ジョーカー予習。ヒーロー誕生秘話。感想&解説 「バットマンビギンズ」
映画「ジョーカー」が人気という中で、「バットマンシリーズ」見たことない方々を対象に、クリストファー・ノーラン監督によるバットマン3部作について解説してみたいと思います。
映画「ジョーカー」そのものは、バットマンというヒーローが不在の世界で、結果としてバットマン誕生のきっかけをつくることになったジョーカーと名づけられた男の物語となっています。
つまり、バットマン自体を深く知る必要は全然ありません。
ですが、ついつい「ウェインって何者」「バットマンはでてくるの? 少年はいったい誰」といった疑問がでてきて物語に集中できなくなっても残念なので、予備知識を知るために見るイメージで解説していきます。
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バットマン
バットマンそのものは、1939年に登場したキャラクターです。
たいていのスーパーヒーローは超人的な能力や身体性を獲得しており、その力をつかって敵を倒したりしますが、バットマンは異なります。
コスチュームに身を包んでいますが、超人的パワーが見につくものではなく、科学的な道具や体術を駆使して闘うキャラクターとなっています。
対比されるキャラクターとして、スーパーマンがいますが、彼とは真逆の性質をもっており、正義の為に動くスーパーマンに対して、バットマンは、両親を殺されたという復讐心を原動力に戦います。
「スターウォーズ」から変わった子供向けの作品をちゃんと真面目に作る、というスタンスの中で、クリストファー・ノーラン監督のバットマンシリーズは、一種の到達点といってもいい作品となっています。
さて、そんなバットマンシリーズの「バットマン ビギンズ」ですが、非常に神話的なつくりとなっているのがポイントです。
バットマンという英雄譚
「バットマンビギンズ」は、なんといってもクリスチャン・ベール演じるブルース・ウェインが、バットマンになる、というところが主眼となっています。
他のヒーローものでも、ヒーローになるまでというのは成長が楽しめて面白いところです。
マーベル系でいえば、スパイダーマンが、能力を手に入れてでスパイダーマンとして成長していくところに魅力があり、ヒーローになるまでがいかに魅力的か、というところもこの手の作品の楽しみ方だといえるでしょう。
さて、引き合いにだしたついでに簡単に説明しますと、よく、マーベル系はフォークロア、DC系は神話として解説されることが多々あります。
正確なことをいえば違う部分もあるでしょうが、ざっくりと考えてしまうのであれば、民間伝承はあくまで、一般的な人物が英雄になっていく物語と考えるとわかりやすいと思います。
平凡で自信のなかった少年が能力を身に着けたことで、世界を守るために奔走する。
一方で、神話のようなものは、もともとの血筋や家柄といった部分が重視されるイメージです。
生まれがはっきりとしており、その血筋ゆえに争いに巻き込まれたり成長を余儀なくされ、やがてその血筋を示すために立ち上がっていくような物語が多い。
バットマンのブルース・ウェインは、まさにそんな人物になっています。
生まれたときからお金もちで、両親は犯罪都市であるゴッサムシティについて慈善的な活動をしているけれど、両親が殺されたことで主人公は復讐に燃える。
ブルース・ウェインは、生まれはよかったものの、犯罪都市であるゴッサムシティの実情をあまり知らず、幼馴染のレイチェルに、通りを一本入っただけで貧しい人たちがあふれていることを知らされます。
両親を殺した犯人も、あっさり別の人物に殺されて、自分のお坊ちゃん加減に嫌気がさしたブルースは、その場にいた老人とコートを交換して、スラム街へと消えていきます。
「いいコートだ」
という老人の台詞で、ブルース・ウェインがどういう風にみられているかがわかるというものです。
本人は自分自身の裕福さにはまったく気づかないわけですが、身なりや立ち振る舞いだけで、その人物がどのような人物かというのは、わかってしまうものです。
血筋はよくても、お坊ちゃんで世間知らずの男が、どん底に落ちていく。
英雄譚においては、主人公はどん底の経験による挫折を経験し、そこから這い上がってくるというのが、定型となっているところがポイントです。
人はなぜ落ちるのか。
「這い上がるためだ」
と、主人公の父親は息子に言います。
何度も出てくるセリフとなっており、これが物理的にも心理的にも言い表した表現となっています。
失意の中でゴッサムシティから去った彼は、ラーズ・アル・グールなる人物と出会い、徹底的に鍛えられます。
ここで鍛えられたことにより、超人的な能力をもたないブルース・ウェインが、卓越した身体能力と精神力を身に着けた、ということがわかります。
また、このあたりの描写がなければ、スーパーマンと変わらないことになってしまいますので、物語内のリアリティを担保するのにも必要な場面となっています。
師匠であるラーズ・アル・グールとは考え方の違いにより一気に仲たがいしてしまいますが、ゴッサムシティを悪から救うため、彼は、ゴッサムに戻ることを決意するのです。
ただ、彼はまだバットマンになっていないのがポイントです。
彼がヒーローになるまで
ゴッサムシティに7年ぶりに戻った主人公は、執事であるアルフレッドや、父親の会社であるウェイン産業で左遷されていたフォックスの協力を得て、いわゆるバットマンとしての道具をそろえていきます。
ちなみに、ブルース・ウェインには、小さいころに井戸に落ち、そこで大量のコウモリに襲われたことがトラウマとなっています。
このことがバットマンというシンボルを考えるきっかけになり、且つ、自分自身がもっているトラウマを克服し、本当の意味でバットマンになるという視点を与えてくれます。
麻袋をかぶっているスケアクロウ。
精神にダメージを与える薬をつかって相手を発狂させてしまうというキャラクターですが、バットマンはあっさり負けてしまいます。
屋敷には火を放たれて、彼は再び闇へと落下してしまうのです。
ちょっとやる気をだしたくらいでは、なかなかヒーローになれない演出も素晴らしいです。
現実にヒーローがいたら、というところを、挫折を用いてギリギリでリアリティをもたせようとしているところは素晴らしいです。
「アイアンマン」ほどではないにしても、主人公が色々試行錯誤しながら自分の使う道具やコスチュームについて考えるシーンも一役かっているところです。
「目立たないように、1万個ぐらい買いましょう」
と、マスクの部品の購入について進言する執事アルフレッド。彼の存在こそが、バットマンシリーズにおいて、重要になってくるのがポイントです。
母親のようなアルフレッド
作品の全体を通していえることですが、執事であるアルフレッドこそが、ブルースにとっての父親であり母親である存在になっています。
「俺を見捨てないのか」
と、弱気になるブルースに対して、アルフレッドは
「決して(never)」と答える姿には心強さと安心感を覚えるところでしょう。
アルフレッドとブルースの関係を含めて、本作品は、どのようにしてヒーロー(バットマン)が誕生したのかを楽しめる作品となっています。
最大の敵といわれるジョーカーに関しては、「ダークナイト」の紹介時に書いていきたいと思いますが、現実とファンタジーのギリギリのラインをせめていく中で、ひずみとして誕生するジョーカー。
「バットマン ビギンズ」のラストで、それとなく示されているところが素晴らしかったです。
そう、巨大な正義が生まれれば、当然、それに対応する巨大な悪が発生する。
魔王がいるから勇者がでてくるように、魔王がいるから勇者がでてくるとも考えられるわけです。
もしも、映画「ジョーカー」を予備知識の為にみるのであれば、とりあえず、ビギンズをみておけば、なんとなくの世界観がわかると思います。
あくまで映画「ジョーカー」は、ヒーロー不在の世界になっており、ヒーロー誕生以前の世界になっているためです。
いわば、お話になるまえの話。
プリクウェル(前日談)としてみる見方もあると思いますが、神話がはじまる前の世界が「ジョーカー」なのです。
はじまったあとは、他のバットマンシリーズに繋がっていると考えればいいでしょう。
以上、ジョーカー予習。ヒーロー誕生秘話。感想&解説 「バットマンビギンズ」でした!