シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

サム・シェパードよ永遠に。正しい資質とは/ライトスタッフ

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数多くのファンに愛されながら、3時間を越える大作ということもあって、見られる機会も少なくなりがちな作品の一つに「ライトスタッフ」があります。


これは、人類を月に向かわせるためのマーキュリー計画(MISS、Man In Space Soonest、 人間をできる限り早く宇宙へ行かせるという計画のうちの一つと思っていただいても、大きく間違いはないと思われます)に関わった、マーキュリー・セブンと呼ばれる宇宙飛行士を通じ、夢に向かって突き進む男達の葛藤や、その影で苦悩する人たちを描く、傑作映画です。


何度も描きますが、3時間を越える作品ですので、まずは、作品の前半部をメインに語りつつ、作品がもつ魅力について語ってみたいと思います。

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サム・シェパード

先日なくなられたサム・シェパードは、「ライトスタッフ」の中で非常に重要な位置をしめています。

物語の前半において、初めて、人類で音速の壁を突破した偉人であり、本作品で語られるライトスタッフ(正しい資質)をもつ人物です。


ライトスタッフ(正しい資質)については、後ほど説明しますが、「ライトスタッフ」という映画が、夢に向かって情熱をむけずにはいられない男達の性と、それにつきそう人たちを描いた作品となっていることは、物語の前半でも示されるところです。


サム・シェパード演じるチャック・イェーガーは、テストパイロットです。

テストパイロットとは、文字通り飛行機がどれくらいの機能を有しているのかを、試す飛行気乗りのことです。


時代は第二次世界大戦を経て、飛行機の有用性に気づかされた後の世界です。


優秀な飛行気乗りたちは、カリフォルニアにあるエドワーズ空軍基地に集まってきました。そして、そこでは多くのパイロット達が命を落としていたのです。


テストパイロットはとにかく危険と隣り合わせです。


飛行機の限界まで機体を試す必要があるので、壊れることはあたりまえにあります。

操縦不可能になった飛行機から脱出することができなければ、即死は免れません。

チャック・イェーガーは、そんな中で記録を打ちたてていく男なのです。


彼は愛妻家としても知られ、自分の機体には「グラマラス グレニス」という文字が必ず記載されていました。

意味をいうまでもないですが、「(俺の彼女、後に奥さんである)グレニスは、グラマラス(魅力的だぜ!!)」といった意味です。

彼は、音速の壁を越え偉業を成し遂げ、記録を塗り替えていくのです。

飛行気乗りの妻なんて

ライトスタッフ」を見ていると気づくのは、飛行気乗りの男たちだけではなく、その奥さん達にも大きなスポットが当たっていることです。


物語の冒頭のほうで、黒い服の男が家に近づいていきます。


すると、そこにいた奥さんが子供を抱きかかえながら「来ないで!」というのです。

考えるまでもありませんが、それは旦那が死んだことを知らせにきた人間です。その男が来ても来なくても、事実は変わりませんが、そこは人情というものでしょう。


飛行気乗りの奥さんは、いつ旦那が死んだとしても不思議はないということを嫌でも知っているのです。


チャック・イェーガーもまた、後に奥さんになる女性グレニスを口説きます。

「俺は早いぜ」

「私は捕まらないわ。あきらめて」


馬に乗って、グレニスを追いかけるところなんかは、疾走感も伴ってすばらしいシーンとなっています。


主に主人公として長く登場するのは、アラン・シェパードですが、彼の奥さんもまた、旦那がいつ帰らぬ人になってしまうか、その恐怖に耐えられず、彼の元から一度は去ってしまったりもしています。


遠くで煙が上がっているのをみて、それが自分の旦那のことではないかと常に思う恐怖は、愛する対象であるがゆえに余計厳しいものです。


「戦闘機乗りの妻は軍隊と結婚したのよ」
 
奥さん連中は、そんな話しをします。

「男なんて考えるとバカものぞろいね。いないと困るけど」

そういって、彼らは日々の不安を紛らわせているのです。

「4度に一度は戻ってこない」

男たちは、そのまま死んでしまっても本望かもしれませんが、「ライトスタッフ」では、その影で泣いている家族もきっちりと描いているところが名作のゆえんだといえるでしょう。

 

飛行機は何で飛ぶのか。

さて、飛行機は何で飛ぶのか、という質問が物語の前半にされます。
そして、この質問は、物語の全体にも関わってくるテーマの一つとなっているのです。

「君らのロケット機は何で飛ぶのか、わかるか」

「空気力学の話か?」


男は言います。

「金だよ。金が君らのロケットを飛ばす。金があるところに技術者は育ち、技術をもつものがトップになる」

英語では、ファンディング(資金調達、財源、基金)と呼ばれていました。

金を集められることこそが、大事だという話しです。

 

これは後に、ロシアによるスプートニクの打ち上げによって、いかに空を早く飛ぶか、という時代から、宇宙開発に時代が移っていったことでもわかります。


時代が変わったことで、ファンディングの対象が変わっていく物語でもあるのです。


おりしも、時代は宇宙へと変わって行く転換点であったのです。

余談ですが、スプートニクが打ち上げられたことで、自分もロケット開発に携わろうと思った少年たちの、田舎や父親の呪縛から逃れようとした名作「遠い空の向こうに」なんていうのも、オススメですので、ロシア側からの動きが知りたい方は、そんな映画を見るのも面白いかと思います。

若きジェイク・ギレンホールも見れてしまいます。

 

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正しい資質とは

宇宙に人を送り出そうという計画(MISS計画)が動きだした背景には、当然ソ連との開発競争が裏には存在しています。


スパイもやってくる時代であり、身元がはっきりした人間でなければ、宇宙飛行士にしたとしても、ノウハウだけ奪われて、亡命されてしまうこともある時代だったのです。


そんな中で、政府の人間が目をつけたのが、空軍の中にあって、命知らずな連中であるテストパイロット達でした。

やってきた黒服は言います。
「彼らは、ライトスタッフがあるやつらだ」

ライトスタッフ? 勇気とかそういうもの?」

劇中では、正しい資質と訳されています。

「勇気とかヒロイズムを超えたものだ。彼らは説明などしないよ。仲間内でもその話しはしない」


でも、彼らは、自分こそが正しい資質、ライトスタッフをもっていると思っているはずなのです。

彼らは、子供っぽく、自尊心が高く、傷つきやすく、でも、強靭な精神力を持っています。


ライトスタッフ」という映画は、ライトスタッフを持っていても、時代の流れについていけなかった影の英雄と、時代の寵児として祭り上げられ、宇宙へと飛び立とうとする男達の物語でもあります。


チャック・イェーガーこそが、劇中で誰しもが認めるライトスタッフの持ち主ですが、彼は、高卒であったことから、宇宙飛行士としての資格を得ることができませんでした。


そんな、悲しき英雄は、宇宙飛行士たちの記者会見のときに、お酒を飲みながら、その放送を見ていることで、悔しさと皮肉をまぜこぜにした素晴らしい演技を見せてくれます。

 

訓練と選出


宇宙飛行士となるべく、50人以上の人間が集められます。

こういった、宇宙飛行士になるために、訓練や試験を潜り抜けるというものは、近年の漫画などでも多く見られます。

有名どころでは「宇宙兄弟」とか、そういうものでもあります。

 

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極限状態の中での身体能力をためしてみたり、息を吐き続けたりと、あらゆるところから集められた人間たちが、一定の土俵の上で力をはかりあうというのはどんな状況においても、面白いものです。


また、気の強そうな看護婦が、主人公があまりに動じないのをみて焦ってしまうなど、笑ってしまったりするぐらいの演出が、うまいです。

 

劇中にでてくる男たちは、子供みたいな人たちです。

ですが、誰が堅物の看護婦を口説き落とそうか、なんてことを言い合いながら、厳しい環境を楽しんでしまおうとするあたり、力強い。

自分の精液を容器に入れるときに、トイレで隣の人が鼻歌を歌って集中できなくても、逆に隣によりも大きな声をだしながら歌う、という対抗心。

負けず嫌いであり、そして、それ以上に強靭な精神力をもち、ユーモアを解し、環境を楽しんでいるかがわかります。

 

果たして宇宙にはいけるのか。

 物語の後半は、宇宙に行くための候補生達と、ロケット技術者とのやり取りや、マスコミの中で翻弄される家族や、最善を尽くしたとしても、結果を残せなかったものの末路などが描かれます。


是非再度見ていただきながら、検証して欲しいところではありますが、宇宙ロケット開発者とのやり取りなども、面白いところです。

 

まったく操作などができないカプセルとして考えられていた宇宙船が、宇宙飛行士たちの要望によって、操縦できるようになっていったり、マスコミをうまくつかっていったりと、その攻防戦も面白いところです。


ライトスタッフ」という映画は、いくつもの物語を持っています。

これは、事実に基づいた物語でもありますし、妻達の物語でもありますし、何より、宇宙飛行士たちの苦悩と挑戦の物語でもあり、正しい資質とは何か、というものを教えてくれる力強い物語でもあります。


長い映画ではありますが、長い間ファンをもつこの作品の魅力は、見るたびに変化していくものでもありますので、「ライトスタッフ」を見返すことで、新たなものを発見できるかもしれません。


当映画を下敷きにしたと思われる、クリント・イーストウッド監督「スペース・カーボーイ」なんていうのもありますので、「ライトスタッフ」が気に入った方は、それを付属としてみてみるのも面白いかもしれません。

 

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以上「サム・シェパードよ永遠に。正しい資質とは/ライトスタッフ」でした!

 

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