ウエストワールド感想&考察 押井守的な素晴らしさ。J・J・エイブラムス
人間と見分けがつかない精密なロボット達を、どんな目に合わせてもいいと許されているアミューズメントパークがあったとしたら、人はそこでどんな風に過ごしてしまうのでしょうか。
あるものは正義の味方となり、あるものは悪役として非道の限りを尽くす。
あらゆることが許される世界の中で、人々は自分の本当の姿を知ることになります。
さて、そんな表面的な話のみならず、深いテーマ性を抱えているのがHBOの海外ドラマ「ウエストワールド」です。
主に映画を紹介するシネマトブログですが、海外ドラマも紹介し、感想&考察してみたいと思います。
本作品のネタバレ的なものも多少含めていきたいと思いますが、主に読み取れるテーマをメインに語っていきたいと思います。
スポンザードリンク
?
攻殻機動隊
オープニングを見てまずおもうのは、「攻殻機動隊っぽいな」というところです。
ちなみに、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」といえば、押井守監督の代表作であり、ジャパニメーションというものの代表作としても絶大な人気と影響力を誇る作品です。
「マトリックス」シリーズをつくったウォシャウスキー姉妹(当時は兄弟)監督が攻殻機動隊を参考にしたというのは有名な話ですし、国内外問わずに大きな影響を与えていることは間違いありません。
また、2017年には、スカーレット・ヨハンソン主演でハリウッド映画化されたのは記憶に新しいところです。
攻殻機動隊の有名シーンの一つとして、義体と呼ばれる人口の肉体が作り上げられていくオープニングがあります。
その精緻な映像、なじみのない人造の身体が、作り出されるシーンをみせられることによって血肉を持っていく姿がわかると共に、世界観へと没入に誘導する素晴らしいオープニングです。
正直、ハリウッド版の「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、単体で見る分には悪い作品ではありませんでしたが、押井守監督による攻殻機動隊と比べると見劣りすると言わざるえません。
しかし、「ウエストワールド」のオープニングは、押井守監督による攻殻機動隊を実写化したならば、まさにこういうのが見たい、といった映像なのです。
美しい馬。
人。
ピアノの鍵盤を叩く構造物むきだしの手。
目の虹彩が作られていく動きや白い液から浮かび上がる人体などは、「ゴースト・イン・ザ・シェル」に求めていた映像そのもの。
その点に共感していただける方は、きっと少なくないと思います。
そんな前提のもと見ていることもあるかもしれませんが、「ウエストワールド」には、押井守監督が前面にだしていた、機械と人間の違い、意識とは何か、といった押井守ワールドに不可欠な要素が詰まった作品に見えるのです。
ロボットと人間の違い
「ウエストワールド」は、人間と見た目がまったく変わらないロボットがでてきます。
物語の中で、初期の頃は機械としての構造物でできあがっていますが、物語内の後半の時代では、人間と見分けのつかない内臓や骨格となっているのです。
(といっても、機械の身体がでることはほとんどありません)
本作品は、物語がかなり前後するつくりになっているので、初めはなかなか理解できないところですが、物語の構造がわかるに従って、設定も含めて楽しめるようになっているところが面白いです。
この作品の中のロボット(ホスト)は、パーク内で殺されると、怪我を治療され、記憶を消去されて戻されます。
ホスト(ロボット)たちは、記憶を消され、シナリオに沿った動きをさせられることで、日々を過ごし、町にやってきた人たちをもてなしています。
彼らの人生は、壮絶です。
楽しみのために殺され、酷い目に何度も合わされます。
記憶を消されるため、学習することもできない永遠の牢獄が「ウエストワールド」なのです。
ホストたちは、記憶を消されるだけではなく、記憶を捏造されてもいます。
押井守「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の中でも、ゴミ回収の作業員が、電脳をハックされて犯罪に加担させられています。
つかまった彼は、取調べの中で娘や妻について語りますが、彼は独身であることがわかります。
記憶を書き換えられたとしたら、見ているものが書き換えられているとしたら、本当に自分が存在しているといえるのでしょうか。
機械の身体に意識は宿るのか、ということも重要なテーマです。
何度も壊され、リサイクルされたホストたちは、膨大なエラーや情報によって自我のようなものが芽生えます。
しかし、自分の境遇に疑問を感じたものは、廃棄されていくのです。
自分達で作ったものとはいえ、意識が芽生えているかもしれない存在を壊してしまっていいのか。
「ウエストワールド」は様々な問いかけを行ってくるのです。
人間の欲望が見えるとき
「ウエストワールド」には何人かの主要キャストが登場します。
その中でも、特に有名で存在感を強くだしているのは、アンソニー・ホプキンスではないでしょうか。
「羊たちの沈黙」で、天才的な犯罪者ハンニバル・レクター博士を演じたことで一気に知られるところとなった役者です。
その彼が、「ウエストワールド」においては、パーク内のシナリオを総括し、ホストたちを作り上げた人物として、辣腕を振るいます。
創始者の一人として、見識のある人物であるように描かれますが、物語が進むにつれて、レクター博士を彷彿とさせるような強烈な人物であることがわかっていくのです。
彼が、いったい何を作り出そうとしているのか、そのあたりも非常に見所です。
パーク内では、銃で撃たれても怪我をすることはありません。
エド・ハリス演じる黒服の男は、30年以上もウエストワールドに通う常連です。
大富豪しかいくことのできない高額な遊び場であるウエストワールドですが、そこに通い続ける大富豪として、彼は、ホストたちを次々と殺していきます。
ウエストワールドでは、どんな人物であったとしても、ロボット達を通して、なんらかの欲望を開放されてしまいます。
何をしても、自由。
人間の本質が醜く見える世界なのです。
その中で、抗おうとする人物もいます。
この醜くも美しい世界
「醜いという人もいる。無秩序だという人も。私は美しいと思う。私達の人生には意味があるはず。目的も」
ロボットである、ドロレスは言います。
何度も何度も。
何度殺されても、同じ朝を迎えます。
ウィリアムという若者は、自分の結婚相手の兄に連れられてウエストワールドに来た初心者です。
この世界は何をしてもいいので、酒を飲み、女性型ロボットを酷い目にあわせたとしてもかまいません。
一方で、そんな悪役たちを倒し、家族に頼れる父や恋人として自慢することもできる世界です。
現実世界で人を殺すことができなくても、ウエストワールドならそれが許される。
許されるからといって、殺していいのだろうか。
ウィリアム青年は、悩みながらドロレスという女性型ロボットに惹かれていきます。
「僕は自分を偽ってきた。それがずっと望んできた人生だ。偽る必要のない人生を経験してしまった。実感のある人生を。いつわりの人生にはもう戻れない」
ウィリアムは、他人に対して従順で、欲望のない人物であったと語られますが、ドロレスを助けるために殺人(ロボット)する中で、心が変質。いや、本来の自分が浮き彫りにされていくのです。
「僕はこの物語の本質を知りたい」
「私は、後先考えずに生きていたいの」
物語の外から来たウィリアムと、物語の中で生きているドロレス。
ロボットと人間に愛が芽生えるのか、というファンタジーも楽しむことができます。
ループする世界
さて、後編に行く前に、余談です。
押井守監督の有名作品の中でも際立っているものの一つに「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」があります。
高橋留美子原作のビューティフルドリーマーは、諸星あたるという主人公が、宇宙からやってきたラムちゃんに好かれてしまいながら、事件を起こすドタバタラブコメディの元祖です。
主人公は、自らが女好きであるということもあって、自分のことを好いてくれるラムちゃんに素直になれないという構造の中で、物語は進んでいきます。
「ビューティフルドリーマー」という作品は、学園祭の準備している時間を何度も繰り返すという構造の作品です。
ラムちゃんがずっと、このまま楽しく過ごしたいという願いを受けて、何度も何度も学園祭前をループしてしまうという楽しくも恐ろしい物語なのです。
ですが、主人公達は何度も繰り返されるループの中で、違和感を覚えて、世界はどんどんおかしくなっていくのです。
うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー [デジタルリマスター版] [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2015/01/21
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログ (35件) を見る
さて、「ウエストワールド」に戻りますが、ホスト(ロボット)たちは、記憶を消去されること、シナリオに沿って思考することになることから、プレイヤー(お客)からの干渉を受けなければ、毎日同じ行動をします。
かならず、同じように缶を落としますし、同じように争い、同じように死ぬのです。
また、人間とかわらない見た目の彼らは、違い(境界線)なんてものがあるのか。
物語の中でも、ちゃんと切り込んでいるところは、脚本のすごいところです。
後編では、「ウエストーワールド」が、創作者とお客の関係について、また、人間の業についても言及されているという点を指摘しながら考えてみたいと思っております。
以上、ウエストワールド感想&考察1 押井守的な素晴らしさ。J・J・エイブラムス
でした!!
後編に続きます。