地元に居づらい人はよくわかる。解説。マンチェスター・バイ・ザ・シー
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は、アカデミー賞オリジナル脚本賞を受賞、そして、主演のケーシー・アフレックがアカデミー賞主演男優賞を受賞した作品であり、それ以外にも数々の賞にノミネート・受賞した良作となっています。
そんな、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」ですが、過去に辛い思いをした男が再び地元に戻り、兄の子供と共に過ごすことで少しずつかわっていく姿を描いたと紹介される作品であり、人間の苦悩が描かれた作品でもあります。
たしかにいい映画ですが、なぜそこまで評価が高いのか。
より映画のよさを理解しやすくするために、補助線をひきながら、本作品の魅力について語ってみたいと思います。
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ケーシー・アフレック
作品の内容に入る前に、ケーシー・アフレックという人物について、おさらいします。
兄は、監督も俳優もこなし、バイセクシャルの女性を好きになった男の苦悩を描いた「チェイシング・エイミー」で一躍有名になり、「アルゴ」や「ゴーン・ベイビー・ゴーン」などの監督もした、ベン・アフレックです。
弟であるケーシーもまた、数々の映画に出演していましたが、監督をした「容疑者、ホワキン・フェニックス」では、将来を有望視されていた実際の俳優ホワキン・フェニックスが、どんどんおかしくなっていく事件を撮影。
実は、それが二人によるやらせだったことが発覚して、まわりから干されてしまった不遇の俳優です。
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の主人公であるリーは、悪気のない事柄のせいで、大きな罪を背負ってしまった男の物語であり、うがった見方をするのであれば、ケーシー・アフレックの人生とだぶっているところが、また面白い点といえます。
そんなケーシー・アフレック演じるリーという男が、アパートの便利屋さんをやっているのですが、まわりとのコミュニケーションなどを一切絶っている人物として、物語りははじまります。
孤独な男になぜなった
本作品を語る上で、ネタバレはかかせません。
ただし、この作品は、この男がなぜそうなってしまったのか、というミステリーを追うものではなく、誰しもがやってしまうかもしれないだろう過ちによって、大きな罪を背負った人間を描いた作品であることから、ネタバレを気にせずに書いていきたいと思います。
主人公のリーは、便利屋です。
アメリカでは、そういった商売があるそうで、配水管が詰まったとか、シーリングを交換したい、とか、そういう雑務を請け負ってくれる人物を、アパートに置いておいてくれるのだそうです。
そして、主人公であるリーは、非常にモテる男でもあります。
遠まわしに、あるいはストレートにアパートの奥さん方は、主人公を誘惑しますが、主人公はびくともしません。
また、バーで隣に座っていた女性客に飲み物をかけられてしまいます。
もちろん、話しのきっかけを作るためにやられた、女性側の策略です。
ですが、そ知らぬ感じでリーは席を移ってしまいます。
はじめてみると、ギャグなのかと思ったりもしますが、ここでわかるのは、リーという男は人間関係を拒否しているのです。
誰かと深い中にならないようにしているのがわかります。
また、飲み屋では、目があっただけで、殴り合いのケンカをはじめてみたりと、非常に粗暴な男です。
そんな男の下に、兄の死が知らされます。
兄の遺したもの
リーの兄は、漁師であり、非常にお金をもっている人です。
ですが、過去の回想では失血性心不全という病気によって、兄は長くは生きられないことがわかります。
兄には16歳になる息子がいますが、弟であるリーは、その息子の後見人になるように遺言がされていたことがわかるのです。
息子であるパトリックは、彼女が二人いて、バンドもやっていて、スポーツもやっているものすごい人物です。
リーは、パトリックに「ボストンに住むぞ」と言います。
それに対して、パトリックは「なんで勝手に決めるんだよ」と猛反発です。
いきなり父親が死んで、叔父さんに都会にいくぞ、といわれてすぐに同意しろ、というほうが無理というものでしょう。
パトリックは、父がもっていた小型の船を維持していきたい、といいますが、船をもっているだけでもお金がかかる上、エンジンの調子が悪く、入れ替えをしなければとてもつかえないような状態であることがわかります。
その中で、リーが妥協しながら、パトリックとの親交を深めていく、という典型的ないい話ではないのが、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の面白いところです。
冒頭でも書いたように、孤独な男が、兄の息子と生活することでかわっていく、というのが大枠の物語ではありますが、本作品を理解するには、この作品の舞台となっている場所を理解する必要があります。
マンチェスターではない?
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」という作品ですが、タイトルを普通にみると、海のそばのマンチェスター、という意味で読むことができます。
マンチェスターに住んでるなら都会じゃないかと思いますが、マンチェスターはイギリスの都市です。
もちろん、アメリカにもマンチェスターという地名の場所が10箇所もあるそうですが、物語の舞台はどういったところなのか。
何がいいたいかと申しますと、本作品の作品の舞台は、マンチェスターではなく、マンチェスターバイザシーという場所ということです。
マンチェスターバイザシーは、ボストンより40キロ近く離れた田舎であり、人口は5000人を超す程度しかいない小さな町です。
主人公が頑なに地元から去ろうとする理由が、なかなか理解できない人も中に入るかもしれませんが、マンチェスターバイザシーという場所が、ものすごく田舎であるということがわかれば、主人公であるリーの苦しみがわかるようかもしれません。
彼の犯した罪
ネタバレですが、主人公のリーが犯した事そのものは、本当にたいしたものではありません。ただ、結果が重大すぎるだけで。
彼は寒いから、暖炉に薪をくべて、お酒が足りなかったので、歩いて買いに行きました。
彼は、暖炉から薪が落ちないようにするファイアースクリーン(衝立)をたて忘れてしまいます。

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忘れることだって、今までにもあったでしょう、ですが、その日は違ったのです。
スクリーンを立て忘れたことで、家が火事になり、幼い子供達3人が焼死してしまいます。
幸い、奥さんは助かりましたが、一瞬にしてリーは、とんでもない罪を背負ってしまったのです。
警察で問い詰められるリーですが、単なるうっかりだとわかると釈放されてしまいます。
事件性がなかったため、彼は、自分の不注意のせいで子供を失ったのに、罰を受けることすらできないのです。
そして、恐ろしいことに、マンチェスターバイザシーは田舎町です。
田舎町では、噂はあっという間に広がります。
不注意とはいえ、不注意で子供を3人も殺してしまった人間が、今まで通り楽しく田舎の町で暮らせるでしょうか。
田舎町での失敗
人口5000人ほどの町マンチェスターバイザシー。
幼い時から生活していれば、地元民で知らない人はそんなに多くないはずです。
リーは、多少奥さんと息があっていないことが示されていながらも、基本的には奥さんや家族を愛してしました。
小さい頃からの友人達を、家に招いて遅くまでドンちゃん騒ぎを繰り返し、奥さんに怒られたりしますし、奥さんの体調も考えずに奥さんの体を求めたりと、多少困ったところがあるにしても、世の中にはかなりいるであろう普通の人物です。
リーという奴は面倒くさい男で、奥さんに迷惑をかけるやつなのだな、と思うところですが、物語冒頭のリーとは明らかに雰囲気が違います。
マンチェスターバイザシーという場所が田舎であるということと、彼が起こした不幸を考えれば、彼がそうなってしまうのも理解できしてしまうところです。
リーは、生まれも育ちもマンチェスターバイザシーであり、近所の友人たちは子供の頃からの付き合いで、気心もしれています。
それは、みんなが集まれば、飲んで騒ぐのはある意味当然です。
彼は、そんな地元に囲まれて楽しく暮らしていた人物なのです。
ですが、そんな田舎で、自分の不注意で子供を死なせてしまったら、いままで楽しく暮らしていたみんなの視線が、辛くてしょうがなくなるのではないでしょうか。
彼が、すぐに暴力を振るう理由もそのあたりにあると思われます。
「俺のことを見てただろ」「見てないよ」「見てただろう!」
いちゃもんレベルで殴りかかるリー。
彼は、ずっと罪の意識にさいなまれ、ほとんどの人が知り合いという田舎の中で、誰かの視線や嘲笑が恐ろしくてしょうがないのです。
そして、奥さんは、自分が悪くないということを正当化するために、はっきりとは描かれませんが、相当リーのことを悪くいったと思われます。
ですが、田舎町ではしょうがないことです。相手を悪く言わなければ、非難の的にされるのは自分かもしれないのです。
道端でばったり出会ったとき、奥さんは弁解します。
田舎町に住み続けるのであれば、誰かを悪く言わなければ、自分だっていられなくなってしまうのです。
住民のつながりが強い田舎町での、悪い面がでてしまったといえるでしょう。
結果として、リーは地元を去ります。
回想の中の彼は、楽しげですが、現在の彼が他者を拒絶しているのは、自分を発揮できる田舎には帰ることもできず、罪の意識により楽しく振舞うこともできない男がわかるのです。
物語のラスト
田舎に戻ることのできないリーと、地元にいたいパトリック。
実兄が、彼を後見人にしたのは、おそらく、息子を通じて弟に地元に戻ってきて欲しいから、というものでしょう。
ですが、リーは、一人で都会へと帰っていきます。
そのままマンチェスターバイザシーで暮らすのかと思いきや、彼が結局去ってしまうことには理由があります。
その理由は、思い出してしまうからです。
リーは、夢の中で、「私達、燃えているの?」と娘に声をかけられて、飛び起きます。
また、なんの変哲もない道を歩いていたら、赤ちゃんをつれた元嫁に出合ってしまったりもします。
元嫁とばったり会うシーンですが、なぜ、こんな何の変哲もない道で撮影したのかと思いました。
ですが、マンチェスターバイザシーという町は、それだけ田舎ということです。
避けようとしていても、田舎にいれば、悲劇を思い出さずにはいられないのです。
その事実に気づいたからこそ、リーは、パトリックを地元に残し、自分は再び、誰も自分のことを知らない、都会へと帰っていくのです。
ただし、物語が始まったときとは明らかにリーという人物は変わっています。
誰かが尋ねてきてくれるかもしれない。
彼が田舎にいられなくても、田舎からきてくれるパトリックがいてくれるなら、それでいいと彼は思ったに違いありません。
彼は、地元にはいないかもしれませんが、孤独ではなくなった素晴らしい物語になっています。
アメリカであろうと日本であろうと、世間と言うのは思った以上に狭いものです。
なんとなく、アメリカの田舎というと自分達とは別の世界と思ってしまいがちですが、どこの田舎であろうと、その中で起きる苦悩というのは、共通のものとなっています。
また、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は漁港ということもあって、大変美しい景色を見ることができます。
物語の重さに反して、決して暗くなりすぎないのは、そんなやさしくも厳しい世界が映されているからではないでしょうか。
以上、地元に居づらい人はよくわかる。解説。マンチェスター・バイ・ザ・シーでした!!!