時間を止められたら、貴方は何をする?/フローズン・タイム
時間をとめて自由に好きなことができるとしたら、一体何をするでしょうか。
金銀財宝を盗み出したり、はたまた、自分の欲望を満たすために行動を起こすか、いずれにしても、ろくなことにはならなそうです。
「フローズンタイム」は、フォトグラファーでもあるシェーン・エリス監督がメガホンをとった作品であり、イギリス映画ということもあって、時間を止めながら非常に紳士的な映画となっています。
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物語の概要
物語そのものは、あっさりとしたものです。
美大生である主人公は、付き合っていた彼女と別れたショックで不眠症になってしまいます。
寝ることができない時間で、スーパーのバイトをすることにした彼は、ある日、時間がとめられるようになります。
とめられるようになった時間の中で、彼は、女性を脱がしてデッサンをとり、やがて、同じバイト仲間である女性に恋をして、紆余曲折あって一件落着で終わります。
このあらすじを見て、もうやめた、と思う人もいるでしょう。
ストーリーだけ追ってしまうと、それだけの作品ですが、フォトグラファーである監督の作品ということもあり、映像的な構図や美しさは面白いです。
けだるさの表現
まず、主人公がなぜ時間を止められるようになったのかを説明しておきます。
深夜のスーパーというのはかなり暇なようで、主人公のバイト仲間たちは、とんでもない人たちばかりです。
一昔前に、ツイッターで大騒ぎをした若者たちの騒動をそのままやっているような人たち。
店長は、従業員を私物化しており、フットサルを従業員に無理やりやらせてみたり女性従業員を口説いていたりと、ありがちな酷い職場となっています。
暇な時間をどうやって過ごすか、というのが彼らの主題であって、主人公が好きになった彼女シャロンは、時計をみないことで時間の経過を早くしようと試みています。
異常な人たちにみえるかもしれませんが、彼らは、けだるい時間を早く終わらせたいのです。
時間をとめる、というSF設定はでてきますが、一種の駄洒落みたいなもので、あまりに時間が過ぎるのが遅く感じてしまうあまりに、主人公は時間をとめてしまうというギャグなんだかなんだかよくわからないままに能力となっています。
止めた時間の使い方
冒頭でも書きましたが、美大生の主人公ベンは、時間を止めてやることが女性の服を脱がせて、デッサンをすることだったりします。
十分ヘンタイ的といえなくもないですが、彼は、美に対して忠実な存在なのです。
物語の冒頭でも、彼は自分のおもったようにデッサンができないでいるシーンがあります。
お世辞にも美しいとはいえない中年らしき裸の男性をみんながデッサンしているのですが、モデルの男性はしきりにおならをします。
主人公からは、お尻しかみえない状態となっており、彼は、その向こう側にいる女性の顔をデッサンして先生に注意されてしまいます。
彼は、美を心行くまで描きたいにもかかわらず、それが叶わなかったのです。
それを、不眠症からいきついた時間停止能力によって、叶えることができたのです。
原題の意味
原題は「CASHBACK」です。
不眠症で眠れなくなって時間をもてあますから、キャッシュバック(お金に変換する)といった意味合いでつかわれています。
単に余った時間をお金にかえる、という映画としてとらえるためには、本作品はあまりに暗い映画です。
彼は、失恋によって空いた穴をキャッシュバックしたというべきではないでしょうか。
止めた時間をつかって永遠とデッサンを描き続けました。
彼女と別れたことによって得た時間や悲しみを、彼はキャッシュバックして、芸術へと転化していった。
本作品は、たんに眠れないことではなく、芸術とはどういう風に変換していくことができるのか、という話なのです。
眠れない映画
ちなみに、眠れなくて辛い映画というのも紹介してみたいと思います。
本ブログでも既に紹介した、マシニスト。
ネタバレするので書きませんが、とあることをきっかけに不眠症になってしまった男が転落していく物語を描いています。
不眠症の原因から逃げてしまった人間というのは、恐ろしいことがわかる作品です。
見ているとこっちまで眠くなりそうな作品として有名なのは、名優アル・パ・チーノ主演、ロビン・ウィリアムズやヒラリー・スワンクなど豪華な俳優陣による「インソムニア」です。
不眠症の刑事がアラスカの白夜による影響や事件のせいで眠れなくなったり、殺人鬼としてのロビン・ウィリアムズの演技の凄さ。
一見の価値のある映画です。
あとは、ホラー映画で「エルム街の悪夢」でしょうか。
夢の中で殺人鬼に殺されると死んでしまう、という多くの子供達を眠らせなくさせた恐ろしい映画です。
13日の金曜日にはよくロードショーで流れていたものですね。
眠れなくなることで影響のでる映画が多く題材としてある中で「フローズンタイム」は、時間停止能力をつけるという点で、ある意味斬新な内容と思えなくもなかったりします。
美に対する意識
本作品は、美大生の主人公の話であり、フォトグラファーの監督ということもあって、構図は際立っています。
グリーンピースが床にちらばっている姿ですら、なんだか、美しくみえるから不思議です。
物語のラストの中で、雪が降る中を時間停止するシーンがあります。
その美しい一瞬を映像にするというところでも、映像的な美しさを感じられる作品となっています。
本作品は、主人公の美に対する意識や、時間が動かないようなどん底にいたとしても、いつか、動き出すという前向きなところもある映画となっておりますので、窒息しそうな憂鬱を感じたときにみてみるといいかもしれません。
以上、「時間を止められたら、貴方は何をする?/フローズンタイム」でした!