映画は脚本なり~笠原和夫の脚本術~
『仁義なき戦い』シリーズや『県警対組織暴力』でおなじみの脚本家笠原和夫はシナリオ制作の段取りについて以下のように整理しています。
1コンセプトの検討
2テーマの設定
3ハンティング(取材と資料収集)
4キャラクターの創造
5ストラクチャー(人物関係表)
6コンストラクション(事件の配列)
7プロットづくりと他者の意見聴取
8シナリオの執筆
今回はこのうち、「8 シナリオの執筆」に関して(とくに商業映画の場合を念頭において)笠原は細かく書いてますので、その中身をまとめるとともに上述の『県警対組織暴力』では具体的にどのように表現されているのか、実例をあげてみていきたいと思います。
娯楽映画の「骨法十ヶ条」
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1 コロガリ
「転がり」。筋が円滑に進行していくことをあらわす。本筋だけが前へ前へ転がるように進んでいくのは良くないとのこと。ドラマの「出」、役の「出」、つまりファーストシーンが重要。
スマートな格好をした刑事久能(菅原文太)が、広谷組のチンピラを広島弁で恫喝し、敵対する組への襲撃をとめずに煽るという衝撃的なシーン。
悪徳刑事の久能の性格をきっちりと描いている。
2 カセ
主人公の運命、宿命。例として身分違いの恋などがあげられる。
適切な「カセ」が設定され、波乱や逆転の成り行きである「アヤ」が効果的だと面白いドラマになる。
久能は刑事であるがヤクザである広谷(松方弘樹)と持ちつ持たれつの関係にある。自分が信じられる男との共闘。果たしてこの関係は破綻しないのかどうか、という点。
3 オタカラ
主役が守るべきもの、獲得しようとするもの。具体的な物でもあるし、観念的なものでもある。
広谷との友情。
昇進も諦め、家族も失った久能にとっては、広谷の「旗をもつ」ことを最も大事なことと考えている。
4 カタキ
敵役のこと。「オタカラ」を奪おうとする相手。主人公の内面的なトラウマ、劣等感などの場合も。
県警上層部、政治家、企業らの癒着による権力構造。具体的にキャラクターでいえば、刑事の海田(梅宮辰夫)や、広谷と敵対するヤクザの川出(成田三樹夫)。
5 サンボウ
三方踏み割り。「正念場」。
進退極まった主人公が、性根をあからさまにし、運命に立ち向かう決意を示すこと。
組内の裏切りものを殺したチンピラをわざと逃がしたあとの取締本部のシーンあたりかと思われます。
6 ヤブレ
破、乱調。主人公が失敗したり、ボロボロになったりする場面。
ヤクザとの癒着を根拠に、海田により捜査班から外されるパート。ついに久能は広谷に便宜を図ることができなくなります。
7 オリン
(ヴァイオリンの音色がはいってくるような)抒情的なシーン。
広谷と久能の出会いの(回想)シーン。
また、久能の部下が病室で息を引き取るシーンもあてはまると思われます。
8 ヤマ
ヤマ場、見せ場、クライマックス。本筋、脇筋含めてドラマの要素が集結し、登場人物が感情を爆発させる。
ホテルを占拠した広谷組と周辺を取り囲む警察のシーン。とくに久能が広谷と警察(海田)のあいだに入り、広谷を連行しようと表に出る場面。まさにクライマックスであります。
9 オチ
ラストシーン。
観客の期待通りに終わる場合と、予測もしない形でありながらもやはり期待に沿った終息となる場合がある。
交番勤務になった久能の衝撃的なその後のシーン(と、その手前に挿入されている、海田がある企業に転職したと思われるシーン)。
この場合は「予測もしない形でありながらもやはり期待に沿った」ほうですかね。
10 オダイモク
お題目、テーマ。テーマは当初設定したものが、書いている途中に変わっていくことがある。その場合は書いている途中に浮かび上がってくるものをテーマとするべき。
「権力の癒着とそれに翻弄される男たち」や「一筋縄ではいかない男同士の友情」でしょうか。
このページは、シナリオ作家協会編『笠原和夫 人とシナリオ』の「シナリオを志す人への手紙」を参考に書きました。
さらに詳しく読みたい場合、上記の本は入手困難なので、笠原和夫『映画はやくざなり』をお勧めします。こちらにも「シナリオ骨法十ケ条」として脚本作成術が詳しく書かれています。めっちゃ面白い本です。特にシナリオに興味がある方は映画をみるときの参考にもできますので、ぜひぜひご一読を!