シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

野坂昭如の歌が響いて・・・  『現代やくざ 血桜三兄弟』(1971年)

本日は菅原文太主演『現代やくざ』シリーズの4作目、中島貞夫監督の『現代やくざ 血桜三兄弟』を取り上げたいと思います!

 

血桜三兄弟とはこれまた素敵なタイトルでございまするが、これは菅原文太伊吹吾郎、渡瀬恒彦の三人を意味しております。文太と吾郎が実際に血が繋がっていて、吾郎と恒彦がいわゆるヤクザにおける兄弟分という間柄のようです。

 

『現代やくざ』とつくだけあって、旧来の仁侠映画から『仁義なき戦い』シリーズに移行していく、その流れの中に位置づけられる作品となっております。

 

 

現代やくざ 血桜三兄弟 [VHS]

現代やくざ 血桜三兄弟 [VHS]

 

 

主な登場人物

武(菅原文太)・・・今はカタギでバーのマスター。大学出のインテリ。余命半年。

邦夫(伊吹吾郎)・・・広道会組員。組に忠誠を誓う。武の実の弟。

宏(渡瀬恒彦)・・・23歳。広道会組員。競馬のノミ行為のアガリを組に納める。

信男(荒木一郎)・・・26歳。通称モグラ。武の店のバーテン。君枝に惚れている。

川島譲次(小池朝雄)・・・関西のヤクザ、誠心会から送り込まれた鉄砲玉。

三宅(河津清三郎)・・・広道会会長。岐阜不在の間に誠心会に縄張りを狙われる。

君枝(早乙女ゆう)・・・花売り。純潔を奪われた川島に惚れる。

 原(高宮敬二)・・・広道会の代貸。

 

鉄砲玉の川島

 冒頭、川島が岐阜の駅に到着するところから始まります。東京へと向かう三宅組長を駅まで送った宏が、ただで帰るのももったいないとばかりに偶然にも川島を車に乗せます(いわゆる白タクです)。

 宏は組のシノギとしてノミ屋をやっています。

 

武は現在はカタギで、バーを経営。しかし近頃体調がすぐれない様子です。

 

川島は近郊のバーで飲み歩き、花売りの君枝から花を買います。「この街は貧乏人が多そうで商売に困るだろう。売れ残ったらいつでも来な」とキザなセリフをはく川島。

それに宏が絡みますが返りうちにされます。

 

兄貴分の邦夫はその知らせを受け、川島を懲らしめようとしますが、同じ組の代貸である原にとめられます。川島は大阪の大ヤクザ組織である誠心会の者だったため原は対立することを恐れたのです。

邦夫はもちろん相手がでかかろうが筋を通さない者を許すつもりはありませんでしたがその場はおさえます。

 

 

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その夜、邦夫は血を分けた兄・武が開催する予定の興行の中止を、広道会組員の立場から求めます。しかし武は鼻にもかけません。逆に組織に忠義立てする弟に忠告します。いざという時、組はお前一人なんか守ってもくれない、と。

 

川島は愛人契約した女を抱いたり、広道会の賭場で遊んだりと岐阜を満喫。広道会の親分である三宅との話し合いを求めますが、親分はまだ岐阜に帰りません。豪遊する川島の強気な態度を見た原は、やつは誠心会の鉄砲玉でこちらが痺れを切らすのを待っていると見抜きます。

 

邦夫は今のうちに川島を叩いておくべきだ、と進言しますが原は親父さんが不在のあいだは面倒を起こしたくないと諌めます。どちらも組を思っての話し合いではありますが邦夫には不満が残ります。

 

宏とモグラが長良川の競馬場で武の女である政美を連れた川島を見かけます。

 

武は政美の家で隠されていたレントゲンから自分が余命いくばくもないことを知ります。

ストリップショーを予告どおり開催した武は、その夜邦夫の訪問を受けます。親分や代貸はチンピラからカスリをとってぶくぶく太ってる豚野郎じゃないか、と邦夫に告げる武。殴り合いの末、邦夫は川島が武の女に手を出していると口を滑らせてしまいます。

 

 武は女がそれを認めたために家を出て行きます。

 

川島は君枝をホテルに連れ込み、処女を奪ってしまいます。まさにやりたい放題。

一方同じろ、君枝に惚れているモグラも武の金で風俗で童貞を捨てます。

 

そんな二人は夜の公演で偶然会います。童貞を捨てたことで気の大きくなったモグラは俺もそのうち広道会の組員になって何でも好きな物を買ってやると言いますが、君枝はお金持ちを陥落させちゃった、ととても嬉しそう。その相手が川島だと知ったモグラは恨みを募らせます。

 

川島は競馬の騎手を金と拳銃で脅し、八百長をするように命じます。

その後、モグラの店でノミ行為をやっている宏に元手300万の勝負を仕掛けます。もちろん八百長に乗じてガッポリと稼ぐのが目的です。

 

宏は宏で、不可解な賭け方をする川島を訝しがりますが、300万を自分たちの物にしようとモグラに持ちかけます。広道会に黙って持ち逃げしようと考えたのです。

しかし、目論見が外れてしまい、川島の予想が的中。8000万の配当を支払わなければいけなくなりました。

 

その頃、広道会親分である三宅が岐阜に帰ってきます。

賭場に川島が来ると聞いて三宅も顔をあわせようとしますが、邦夫はそれは危険だと反対、自分が川島を消しますと意を決して伝えます。しかし、組長は彼の意見を聞きいれません。

 

賭場へ出向く組長。川島は無理難題を吹っかけて、拳銃をぶっ放して賭場を出ます。面子を潰された形の三宅は、同じく賭場にきていたオジキたちに誠心会と事を構えることを伝えますが、逆に関東中央会の協力を仰いで話をつけてくるから早まるなと説得されます。

 

伏兵・もぐら

 

賭場を荒らされたが何もしなかった親分に不信感を強める邦夫。宏も8000万を払える見込みがないため、二人は結託して川島をバラそうと決意します。

 

代貸の原は500万で武に川島を消すことを命じます。武は広道会が俺に頭を下げにきやがったと笑い、川島への憎悪のためにその仕事を引き受けます。

 

川島は、広道会を怒らせたと聞いて心配になり駆けつけた君枝にひどい暴言を浴びせて罵るなどさすがにピリピリしている様子。

 

邦夫・宏、武はそれぞれ川島を討つために政美の家に向かいます。

しかしそれより早く、モグラが川島の忘れ物であるライターを持っていきます。川島はヤクザになりたがっている、このモグラを使って広道会の同行を探らせようと家に招き入れます。が、それが命取りに。モグラは隠し持っていたナイフで川島を刺殺し、拳銃を奪い、その場を逃げ出します。

 

 川島殺される、の一報が届き広道会は盛り上がります。明日からの誠心会との戦争に備え女でも抱いてこいと配下の者たちに金が手渡される中、邦夫・宏は組が中央会と手を組みことを聞きます。

 

宏は明日、命を落とすかもしれないと、最後にモグラに会いにきます。世の中には川島をサクっと殺すような粋なお人もいるんやなあと話す宏にモグラは自分がやったんだと伝えますが、まったく信用しません。

 

邦夫は武の店で、俺はおやっさんを見損なっていた、やっぱり筋の通った人だった、俺みたいにガタガタ言わなくても陰で手を回して川島を消したんだ…と親分に心酔している様子。しかし武は、政美の一件で川島を殺す動機が出来た俺に広道会は話を持ってきた、俺が殺した後で警察にタレこんで俺が捕まれば組の部外者のため、誠心会にも言い訳ができ、全面戦争を逃れられると考えたのだろうと告げます(結果的に武は手を下す前に誰かがやり遂げましたが)。

 

話を信じない邦夫に武は証拠テープを聞かせようとしますが、邦夫はそのテープをめちゃくちゃにしてしまいます。戦争前夜、最後に兄さんと飲みにきたんだからそういう話はもういいだろう、と邦夫は呟きます。

 

三兄弟、最後の戦い

 

そんな中、ついに誠心会幹部が岐阜にやってきます。三宅、原らと会談する中、川島が広道会に貸した状態となっている8000万をどうするかと凄みます。三宅組長や原にまでは宏からその話は伝わっておらず混乱する広道会。8000万の金があったら川島を消す動機になるだろう、やはりお前のとこの若い衆が川島を殺したんじゃないか? と誠心会は攻勢を強めます。

 

原は邦夫に、8000万の話は事実だと聞きます。さらに関東中央会がこの件から手を引くと連絡がきます。中央会としても関西の大組織との表だっての対立は得策ではないと判断したのでしょう。

 

川島を誰がやったか、8000万をどうするか、という大きな論点を持ち出した誠心会は、これから川島の永代供養料として月500万円を上納することを和解案として提示します。

 

邦夫はあの競馬は八百長だったと気づき、こんな舐めたマメをしやがる誠心会を潰しましょうと親分に話しますが、中央会が協力しないことを理由に組長は戦争を拒否します。たとえ勝ち目がなくても、筋を通さないことをしたのは向こうだから受けてたちましょう、邦夫はさらに迫りますが、三宅は邦夫を殴りつけます。

親分に幻滅した邦夫は部屋を飛び出します。三宅は邦夫とヘタをうった宏の抹殺を組員に命じます。

 

武、邦夫、宏の三人は合流し、広道会と真っ向からやりあうことを決意します。その場にモグラも登場。広道会と誠心会の幹部が同じ場所にいることを伝えます。モグラの持ってきた川島の拳銃を見て、宏は、やっぱり川島やったのはお前だったのかと気づきます。モグラは、自分がしでかしたことで宏さんたちに迷惑をかけたと謝罪しますが、どうせお前がやらなかったらこの三人のうちの誰かが殺してたんだ、と宏に慰められます。

 

武はモグラに店を譲ると話をして、邦夫と宏とともに幹部連を抹殺するために車に乗り込みます。しかしモグラも参加を志願します。途中、緊張で小便に降りたモグラを置き去りにして、三人は敵陣へと乗り込みます(哀れなモグラ…)。

 

ライフルや火炎瓶で次々と組員を葬る三人。しかし、その三人も目的を果たすと同時に命果ててしまいます。

 

誰もいない中、ふらふら歩くモグラは野坂昭如の「マリリン・モンロー・ノー・リターン」のレコードをかけます。そしてそこに通りを走るパトカーの姿が…。

 

最後は窓越しのモグラの顔のアップを映して映画は終わります。

 

 

映画のポイント

 

この映画の面白いところは血桜三兄弟とは銘うっているものの、文太と恒彦はあまり接点があるようにみえないところです。つまるところ、伊吹吾郎が三兄弟の中心となっているわけです。

さらにモグラは宏と仲が良く、文太よりも画面の出ている時間は長いのではないかという重要なキャラクターでありながら、最後の討ち入りには参加できずという面白い(?)存在です。

 

そう考えるとやはり映画の中心には伊吹吾郎演じる邦夫がいるのではないかと思えますね。

 

彼の組・親分への忠義とそれを裏切られたことによる反発、それが映画のエネルギーとなっているわけです。いわゆる仁侠映画の仁義を通した、のですね。そういえば作中ではやたら邦夫が殴られるシーンが多かったような気がします。そのような怒りが最後の最後に噴出したのです。

 

文太演じる武は実はそんなに登場時間は多くありません。胃がんを患い、余命半年、しかも女には逃げられる。なんとも悲しいキャラクターです。しかし、紫のスーツ姿はさすがに存在感があります。

 

宏。相変わらず、恒彦は威勢が良くて、面白い。オマケに今作でも革ジャンが似合っている。ベスト革ジャニスト賞をあげたいくらいです。赤いとっくりセーターもカワイイ。

 

さて、モグラ。実はこの映画で一番好きな登場人物です。映画『電車男』の山田孝之に似てなくもないお姿ですが、随所にキモ素晴らしい演技を見せてくれます。

 

ストリップの女体を見て、ぶるぶる興奮して震えたり、君枝とのキッスを想いながらオ○ニーをしたり、宏の革ジャンを借りてシャドーボクシングをしてかっこつけたり、童貞を捨てたら何でもできる気になってヤクザになりたがったり、好きな君枝に正直になれずにブスといったり、討ち入り前の緊張でトイレにいきたくなりおしっこおおおおおと大声で叫んだりと素敵過ぎます。

 

それでいて、今作の悪役・川島を単身で葬り去るという伏兵ぶり。まさに意外性の男です。

 

映画のお話としては、全国制覇を狙う誠心会と、その道筋にいたために襲われる岐阜・広道会の対立を、個人対個人の小競り合いと絡めて描いています。

 

 関東中央会という大きな組織も話に絡んでくるか思われましたが、参戦せず。岐阜側としてはハシゴを外されてしまった形になりました。それにしてもあの手この手で広道会の縄張りを手に入れようとする川島及び誠心会の面々、恐ろしいです。

 

本作はDVD化されておらず視聴するのは難しいのか、と思われましたがUNEXTなどで動画配信されていますのでPCなどをお持ちの方でしたら気軽に観ることができます!

 

いやー、いい世の中になりましたね…。

 

その他、『現代やくざ』レビューです↓

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

 

 

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