世界から遠く離れて 『1999年の夏休み』
今回は平成ガメラシリーズでもおなじみ金子修介監督の『1999年の夏休み』(1988年、日本、90分)です。
こちらも「櫻の園」に続いて深夜とか明け方に一人でひっそりと観たい系映画です。濃いファンサイトもつくられるほど人気のある作品ですね。
少女漫画の傑作、萩尾望都の『トーマの心臓』を原作にした、少年たちの愛と孤独の物語で、登場人物が、悠/薫(宮島依里、一人二役)、和彦(大寶智子)、直人(中野みゆき)、則夫(水原里絵、現在は深津絵里)の4人しかいません。
ということで、この4人の関係性が映画のメインとなるわけですね。
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役者は全員女性なのですが、男装して少年として演技しています。声も則男以外は声優があてています(男性声優と女性声優が混じっていますが、あくまで少年として声があてられています)。
舞台は全寮制の学校で夏休みのため、和彦、直人、則夫以外の生徒は帰郷しています。そんな3人の前に、3ヶ月前に死んだ悠にそっくりな薫という少年が転校生として姿をあらわします。静かで単調な生活が続くはずだった夏休み。薫の登場が、そんな夏休みを特別で忘れられない時間に変化させていきます。
製作年代から考えると、「1999年の夏休み」は近未来となり、SFチックな小道具も登場します。登場人物は4人しかおらず、子供たちだけの閉ざされた空間です。学園は、美しい森や湖に囲まれており、隔絶された少年たちの心象風景そのものといえます。
映画での光の使われ方や中村由利子によるピアノ曲もファンタジックな世界観を形づくるのにピッタリです。
鉄道に乗ってやってきた薫は、少年たちのモラトリアム(卵の殻)を壊すために学校の外部から侵入する、境界を越える存在です。彼は、死んだはずの悠と同じ姿をしているので、生と死の境界をも曖昧にしています。登場人物名は日本名ですが、具体的な地名は登場しません。「世界のどこか」感が強いです。女優が男を演じているのも性の境界を揺らがせるための手法ですね。
ラスト近く、夕焼けを眺めるシーンがとても綺麗です。美しい自然と少年たちの内的世界が見事に表現された、非常にみずみずしい作品です。