。
巨大魚である大カマスと戦うシーンもありますし、子供達が輪になって踊るシーンの繊細さは、見飽きないものばかりです。
ちなみに、この子供達が輪になって踊るシーンなどは、高畑勲監督「かぐや姫の物語」でも同じようなシーンがあり、作品というのはどこかで関連性を持ちながら進んでいるものなんだと思わせてくれます。
当時は、ディズニーによるフルアニメーションが強い時代ということもあって、「ホルスの大冒険」でもその影響は随所にあります。
リミテッドアニメの動きも多分にありますけれど、見慣れていないとぬるぬると動く姿に驚くかもしれません。
ただし、製作当時は色々な制約もあったそうで、ほぼ全編にわたりクオリティの高いアニメーションが描かれているにもかかわらず、突然止め絵になってしまう場面があったりするのは、少し残念なところです。
未来少年コナン
本作品は、宮崎駿が本格的に作品に参加したという記念すべき作品の一つでもあります。
大カマスがいた岩なんかは、「もののけ姫」の犬神が岩を降りていくシーンにも似ており、随所に宮崎駿のセンスがうかがえる場面設計となっておりますし、後に影響しているであろうシーンが面白いです。
ストーリー面においても、その影響が感じられます。
特に、人々から離れて生活していたホルス。
彼の父親は、村での生活から離れてひっそりとホルスを育てていますが、ホルス自身の精神性は、後の宮崎駿の代表作の一つである「未来少年コナン」の主人公コナンに受け継がれているとみて間違いないのではないでしょうか。
船のようなものの中で生活している父親。
「未来少年コナン」のコナンは、のこされ島でおじいと暮らしています。彼らが住んでいるのは、かつて宇宙船だったものです。
おじいもまた死に際に島をでて仲間をみつけるように言います。
「太陽の王子 ホルスの大冒険」では、ホルスは村に行き人々を助け、コナンは、ラナという少女と出会うことで、大冒険へと動き出すのです。
ヒルダという女
さて、本作品のヒロインは悪魔であるグルンワルドの妹であるヒルダです。
「悪魔が村を滅ぼした。私一人が助かったの。でも、私には悪魔の呪いがかけられているの」
と、現代でいうところのメンヘラ的な気質を全快にさせています。
主人公との会話がまったく噛み合っていない場所も見受けられますが、キャラクターとしての個性は面白いです。
悪魔の妹として村を滅ぼそうとする役目と、心優しい彼女の気質の中で揺れ動く葛藤。
また、彼女の存在によって、村人たちは働くことをやめてしまい、村全体から活気が失われていきます。
自らの行動によって人々が不幸になっていく、という一方で、3歳になるマウニという少女に好かれることで、彼女は変わっていきます。
「歌ってよ。ヒルダが一番好きな歌」
「ええ、歌います。だめ、ごめんなさい。ヒルダには、本当の歌は歌えない」
人々を堕落させるための歌しか歌えなかった彼女は、マウニに歌ってあげることができなかったのです。
面白いのは、一見会話をしているようでまったく会話になっていなかったヒルダが、物語の終わり頃には、対話できるキャラクターとなっているというところでしょうか。
また、リスのチロとフクロウのトトの二匹の動物が、彼女の心の葛藤を現しているところが、みていてもわかりやすいです。
漫画映画
主人公はあくまでホルスですが、本当の意味での主人公は、ヒルダという運命に自ら立ち向かおうとした少女でしょう。
ホルスはまっすぐな少年であり、猜疑心の強い村人たちによって妨害されてしまうこともありますが、彼のまっすぐな心は少しずつ人々をかえていき、剣を鍛えなおすという点に収束していきます。
また、ヒルダは、悪魔の妹であるという運命と、裁縫すらできない、という当時の人たちであれば当たり前にできることもさせてもらえず、存在そのものが人々を惑わせるという葛藤の中で、自らの命すら投げ出す覚悟をもった強い存在へとかわります。
一見、子供向け映画に思える本作品ですが、作品がつくりだされた当時のアニメーション事情を含めて考えても、非常に先進的な試みの作品といえるでしょう。
1968年に公開された作品ではありますが、普遍的なものをもった作品となっております。
アニメーションの歴史の中でも、見ていて損のない作品となっておりますので、気になった方はご覧になり、見たことのある方は、是非今一度見返すと新たな発見があるかもしれません。
以上、未来少年コナンの原型? 高畑勲初監督作品/太陽の王子 ホルスの大冒険でした!
他の高畑勲作品は以下となります。