1982年、自分探しの旅 『おもひでぽろぽろ』
今日は高畑勲監督の映画『おもひでぽろぽろ』を取り上げたいと思います。ちょうどテレビでも放送があることですし。
子供時代と大人時代
映画の前半部分は、タエ子の子供時代の思い出が描かれます。実をいうと自分が子供のころこの映画を見ていたときは、この前半の子供時代しか記憶に残りませんでした…。
というのも大人時代の仙台パートはいきなりトシオの有機農業の話が始まりますし、映像的にもストーリー的にもちょいとダレる部分が入るからなんです。
まあ子供時代の話は、さくらももこの『ちびまる子ちゃん』とか『ほのぼの劇場』の小ネタみたいなものなのでわかりやすいのです。
ただ、今回見直すと自分の年齢もあがったことにより、山形パートでのトシオとタエ子のやりとり、タエ子のとまどいも、ある程度実感を持って見ることができました。
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高畑リアリズム
今作も高畑監督のリアリズムが炸裂しています。
とくに、みなさんも記憶に残っているかもしれませんが、子供時代のタエ子たちがパイナッップルを食べるシーン。
すっぱさも伝わってきますが、パイナップルを切る時の重さ、みずみずしさが素晴らしいです。
このような現実的な描写・カットが、物語の前提にあるため、夢見がちな年頃であるタエ子のファンタジックな妄想(自分を好きだという秀二とのやりとり、演劇・役者・スターへの憧れなど)部分が活きるんですね。
田舎への憧れ
子供のころから田舎好きというタエ子は、東京で働くうちにその気持ちがいっそう強くなり、山形の親類の家で農作業の手伝いをします。
居候も終わりというころに、その家のおばあちゃんからトシオの嫁に来てはどうかと誘いを受けます。
タエ子は走って家から飛び出すんですが、感情の出し方はなんとなく子供時代から変わってないのかな、という感じもします。
トシオはタエ子に、田舎の風景も人間が加工して都合のいいように改良したのだと教えます。
田舎の風景のうわべの美しさや農作業の楽しい部分だけにしか考えが及ばなかったとタエ子は反省します。
その反省が、かつてのクラスメイトのあべくんを思い出させます。
あべくんに偽善的な態度を取っていたことを後悔し続けていたタエ子ですが、それが自分の「本心」を探す「田舎」への旅行に実はつながっていました。
一方、トシオは高校時代までは東京での生活に憧れていましたが、結局、サラリーマンをやめ有機農業に人生をかけることを決意しました。
実のところ、タエ子もトシオも同じような葛藤を抱えていたのです。この作品は1982年ということで、そのような心のありかたも時代と切っても切れない関係にあるだと思われます。
そしてそのような葛藤に答えをだしたトシオの生き方にタエ子も惹かれたのでしょう、印象的なエンディングにつながります。
地味ではあるのだが…
全体的に見れば、この作品は地味な作品です。
「東京生まれ、東京育ちの20代中盤の女性が、ずっと憧れていた田舎の生活を現実的に受け止め、受け入れる」という話なのですから。
ですが、1982年という、まだ「自分探し」をする牧歌的な余裕のあった時代が非常に懐かしく思われるのです。
この話の舞台を2015年に移した場合、果たして、どの程度の説得力を持って作品を作ることができるのだろうか。
見終わったあと、そんなことをついつい考えてしまうのは、自分が年をとってしまっただけではないのでは…などと思いつつ。
『火垂るの墓』レビューはこちら