文太と由美子、その悲恋のゆくえ 佐伯清『現代やくざ 盃返します』(1971年)
今回は菅原文太主演、佐伯清監督『現代やくざ 盃返します』(1971年)を取り上げます。
『現代やくざ』シリーズは菅原文太の代表作の一つです。とはいえ、あまりヤクザ映画に興味のない方、あまり観たことない方は聞きなじみのないシリーズだと思われます。『仁義なき戦い』シリーズや『トラック野郎』シリーズ、『まむしの兄弟』シリーズのほうが各種メディアなどでも取り上げられる頻度が多いのかなーという印象を受けます。
そんな『現代やくざ』シリーズなのですが、実はけっこう出来のいいシリーズなんです! ちなみに作品間に時系列的なつながりはありませんのでどれから観てもオッケーです!
今作、『現代やくざ 盃返します』は仁侠映画お得意の「親分との仁義/義理」に加え、「幼馴染との友情/愛情」が盛り込まれてなかなか泣けます!
それではその「主人公と親分」と「主人公と幼馴染」の関係に注目しながらストーリーを振り返ってみたいと思います!
ヤクザ渡世は義理の道
関山辰次(菅原文太)は堂本組組長(小池朝雄)に拾われた義理から組長の命じるまま、萩原組組長(水島道太郎)を襲撃します。辰次本人は萩原組長は立派な親分さんだと思っていましたが、堂本、三鬼、萩原の三つの組が伊丹空港建設の利権を巡って対立していました。
辰次は襲撃前に幼馴染の芳子(野川由美子)がやっている小料理屋に寄ります。この芳子はヤクザ映画の中でもなかなかいいキャラクターをしています。ヤクザである辰次に向かって平気で口答えしますし、常に心配もしています。もちろん辰次も芳子(愛称よっちゃん)を憎からず思っていますが、親分との渡世の義理を優先する、筋の通ったヤクザなのです。
さて、辰次は襲撃後に警察に捕まります。どうやら本人は急所を外したようなのですが、萩原組長は一度回復したのち亡くなってしまいます。空港用の土地買収を最後の仕事だと考えていた組長でしたが、死ぬ間際に遺言で組の解散を命じます。
柴田(松方弘樹)、望月(中田博久)、井上(伊吹吾郎)といった組員、組長の娘の冴子(工藤明子)は嘆き悲しみますが、遺言通りに萩原組は解散します。
望月はカタギになりますが、柴田は柴田組組長、井上もヤクザとして挽回を狙います。
服役中の辰次に芳子が会いにきます。この会話シーンは見どころですので後ほど詳しく解説します!
二年後、出所した辰次に対し堂本は若頭に任命するとともに自分の組を持たせます。本来対立するはずの堂本組と三鬼組組長鬼丸はそれぞれの利益を見込んで兄弟の盃を交わします。
辰次は萩原の娘、冴子が望月とともにやっているバーに詫びをいれにいきますが偶然三鬼組組員が店で暴れているところでした。辰次の顔に免じて三鬼組員たちはその場を去りますが、今度は組長を殺された恨みということで井上に襲われます。偶然、訪れた柴田のおかげで騒動は収まりました。望月は辰次が心から謝罪していることを感じとっている様子です。
さて、三鬼組の企みにより、冴子の店の商品が競売に掛けられて父親との思い出の品までもめちゃくちゃにされそうになりますが、すんでのところで辰次が芳子に金を借り、取り返します。冴子や柴田も辰次の後悔の念が本物だということを知り、仇ではあるものの筋の通った男だと認識を改めるようになるんですね。
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しかし、この行為に堂本は怒り、組の若頭としての役割を取り上げます。自分の思惑通りに動かない辰次を見限り、刑務所帰りの黒木(汐路章)を腹心の部下として重用します。
三木組の行為はエスカレートして柴田の賭場を襲撃します。たまたま遊びにきていた大物の神戸の長尾(中村竹弥)にもを傷を負わせてしまい、堂本と鬼丸はあせります。長尾に謝罪しにいきますが、柴田に謝罪をするのが筋だと逆に怒鳴られてしまいます。
柴田は堂本組や三鬼組に挨拶状をだし、ヤクザ引退の決意を伝えます。堂本は親分子分の義理をたてに辰次に柴田殺害を命じます。
萩原に次いで柴田までも襲撃することに気が進まない様子の辰次ですが、やはりここまで育ててもらった恩義を裏切れないため、柴田の家へ向かいます。
しかし柴田は自分が引退した身であることを伝え、そのことを知らされずにうまいように親分に使われた自分に遅まきながら気づいた辰次は親分へ怒りヤクザ稼業がつくづく嫌になります。
皮肉にも「侠道」と書かれた書が飾られた堂本の家で辰次は堂本に渡世の道を踏み外さないでくれ、三鬼との縁を切れ、と懇願しますがついに破門されてしまいます。
真っ当な人生をやり直すのもいい、と考えた辰次は芳子にヤクザ稼業からの引退を告げ、ついに二人はその夜結ばれます。
しかし、そんな夜に柴田が殺害されたという一報が子分によりもたらされます。
自分に忠実ではなくなりつつある辰次が柴田を殺さないことも見越して、黒木に辰次であると騙って柴田邸を訪問させ銃撃させたのです。
辰次は怒りに身が震えます。一人で堂本と鬼丸の本拠地に乗り込み、黒木含め渡世の道を踏み誤った二人を葬りますが、ついに自身も果てます。
辰次の遺骨の入った箱を携えた芳子がかつて二人で過ごした故郷へと降り立ち、辰次の実家への道をふらふらと歩きはじめるところで映画は終わります。
結局、世の中金なのか?
萩原、堂本、三鬼は経済発展を背景にした土地開発利権を巡り対立したり、また手を組んだりします。堂本はかつては任侠道を真っ当に進む極道だったかもしれませんが欲に目がくらんでしまったようです。萩原は最後の仕事として空港周辺の土地買収を円満に解決したいと思っていたのですが、その思いは儚く散ってしまいます。
辰次は自分を拾ってくれた義理があるため心の中では黒と思っていても、親分が白といえばそれに従います。
親分連中の横暴に耐えて耐えて耐えて、最後に反逆の刃を向けるのが高倉健などを主役とする任侠映画の基本でありますが、今作もその筋道を辿ります。
親分よりも渡世の道を守る相手方のヤクザに肩入れしてしまう、というのもよくあるストーリーです。
本作はさらに幼馴染から男女の仲へと発展する二人を描き、ストーリー展開に幅をもたせています。結局、最後は悲劇に終わるのですが、基本的に任侠映画はラストは悲劇ですのでその描かれ方を楽しむのが観るときのポイントなのです。
世の中、金でも権力でもない! と抵抗する力、それが物語を推進させる原動力になっているのです。
辰次と芳子、二人の距離
さて、この物語のもう一つの柱、辰次と芳子の恋物語について触れます。
もともと田舎の故郷で自然の中を駆け巡って遊んでいた二人。
芳子がそれを回想する場面ではなんとも悲しいBGMが流れます。
辰次が萩原組組長を刺して収監された後、その故郷に住んでいる辰次に母が亡くなります。芳子が駆けつけ、辰次の兄と会話をしますが、ヤクザは人間のクズ、母を殺したのは辰次のようなものだ、と言われてしまいます。
なんともやるせなさが漂うシーンです。
もちろん芳子も辰次がヤクザを続けることをいいことだと思っておりません。
刑務所での面会のシーンがいい場面です。
金網越しに向かい合う辰次と芳子。
辰次はそこで自分が指した萩原組長が死んだことをはじめて知ります。
渡世の義理を果たしたためにこんなところに入れられてしまった、ヤクザなんて一人では何もできないクズだ、などと芳子に言われます。
辰次も反論しますが、口の達者な芳子に圧倒されます。女一人で生き抜いてきた芳子と、不器用ながらも愚直に人侠道を歩む辰次の対比が、金網という物理的な障壁を挟んで表現されています。
芳子のセリフがかっこよくて耳になじむのでぜひ観てみて下さい!
また、刑務所からでてきたのち、自分の組を構えた辰次に芳子が会いにくる場面。二年ぶりに好物のししゃもを食べて気分の良い辰次に、芳子は田舎に帰って見合いをすると告げます。このシーンは恋愛映画ポスターを背景にして撮られています。なかなか粋な演出ですね。
芳子は27歳になっており、本当は辰次に嫁にしてもらいたいと本音を明らかにします。ヤクザをやめて一緒になってほしいということですね。
しかし、辰次は関山組組長、そして堂本組の若頭の身分。これから渡世で男をはるという状況です。
芳子の告白も実らず、辰次は幸せになれ、と送り出す決心をします。
回想の際も流れた物悲しげなBGMが絶品です。
さらに柴田を討ちにいったものの、親分の仁義のなさを知った辰次がヤクザ渡世から足を洗って板前の修業をはじめたいと芳子に告げる場面。
二人の間に存在した「渡世の義理」という壁/金網を辰次が壊す決意をするのです。
ここでも先ほどのBGM。
そして幼馴染から男女の関係となるのですがその夜が最初で最後でもありました。
骨となった辰次を抱えて芳子は心の中で彼にアホ、ドアホと毒づきます。そのバッグにはあの物悲しいBGMが流れています。
クラシックな任侠映画の型を使いながら、辰次と芳子の間に悲しいメロディーが鳴り響く、そんな二人の悲恋も盛り込んだこの作品。大変オススメです!