爆裂!相米ワールド 『ションベン・ライダー』(1983年)
『ションベン・ライダー』。
相米慎二の三作目(『翔んだカップル』、『セーラー服と機関銃』に続く)であり、主演をつとめた河合美智子と永瀬正敏にとってはデビュー作(主要登場人物である少年少女のもう一人は坂上忍)。
不可解にしてエネルギーに満ち溢れた本作は、映画とは何かまで考えさせるような強度を持つ作品です。
変貌する映画
内容を簡単にまとめてしまえば、いじめっ子に仕返しをしようとしている三人の少年少女、そのいじめっ子がやくざに誘拐されてしまい、その行方を三人で追っているうちに中年やくざと出会い、裏の大人の世界に迷い込んでしまうというお話。
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本作は上映時間約2時間なのですが、仮編集版は3時間30分程度あったそうです。つまり、物語そのものを追う映画ではないということが分かります。
確かに視聴中、説明不足だなと思う部分は多々でてきます。映像はそんな観客の疑問を置き去りにして延々と少年少女三人を捕らえつづけます。
長回しで写される三人。
ほとんど遠くから写されるため、個々の表情は詳しくは分かりません。
そのかわりかどうか分かりませんが、三人は全身で演技をします。
有名な、橋から木場へと続く追跡シーンや、軽トラに自転車で追いついて飛びつくシーン、誘拐犯が立てこもった幼稚園の屋上から侵入を試みるシーンも、ガチで子供にやらせています(今なら到底ストップがかかるでしょう)。
ブルース(河合美智子)、ジョジョ(永瀬正敏)、辞書(坂上忍)の三人が、いじめっ子のデブナガの行方を探るという単純なストーリーなのですが、横浜へ行ったり名古屋へ行ったりと夏休みの子供たちにとっての青春冒険映画となっています。大人の世界を垣間見た「ひと夏の経験」は少年少女を少し変化させました。
そんな三人の中でも特に印象に残るのがブルース。
自分は男だと主張する彼女は他の二人に負けじと全身で夏を冒険します。デブナガの行方を探りに男湯に入るし、大声で叫びます。
旅の途中、不意に初潮を迎えた彼女は海につかります。背中を向けながら、辞書と会話するこの場面は二人の間にできた後戻りできない差異を感じさせ、なかなか切ないシーンです。
当初の完成予想図から映画自体が変化し、少年少女も変化し、そして観客の気持ちをも変化させる相米マジック。
それは前二作と無関係ではありません。
三度目の相米演出
『翔んだカップル』、『セーラー服と機関銃』で長回しを印象付けた相米監督。
本作でも冒頭から、校門脇の壁に描かれた「ションベンライダー」の文字まで一気にカットなしで撮影しています。前述した木場での追跡シーンや幼稚園侵入の場面も無駄なアップを使わず状況をそのまま描写しています。それがドキュメンタリー的な感覚も呼び起こし、子供の出演者にも演技プランを考えさせる相米氏のやり方とあいまって「生」の感覚を味わうことができます。
『翔んだカップル』ではカメラをほぼ固定しているかのような長回しが特に多い印象があります。次いで監督した『セーラー服と機関銃』では上下、遠景など様々な手法を凝らして薬師丸ひろ子というアイドルを見事に偶像化しました。
そして本作ではその演出はさらに過激になり、今度は被写体だけではなくストーリーまで何だか「遠くから眺めているような」気分を観客に与えます。
それが「在りし日の自分/しかし決してなかったはずの過去」たる少年少女三人の存在とあいまって強烈な作用を巻き起こしているのです。
やはりこのような作品は映画館の大きなスクリーンで堪能したい。
そう思わせる一本でした。
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