松方弘樹刑務所シリーズ最終作 『強盗放火殺人囚』(1975年)
今回は山下耕作監督『強盗放火殺人囚』を取り上げたいと思います。
なんと東映らしい直接的かつ刺激的なタイトルでしょうか。
しかも併映作品が『東京ディープスロート夫人』というちょっと頭がどうにかしたんじゃないかという素敵すぎる題名です。
この頃の東映はイケイケドンドンだったんですね~。
松方弘樹×若山富三郎、二人は凶悪犯!!
さてさて、松方弘樹アニィには俗に「松方刑務所三部作」と呼ばれる主演作品群があります。三作はそれぞれ独立しており、繋がりはありませんし、作品のカラーも異なりますがどれも見ごたえがあり、隠れた人気シリーズとして一部の映画ファンを楽しませています。
本作はこのシリーズの最終作で一際異彩を放つ出来栄えとなっております。
主演は松方弘樹、逃走の相棒として若山富三郎が加わり、コメディ成分も多めです。
松方は殺しをやった囚人で模範囚、一方、若山は懲役50年に迫り10人近くをぶち殺した凶悪犯として長年収容されています。
松方は、ヤクザ組織に頼まれ刑務所の仲間とともに医大の入学試験用紙を不正に外へ運び出す手伝いをしています。
スポンサードリンク
?
仮出所が迫った松方に対しやくざたちは、彼が「裏仕事」から抜けてしまうとこの荒稼ぎができなくなってしまうので身請け人の彼の妻を脅し、仮出所できないように仕向けます。
その後、松方と若山を移送中の車がやくざに襲撃され、そのどさくさにまぎれて二人は逃走します。
四国に住む若山の生き別れの娘(かどうかは不確か)と成功者として再会したり、松方の妻と合流して、自分の仮出所を無駄にしたやくざ組織のドン(この遠藤太津朗の相変わらずの悪い演技が素晴らしい!)の娘を誘拐して脅迫するなど、この世の借りを返していきます。
ついにドンの家に放火し、金庫の金を奪い、ドンを射殺した松方でしたが同時に若山も銃撃されて傷ついてしまいます。
松方の妻は若山のおっさんを捨てて二人なら警察の手から逃げ切ることができると彼を説得します。
若山のおっさんと、愛する妻。
果たして松方はどちらを選んだのでしょうか?
脚本家・高田宏治節が冴え渡る
高田宏治といえば、明石家さんまも大好きな『まむしの兄弟』シリーズのメソッドを作り上げるなどやくざ映画にコメディの要素を組み込むのが得意な脚本家です。
本作でもその手腕は発揮されており、特に前半部分のコミカルなギャグは見ていて単純に面白いです。
高田脚本の特徴として、「人情・女の情念」が作品の世界に入り込むという点も挙げられます。
上に挙げたような若山が娘と再会するシーンなど、『まむしの兄弟』とか『トラック野郎』に通じるような親子の情の世界観が広がります。松方の妻と、三人で逃避行するというのも面白い部分です。
通常、やくざ映画は極力、女性の存在を影の部分として取り扱い、積極的に前面には押し出してきませんでした。そもそも90分の上映時間でやくざとそれに絡む女性を全て描ききるのは不可能です。しかし高田は積極的に極道世界の女性を描くことで、東映やくざ路線の新たな道を切り開こうとしました。それが『北陸代理戦争』(1977年)や後に脚本を担当することとなる『極道の妻』シリーズ(1986年)に繋がります。
そんなわけで本作でも妻の存在が他のやくざ映画よりも強いのですが、彼女の深い内面を描くという部分までは入りこんでいきません。
それにはこんな理由があります。
アメリカンニューシネマ『スケアクロウ』との関係
高田の意識にはジェリー・シャッツバーグ監督、アル・パチーノ、ジーン・ハックマン出演のアメリカン・ニューシネマの代表作『スケアクロウ』があったのです。
まさに松方と若山の二人は『スケアクロウ』に登場する二人の主人公の関係性と似ています。そのため、「女性」の役割が高田の他作品の中ではそこまで強くでなかったのではないでしょうか。
60年代後半からのアメリカン・ニューシネマの影響は他作品にも反映され、高田が脚本を担当した『まむしの兄弟 恐喝三億円』(1973年)などに見受けられます。
『強盗放火殺人囚』感想まとめ
そんなわけで本作はコメディタッチな部分、そして破滅的な部分という「上昇と下降」の運動が作品内に内包されているので、「あー、映画を一本みたなー」という満足感を得られることが出来るのです。
未見の方はタイトルで敬遠せずに、ぜひ観て下さい!
ただし、DVDは未発売ですのでGYAO!ストアなどで課金して観ましょう!
こちらは刑務所シリーズ第1弾の感想です。