ネタバレ多少あり。感想&解説「ジョーカー」
映画というのはいつの時代も世の中を反映する作品が話題になるものです。
今回紹介する映画「ジョーカー」は、病気を患っていて、身体の調子もよくない母親と暮らしている男が、いかにして、バットマンシリーズで有名な悪役ジョーカーへと生まれ変わったかを描いた作品になっています。
いわゆるアメコミのバットマンのキャラクターではありますが、バットマンのことがわからなくてもまったく問題ないつくりになっていますし、色々なものから抑圧されていた主人公が解放されていく内容となっていますので、そのあたりをネタバレ少なめに解説しつつ、関連する映画も含めて紹介していきたいと思います。
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ゴッサムシティ
バットマンシリーズをあまり知らない人のために、一応解説しておきますと、本作の舞台となるゴッサムシティは、犯罪があたりまえに行われていたようなニューヨーク等がモデルになった街となっています。
ホアキン・フェニックス演じる主人公のアーサーは、ピエロの格好をして子供たちを楽しませたり、店の販売促進を手伝ったりする仕事をしています。
彼は、人を楽しませることを仕事にしているのですが、彼が社会的には弱者であることがわかります。
脳の障害によって、突然笑ってしまう病気にかかっている彼は、コメディアンを目指しているのですが、なかなかうまくいきません。
そんな彼が、同僚にもらった銃をきっかけに、狂気へと導かれてしまいます。
弱者に厳しい街
ピエロ姿をしたアーサーは、突然の暴力に襲われます。
彼らを見ているまわりの人たちは、彼のことを助けることはありません。
のちに、女性が地下鉄でからまれているのを、ピエロ姿のアーサーは、ほかのだれかと同じように見てみぬふりをしようとしますが、病気によって笑い始めてしまいます。
からまれていた女性は、アーサーの目の前を通り過ぎていなくなった後、彼は、再び暴力にあうのです。
社会的な弱者は叩かれてもいい。
誰もそんなことは言ってはいませんが、彼らの行動がそれを黙認してしまっているのです。
アーサーは、市が行っているカウンセリングを受けて薬をもらっているのですが、予算削減によりその通院もできなくなってしまいます。
追いつめられた彼は、事件の発端となる引き金を、引いてしまうのです。
ホアキンの演技
ホアキン・フェニックスといえば、宗教組織サイエントロジーを題材にした「ザ・マスター」で役者として返り咲き、「her 世界で一つだけの彼女」などに出演した俳優です。
「容疑者 ホワキン・フェニックス」を撮影するために、突然ラッパーになると宣言して、一時期出演ができなかった彼ですが、「ジョーカー」の演技は、今までの来歴を含めて狂気まるだしの素晴らしい演技となっています。
ひたすら笑い、そして、泣きたいのに笑ってしまうという難しい演技と、彼がジョーカーになったときの、開放的な演技は素晴らしかったです。
決定的なネタバレはしませんが、彼の人生は、知れば知るほどひどいものです。
「僕の人生は悲劇だと思ってた。でも、違った。僕の人生は喜劇だ」
チャップリンの有名なセリフで、「人生は近くでみれば悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」というのがありますが、それをもじったものと思われます。
作中でもチャップリンの名作「モダンタイムス」が映像として流れているところからも、オマージュがささげられているところです。
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映像も、彼の顔をアップで写したシーンが多いのは、はじめこそホアキン・フェニックス演じるアーサーの悲劇を映しているためであり、彼が気づいたあとは、引きの画が多くなっているように思われます。
キングオブコメディ
本作品を語る上ではずせないのは映画「キングオブコメディ」です。
ロバート・デ・ニーロ主演による作品であり、34歳の母親と暮らすルパート・ホプキンは、コメディアンになることを夢見ている男です。
トーク番組にでるために日々ネタをつくっているのですが、決して面白くはなさそうです。
出演者のMCに社交辞令でこえをかけてもらったことをきっかけに、半ストーカー化していき、最後には誘拐事件を起こしてテレビ出演を果たす、という狂気の物語となっています。
「ジョーカー」も基本的な流れは同じになっており、誘拐こそしませんが、たまたま行ったスタンダップコメディがテレビに流れたことで、彼は、笑われる存在としてテレビの映ることになるのです。
「ジョーカー」が気にいった方は、ぜひ「キングオブコメディ」を見ていただきたいところです。
もっと痛い物語になっています。
ただし、「ジョーカー」は、「キングオブコメディ」のように狂気に溢れた人物の物語ではなく、社会的な弱者である主人公が、生まれ変わる物語となっているのに特徴があります。
関連作品
本作品は、「キングオブコメディ」と、戦争帰りで不眠症になった男が、娼婦になった女の子を助けようとする「タクシードライバー」に影響されていると言われています。
「キングオブコメディ」の主人公にしても「タクシードライバー」のトラヴィスにしても、思い込みは激しいです。
とある仕掛けが「ジョーカー」ではされており、主人公の思い込みにぞっとすると同時に悲しくなる場面があったりします。
関連してはいないですが、「ジョーカー」の中では、富裕層を倒せ、みたいな流れになっています。
アーサーが、たまたま証券マンを3人殺したせいで、ピエロの男が貧困層が富裕層を打ち倒すためのアイコンのように祭り上げられてしまいます。
本作品を、社会的弱者が社会を転覆させたり、かえようとする物語、としてみてしまうとちょっと、アーサーがかわいそうになりますので、個人的な見解を述べますと、本作品は、あくまでアーサーという一人の男の個人的な物語としてみたほうがしっくりくるというところです。
アーサーは、たまたま襲われたから事件を起こしたにすぎず、政治的な意図はなかった。
それについては、作中でも番組内で述べているところです。
でも、その結果彼が、ジョーカーとして生まれ変わっていき、世の中が混乱に陥っていく姿を笑っていく。
そう、彼にとっては、これはたんなる喜劇なのだ、というところで物語が終わるところに皮肉と面白さがあるのです。
ちなみに、人々が暴動に駆り立てられていく場面を描いたものとして、圧倒的に面白い映画があります。
スパイク・リー監督「ドウ・ザ・ライトシング」です。
貧しい人たちにもよくしてくれていたピザ屋があっという間に破壊されて、暴動が拡大していくさまはすさまじいです。
世界的に生きづらい世の中になってきて、貧富の格差が大きくなってきている今だからこそ、本作のような個人的な物語が、結果として社会全体の問題につながっているのを感じられ、その結果ヒットしているのではないかと思ってしまうところです。
以上、ネタバレ多少あり。感想&解説「ジョーカー」でした!