シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

人間は変わることができる。黒人差別/大統領の執事の涙

大統領の執事の涙 (字幕版)

 

 人間の価値観は変化していきます。

かつては良しとされていたものも、時代を経るにつれて悪いものにかわっていったりするものです。また、その逆もあります。

人類の歴史の中でも、奴隷文化や差別の歴史というものは今の我々にとってすれば、常識外のことであっても、当時の人たちであればあたりまえのことだったりします。


さて、ロビン・ウィリアムズの最後の出演作としても知られつつ、作品の内容としても非常に素晴らしい「大統領の執事の涙」について、語ってみたいと思います。

 

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黒人差別の歴史

 物語の冒頭で、キング牧師の言葉が引用されます。


「闇で闇を払えない。闇を払えるのは光だけ」


主人公である黒人のセシルは、農園で働いていますが、父親を理不尽に殺されます。
給仕係として働き、農園を逃げ出します。


本作品の大筋は、黒人奴隷のセシルという男が、堅実に仕事を勤め、ホワイトハウスの執事となり、歴代の大統領たちに仕える中で、黒人に対する扱いが変化していくさまをみていく、という物語です。


本作品の面白いのは、実際の出来事や、実在の人物をベースにしながら、よりわかりやすく物語をつくっている点です。


本作品は、アメリカという国の外側と内側から、黒人に対する差別が変化していくのをみせています。

 

どん底の時代

特にアメリカの南部がその象徴的なものとなっていますが、黒人奴隷というのはひどいものでした。

主人公のセシルはまさにその典型のような人物でありましたが、盗みに入った店の黒人に心構えを教えられます。

「客の目をみて、何が望みか察しろ」

「相手の心をよめ」

「お前のボスが思わず、微笑むように」

「本当の顔と、白人見せる顔の二つをもて。教えてやった、上品な言葉で話せ」

黒人だから必要な教えというわけではありません。

相手を想い、その上で行動を起こすというのは、人間社会においては普遍的なものといっていいでしょう。


盗みをするほどにすさんでいた彼は、仕事をしていく中で品性を身に着けていきます。


ダイジェストで語られはしますが、黒人はモノを盗んだりするのはあたりまえ、みたいな偏見が随所にちりばめられています。

主人公自身の変化

ホテルで働いていたときや、ホワイトハウス面接の時、彼は言います。

「私は政治というものに興味がございません」

彼は、白人社会で働く中で、政治には興味をもたない(おそらく、期待していない)という処世術で生きてきたのです。


本作品は、いくつモノ変化を見せています。


一つは、黒人の人権運動の変化

一つは、歴代の大統領の黒人に対する変化


そして、主人公自身の心の変化です。


大統領の執事の涙」で注目してみてもらいたいのは、主人公であるセシルが、政治に興味がない、といっていたにもかかわらず、自分自身が政治にかかわっていくようになっていく点です。


政治に興味はないという主人公。
彼は、たびたび政治についてたずねられますが、彼は答えません。

ですが、その彼が、歴代の大統領の信頼をかちとりながら、影響をあたえていくのです。

親子の物語

主人公には二人の息子がいます。


上の息子であるルイスは、物語上でつくられた架空の人物です。

本作品は実際の物語をベースにしていますが、適度なフィクションが添えられています。

大統領の執事を務めるセシルの息子が、バリバリの公民権運動家とわかっていたら、解任されかねないでしょう。


本作品では、セシル(親)とルイス(息子)の物語になっている点も含めて、すばらしい脚本となっています。


詳しい内容については避けますが、黒人と白人が同じベンチに座ることができなかったり、殺されてもその白人は処罰されないなど、極端に偏った社会がありました。

その中で、キング牧師や、マルコムXといった人物達によって、黒人の不当な扱いについて考える機会が生まれていったのです。


そのあたりについては、過去の映画作品の中でもたびたび描かれているところです。


セルマの行進が描かれた「グローリー/明日への行進(原題Selma)」などは、近年においては話題となった作品です。

 

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また、マルコムXでいえば、スパイク・リー監督による「マルコムX」は、マルコムXの一生を描いた作品として、非常に意義のある映画となっています。

 

 

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その黒人解放運動や、問題そのもののメタファーとしての主人公の息子、というのがまた魅力的です。

 

執事はダメなのか

息子であるルイスは、父親であるセシルにかみつきます。

黒人解放運動に参加している彼は、白人に頭をさげて給料をもらっている父親が許せないのです。

「お前の与えられているものは、その白人からのお金で買っているんだ」

といわれて、矛盾した思いをかかえる息子。


その現実もあって、主人公であるセシルは、意思のない人物か、と思ってしまうところですが、そうではありません。

 

「父親の職業は執事です」

マルコムXがルイスに言います。

「執事は立派な職業だ」

「それは、皮肉ですか」

「彼らは勤勉に働くことで、紋切り型の黒人像をかえた。高いモラルと、威厳あるふるまいによって。人間の壁を崩していったんだ。執事やメイドは、従属的といわれるが、彼らは戦死なのだ」

暴力的で品性がなく、奴隷にしてあたりまえというのが黒人という意識があったところから、セシルのように生きることによって世の中をかえている人もいる、と言っているところがすばらしいです。

そして、マルコムXは付け加えます。


「彼らは戦死なのだ。自覚なしに」


つまり、自覚的をもって動いているのは、彼ら(マルコムX含めた活動家)なのだ、ということも含まれているのです。

 

やがて変わる彼

物語の最後に、セシルは自分の仕事に対して情熱がもてなくなります。

彼は、自分自身が本当にやるべきことに気づいたのです。

世の中がかわっていったことで、黒人の扱いもかわり、やがて、自分自身が何と向き合っていくべきかに気づく。

 

物語の最後に、初のアフリカ系の大統領が誕生します。

バラク・オバマ元大統領です。


トランプ大統領によって、すっかりアメリカに対する印象と言うのはさまがわりしていますが、この作品をみることで、農園で奴隷をやっていて、散々蔑まれてきた黒人達がどのような思いで、白人以外の大統領が誕生したことを祝ったのかがわかります。

物語の集大成として、オバマ大統領が誕生した、というのは特別なことだったのです。


本作品は、巨大な差別や偏見をかえるということが、勤勉に働いたり、コツコツとした努力の積み重ねもある、ということを教えてくれる作品となっています。

再び世の中は、かわっていっていますが、本作品をみることでわかるものが多いです。


以上、「人間は、変わることができる。黒人差別/大統領の執事の涙」でした!

 

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