シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

浅野温子主演、映画「スローなブギにしてくれ」

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 藤田敏八監督といえば、小池一夫原作「修羅雪姫」の映画を撮影し、「ダイアモンドは傷つかない」を撮影した監督でもあります。
俳優としても活躍する監督ですが、角川映画のラインナップの中でも「スローなブギにしてくれ」について感想を述べてみたいと思います。

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浅野温子

浅野温子といえば、一定の年代であればいわずとわかる「101回目のプロポーズ」でおなじみの女優といったところではないでしょうか。
コケティッシュな魅力をもった女優さんですが、「スローなブギにしてくれ」にしてくれでは、オールヌードになったり、中年と若者の間を行き来する捨て猫のような存在として、物語をかき乱す存在となっています。
どこか浮世離れしたような雰囲気の女優さんであり、101回目のプロポーズの時に、武田鉄矢演じる主人公が、彼女のトラウマを乗り越えて告白していく姿が感動的だったのも、一つには浅野温子という女優の存在感があって成り立つといっても過言ではないでしょう。
 

 

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そんな浅野温子のほぼ映画デビュー作にあたる本作は、初々しさとともに、時代を感じさせる人間模様に頭を悩ませることになります。

物語は、浅野温子演じるさち乃が、子猫を広い、山崎努演じる男に拾われてから始まります。

ムスタングの男

「スローなブギにしてくれ」は、片岡義男の原作小説をいくつか複合してつくられたものとなっており、特に、監督である藤田敏八の自叙伝的な作品ではないか、といわれることもある作品となっています。

藤田監督の次作にあたる「ダイアモンドは傷つかない」でも山崎努が主演しますが、本作品でも、主人公として活躍するところです。

物語としては、ムスタングに乗った山崎努演じる主人公が、浅野温子演じるさち乃を拾ってきたことで、人間関係がゆらいでいく、という状況を描いています。

状況そのものがかなり複雑なのですが、ムスタングの男(山崎努)は、男女二人とともに暮らしています。

その女性は子供を産んでおり、それが、ムスタングの男ともう一人の男のどちらの子供かはわからないことになっています。
しかも、その子供は、女性の妹に育てさせているという状況です。
山崎努自身は、会社の役員か何かでお金には不自由していない生活をしていますが、離婚調停を行っている奥さんもいるという状況です。
奥さんも子供もいるけれど、愛人がいて、しかも、その女性と関係を共有している男とも一緒に住んでいる。
どこから突っ込んでいいのかわからないぐらい、倫理からは離れている男です。

この映画の男

この映画にでてくる男たちは、正直、ろくでもない男たちです。

浅野温子を助けてくれる男ゴローは、生活能力に欠けています。
牛丼屋で働いているのですが、漫画を読んでいて接客をせず、店長に注意をされたら逆キレする始末です。
さち乃と一緒に住むことになりますが、彼女がよく働くということで評判になれば、今度はその劣等感から彼女にあたって、勝手に怒ってほかの女性と浮気を初めてしまうのです。

「スローなブギにしてくれ」は、さち乃という女性が、男たちに次々と傷つけられていく話になっています。
傷つけられるたびに、彼女は、ゴローと、ムスタングの男との間をいったり来たりする、気まぐれな猫のように生活をしていく、という話なっています。
いずれにしても、ろくな男たちではないのですが、彼女はそのたびに美しく、そして、したたかになっていく、という点が、本作品の見どころの一つとなっています。

中年おとこの話

本作品はダイアモンドは傷つかない」という藤田監督の次作を念頭に本作品をみてみると、わかりやすくなるのではないでしょうか。

浅野温子をメインで考えた場合に、崩壊した家庭から飛び出したさち乃が、男たちにひどい目にあわされながら、最後には、幸福のようなものをつかんだ話のように見えます。
もっとも、旦那は更生しているように見えて、さち乃に対してあまり気づかいがないようにみえるところがまた皮肉です。
 
本作品は、山崎努という男の、人間失格の物語としてみることができます。
 
「男というのは、はっきりさせてしまっては、もうおしまい、ということがあるんだ」
と「ダイアモンドは傷つかない」で山崎努演じる男が言います。
「スローなブギにしてくれ」の山崎努もまた、あいまいな関係で落ち着いてしまっていた人間なのです。
どちらの子供かもわからない子供の養育費を払いながら、愛人のような男と、友人のような男との同居生活。

ダイアモンドは傷つかない」では、田中美佐子演じる少女に、山崎努が何十年もかけてつくってきた人間関係がかき乱されてしまいながらも、結局、田中美佐子が学生に戻っていく、という話になっていました。

「スローなブギにしてくれ」は、かき乱されたあげく、無理心中を図ってしまう、というバッドエンドになってしまっています。

「猫、いなかったよ」

山崎努は言います。

物語のラストについて

山崎努演じるムスタングの男は、関係を動かせないままに過ごしていた男ですが、妻には正式に離婚を言い渡され、愛人関係の女性たちには去られてしまいます。
拾ってきた猫だと思っていた浅野温子もまた、ただ自分をかきみだすだけで終わってしまったのです。
ですが、彼にとって、浅野温子が自分を変えてくれるかもしれない何かだったこともまた真実なのです。

「この先は崖で何もない。一緒に死ぬか」
心中をもちかけらますが、直前のところで、浅野温子は自殺を止めます。
物語のラストでは、自分の状況をかえてくれるかもしれない浅野温子のような女性をムスタングに乗せて、また、自分を止めてもらえるんじゃないかと思った挙句、一緒に、海に落ちて、しかも、自分だけ助かってしまう、という人間失格っぷりを発揮してくれます。

中年男の、情けない一面を出した物語としてみることができるのが「スローなブギにしてくれ」のいいところであるといえます。

この物語は、倫理的にはかなり理解できないところが多いでしょうが、どうしようもない中年の贖罪しきれない物語としてみると、すっきりと見ることができますので、藤田監督の他作品とも合わせてみていただくと、より一層楽しめる作品となっています。

以上、浅野温子主演、映画「スローなブギにしてくれ」でした!!!

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