ジェニファー・ローレンスは今日も闘う/早熟のアイオワ
突然ですが。
「早熟のアイオワ」は、2008年に劇場公開されていながら、日本での劇場の公開、並びにDVD発売が2014年になってしまっていました。
なぜか6年の年月を経て、ようやく日本にやってきた作品なのです。
DVDの画像をみただけでわかる方も多いでしょうが、理由は簡単です。
主演は、「世界で一つのプレイブック」で、夫がセクシーランジェリーを買った帰りに死んでしまったため、悲しさのあまり職場の全員と寝てしまって頭がおかしくなってしまった女性を演じ、見事、アカデミー賞主演女優賞に輝いた、ジェニファー・ローレンス。
そして、「キックアス」で悪いやつらをばったばったと倒しまくり、放送禁止ワードをばんばん話す戦闘少女ヒットガールを演じたクロエ・グレース・モレッツ。
いまや、押しも押されもせぬ大女優となった二人が、なぜか共演していることから一気に注目されたのが、本作品です。
6年間も日本にやってこなかったにも関わらず、あとから超有名になった女優にあやかって、慌てて配給会社が買ったのが透けてみえるのが本作品です。
ジェニファー・ローレンスと、クロエ・グレース・モレッツの二人が共演というだけで見たい、という人も多いとは思いますが、この作品は、ジェニファー・ローレンスの出世作の一つ手前の作品であると同時に、物語としても大変重い内容ながら、映画としても優れた作品ですので、女優さんの魅力と共に、物語にもフォーカスしていきたいと思います。
原題の意味するところ
「早熟のアイオワ」は日本のタイトルですが、原題は「ポーカーハウス(The Poker House)」になっています。
トランプゲームの、ポーカーをやる家ということなのですが、これは、いわゆる売春を行っている場所です。
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売春婦として働き、娘達を養う母親のもと、ジェニファー・ローレンス演じる長女が、大人の汚い世界を覗きみながら、自分の周りにある守るべき妹や、自分達を必要としてくれている人たちに気づくというのが、大まかな流れ内容になっています。
これだけ聞くとちょっといい話になるように思いますが、絶望的な部分に関しては、もうどこまでも深く、辛い気持ちになります。
ただ、映画を最後まで見終わったとき、そんなどうしようもない絶望のとき、人間はどうすればいいのか、今日と、今夜のことを考えて生きようと、前向きになることができる作品です。
ポーカーハウスが原題であるということから、この物語は、あくまでポーカーハウスが舞台であることが、題名から示されています。
「早熟のアイオワ」では、たしかに意味がわからないですが、早熟にならざるえなかった3人の姉妹が描かれるという点では、題名通りといえなくもありません。
でも、この作品をみるときは、ポーカーハウスを中心とした物語であると考えたほうがわかりやすいかもしれません。
実話をもとにした物語です。
「早熟のアイオワ」は、実話をもとにした物語です。
しかも、その実話は、「プリティーリーグ」などに出演した女優、ロリ・ペティの過去をもとにしたものです。
そして、同時に監督・脚本も行っています。
女優自ら監督となる作品では、最近はアンジョリーナ・ジョリーの「アンブロークン」などがよく聞くところですが、自分自身の、ものすごく辛い物語を、自ら脚本し、メガホンをとるというのは、並大抵のことではないと思います。
ホワイト・トラッシュの少女
貧乏白人であるホワイト・トラッシュを演じたら抜群のはまりっぷりをみせるのがジェニファー・ローレンス。
「ウィンターズ・ボーン」では、ヒルビリーの少女を演じ、掟を破った父親の代わりに、家族を守るために世間と向き合う少女を演じました。
また、「ハンガーゲーム」でも、アメリカ版バトルロワイヤルともいえる世界の中、兄弟を守るホワイトトラッシュの女の子を演じます。
そして、「早熟のアイオワ」では、幼い妹達を助け、母に支配される長女アグネスを演じます。
クロエ・グレース・モレッツは、当時10歳で、劇中で姉妹の末っ子を演じています。
予告では、映画会社が2大女優がでています、と売っているのですが、クロエ・グレース・モレッツはほとんどでてこないので、クロエちゃんを期待している人は、物足りないと思うかもしれません。
ただ、ほとんどでてきてはいないのですが、存在感は抜群です。
クロエちゃんは、なぜか友達の家に寝泊りしたり、バーで時間をつぶしたりしています。
また、次女は、トイレットペーパーをつめて、耳をふさぎ、大人たちの世界を遮断しながらサックスの練習をします。
でも、そこに、ジェニファー姉貴は、ヘルプユーと助けにいくのです。
ただ、彼女もまた、14歳の女の子。
黒人が好きで、1週間前にキスした相手も黒人で、母親の男です。
この物語は、そんな彼女たちの朝から始まり、夜にかけて終わりゆく劇的な一日を描いています。
ポーカーハウスへようこそ
冒頭5分で、彼女が今までどれほど売春婦の母親、その男たちに苦労させられたかがわかります。
人は殺さなさそうだけれど、見た目で判断でしたら駄目だ、というモノローグ。
半裸の黒人に対して「妹がおきるから5分で帰って!」と物怖じせず言う姿勢は、それがいままで何度となく繰り返えされたきたものだというのがわかります。
家では数学の勉強をし、学校では新聞に載るほどのバスケの選手であり、新聞の記事を投稿する記者でもあります。
町のみんなに気さくに話しかけ、トイレットペーパーを盗みながら、みんなとうまくいやっている。
でも、母親とそのまわり、ポーカーハウスの人間とはうまくやっていけないのです。
母親は、近いうちにあんたも稼ぐことになる。ただ飯は食わせないよ、と彼女に宣告します。
14歳になったばかりの女の子にとって、あまりに過酷で残酷な現実です。
だからこそ、彼女は、その場を抜け出すために頑張っています。
妹のうち一人は、新聞配達をしながら、ビン集めをして、ホームレスと一緒にお金をもらって小遣いにします。
クロエちゃんは、友達の家に泊まって粘り、バーで居座ったりと、強く生きています。
でも、ジェニファーは逃げられない。
ポーカーハウスである自宅の窓を覗き見ると、大人達の痴態をみることになります。
覗き見ることで、彼女は、いかに大人が汚いのか、そして、自分もまたそうなってしまうという恐怖を感じてしまうのです。
白馬に乗った王子様がやってくるなんて思っていない。
でも、彼女は、どこかで信じている。
それまで、音楽が流れているのですが、ある劇的な事件が彼女を襲い、音楽は一時止まります。
口の中を真っ暗にしながら叫ぶ絶望的な演技は、それまでの彼女の頑張りをみているだけに、心臓がつぶされるような心持ちになります。
そして、バスタブの中から彼女は、母を求めるのです。
母は娘の人生を支配する
それまで、母親に対しては一定の距離を保っていたかに見えていたジェニファーが、はじめて、弱さを見せます。
にも関わらず、彼女の母親は、異変にまったく気づかず、酒を買って来いというのです。
彼女の母は、母ではなく、女としての自分しか意識していません。
ジェニファーの話を聞き流しながら、香水をかける姿をみただけで、彼女が女を優先しているのがわかります。
そして、ジェニファーが1歳のときに読んでいた、赤い本の話をはじめます。
映画を見ていると、なんで今こんな話をするんだ、と思ってしまうのですが、それこそが演出の意図するところだとわかり、その演出のうまさに舌を巻きました。
1歳のときから、娘が自分よりも賢いと思ってしまった母。
ジェニファー・ローレンスの演技力もあいまって、感情移入しっぱなしの中、なんで早く抱きしめてあげないんだと、もやもやさせられてしまいます。
こんな気持ちになってしまう。
これこそが、映画の醍醐味だと思いましたね。
単純に感動できる映画も、もちろんすばらしいのですが、気持ちをよびおこさせることもまた、映画ならではです。
実話がベースになっているとはいえ、映画の中で主人公達がたしかに生きていると感じられるからこそ、こういう気持ちが発生するものなのです。
さて、映画をみていると、なぜここまでひどい母親なのに、ジェニファーは彼女を見捨てないのかが気になります。
年齢的な問題もありますが、それは、精神科医である斉藤環先生の著作「母は娘の人生を支配する」をみるとよりわかるのですが、母親の支配から抜け出すことがいかに、難しいことであるかが、この映画をみてもわかります。
母親と同じになってしまうんじゃないかという娘の恐怖。
ですが、この物語では、母を乗り越え、ポーカーハウス(子宮)から外へでようとする、女の子の成長物語になっているのが、すばらしいです。
ポーカーハウスというのは、彼女にとって、決して選ぶことができない自分の母親でなのです。
その中には、汚いものがあるにしても、彼女は、あえてその中に戻り、自らドアを開けて進んでいってしまうところに、悲哀を感じてしまいます。
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劇の終わりに
自暴自棄になってしまいそうな中、彼女はバスケの試合に行きます。
彼女からすると日常は、まったくの別物になっているシーンですが、彼女は淡々とバスケをし、7分間で20点以上いれる大活躍をします。
試合会場には、自分を支えてくれれう仲間や大人がちゃんといて、みてくれていることに、彼女は気づくのです。
自分を必要としてくれるまわりや、妹達の存在。
母親を殺して、なんだったら、自分も死のうと思っていたかもしれない彼女。
しょうがねーなーっていう、まわりの状況に、彼女が車の中でもがくシーンは、演技力とあいまって印象的です。
うたのちから
「天使にラブソングを2」でもおなじみ、ダイアナ・ロスの「エイント・ノーマウンテン・ハイ・イナフ」を3人姉妹が歌います。
姉妹それぞれが、辛い思いをして、それぞれがしたたかに生きようとしている。
その三人が、ぼろぼろの車の中で、時々停止してしまうカーステレオにあわせて歌う様は、心がつかまれます。
この物語は、全てこの瞬間に集約されているといってもいいです。
音楽の力が彼女たちを勇気付けているのです。
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ジェニファー・ローレンス演じるアグネスは、黒人が好きです。
部屋中に、黒人スターのポスターが貼られており、聞いている音楽もソウルミュージック。
なぜ、黒人が好きなのか。
劇中では、言葉で理由が説明されることはありません。ですが、作中の音楽の使われ方でわかるように思いました。
それは、黒人達が奴隷時代の支配から脱出したという、ソウル(魂)そのものにあこがれているからこそ、アグネスは、黒人や黒人音楽が好きなんじゃないかということです。
12年もの間、自由黒人でありながら、拉致されて奴隷とされた12年間を描いた実話をもとにした映画です。
劇中で、黒人達は歌います。
あまりに、ひどい状況の中で、音楽だけが彼らを勇気づけていたのです。
ソウルというのは、歌うことでなんとか苦痛をやわらげたり、自分達の境遇を笑い飛ばそうとする黒人達の生き様そのもの。
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アグネスもまた、音楽の中にある力で、毎日を生きてきたということが、読み取れるのです。
それが「エイント・ノーマウンテン・ハイ・イナフ」を歌うことでより明確になるのがすばらしいです。
高すぎる山なんてない。深すぎる谷なんてない。
BY Ain't No Mountain High Enough
実話をもとにしているだけに、この物語の途中は本当に辛い気持ちになりますが、歌や、彼女たちのたくましさからは、多くの勇気をもらえることとと思います。
絶望の中にいるときこそ、この映画は心に残ります。
ウィンターズ・ボーン。
さて、「早熟のアイオワ」を見ていて、どうしても考えてしまうのが、「ウィンターズ・ボーン」でした。
冒頭でも軽く説明しましたが、ジェニファー・ローレンスの出世作でもあります。
丘に住むスコットランド移民たちを意味するヒルビリーの厳しい掟の中で、幼い兄弟や母親を守るために、立ち向かっていくのがジェニファーローレンスです。
この作品でも、貧乏な白人。守るべき兄弟がいますが、彼女のとる結末は異なります。同じように絶望的な状況の中で、ジェニファー・ローレンスは持ち前の力を如何なく発揮して乗り越えます。
かたや、母親からの支配からぬけだす話、かたや、父の代わりに家族を守ることを選ぶ少女の話。
ある意味、この「早熟のアイオワ」と対になってみることができる作品ですので、「早熟のアイオワ」をみて気に入った方は、「ウィンターズボーン」も楽しむことができると思います。
以上、「ジェニファー・ローレンスは今日も闘う/早熟のアイオワ」でした!