シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

ざわめく木々たち 『櫻の園』(1990年)

本日取り上げる作品は「櫻の園」(1990年、96分、日本)。

吉田秋生による原作漫画を中原俊監督が映画化した青春映画の傑作であります!

 

舞台は桜華学園という女子高です。創立記念日に演劇部がチェーホフ作「桜の園」を上演するのが慣わしになっていて、その当日の朝から上演寸前までの部員たちの心の動き・ざわめきを丁寧に追った作品です。個人的に深夜とか明け方にひっそりと観たい映画です!

 

 

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演劇部の話なので、部員や顧問に関するエピソードがでてきますが、メインとなるのは、部長である志水由布子(中島ひろ子)、下級生のファンもついている倉田知世子(白島靖代)、問題児といわれている杉山紀子(つみきみほ)の三人の三年生の関係です。

志水は倉田が好きで、杉山は志水が好き。倉田はコンプレックスを抱え込み、主役である女主人役が自分には不向きだと思いスランプになる。それぞれ胸の内に秘密を持っているのですが、上演当日に静かに思いを告白します(直接、間接の違いはあるけど)。

 

この映画では上記のとおり性の問題が取り上げられています。

冒頭、まるで主人公かのように登場する二年生の城丸(宮澤美保)には恋人がいます。

物語中盤の城丸の長台詞が、桜=学園(変化のないもの)と、三年生の部員(これから変化せざるをえないもの)の関係性を指摘しています。この台詞を、性の問題を一応はクリアしており、舞台監督という立場でもある二年生の城丸に言わせるのがうまいなーと思いました。

 

映像に関してですが、カメラは「桜の園」=桜華学園の中でしか移動しません。

その分、カット割に非常に凝っているので何度も見返したくなる魅力があるんですよね。

冒頭の城丸のシーン、カメラがスーっと入ってきて稽古場を写す場面もいいですね。

学園の周辺には桜の木がたくさん植えられているんですが、それがまた綺麗にとれています。

タバコという小道具の使い方もうまいです(前日、杉山が意図せず巻き起こした、「桜の園」が上演中止になるかもしれない騒動の原因もタバコです)。

 

この映画のハイライトといえば、終盤の、志水・倉田による記念写真の撮影シーン。

告白を受け入れ、思いが通じた二人(「桜の園」上演前の気分の高揚も関係あるでしょう)が笑顔で写真を撮るシーンではスローモーションが使われます。部活動=学生生活において、この写真が一番の思い出となるのは間違いありません。二人はこの記念写真を人生のどの時点まで大事に持っているのか、それも気になるところです。

そして撮影を窓の外からひっそりと眺めている杉山。思いをストレートに告白できないだけではなく、好きな人が笑顔を見せていてその相手が自分ではない、このシーンはほんと切ないシーンですね。

 

櫻の園【HDリマスター版】 [DVD]

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原作の漫画ももちろん名作ですが、この映画は監督の作家性が見事に結実していて、何度も見返したくなる出来映えです。続編の企画もあったようですが結局実現しませんでしたね。

同じ監督でリメイク(というか全く別の話)された2008年版は未見ですが、機会があればみたいと思います。

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