シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

騙されるより、騙されたい。マッチスティック・メン

マッチスティック・メン (字幕版)

 

騙されるということは不幸なことなのでしょうか。

多くの場合、騙されることはいいことではなく、残念な出来事であることは間違いありませんが、時には騙されたほうがいいことだってあったりします。


リドリー・スコット監督が描く、詐欺師を主人公にした映画「マッチスティックメン」について、その魅力を語ってみたいと思います。

 

強迫神経症の男


主人公を演じるのはいわずと知れたニコラス・ケイジです。


特徴的な顔立ちと、演技力の高さは「マッチスティック・メン」の中でも如何なく発揮されています。

主人公であるロイは、自らを詐欺のアーティストと呼ぶほど、詐欺師としての自分にプライドを持って生きています。

完璧な仕事ぶりで、人をだまして大金をせしめることで、彼は、ものすごい豪邸に一人で住むことができています。

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しかし、そんな彼にも欠点があります。


それは、極度の強迫神経症です。


家のドアを空けるときは「ワン、ツー、スリー」といわなければあけないというルールが課されていたり、ホコリなどがあると気になってしょうがなくなります。

手も綺麗に拭かなければいけませんし、詐欺を行ってる真っ最中にも関わらず、光りに反射して家のほこりがみえた瞬間、そのストレスから、顔がぴくぴくと動いてチックを発症したりと、大変な日常生活がわかります。

 

詐欺師が求めるものとは

ニコラス・ケイジ演じるロイは、サム・ロックウェル演じるフランクという男をとコンビを組んで詐欺を行っています。


冒頭から、商品があたったと連絡をして、理由をつけて価値のないものを売りつけようとする詐欺が行われています。

 

さらに、その詐欺をつかって、FBIの捜査官のふりをしてさらにお金を騙し取る、というとんでもない詐欺を日常的にやっているのがわかります。

ただし、フランクという男は、ロイと違って、かなりがさつな男です。


主人公であるロイが、綺麗に片付けた部屋にずかずかとあがりこんで、食べ物のカスをボロボロとこぼして主人公をいらだたせます。


仕事のできる男と、間の抜けた相棒という構図だけでいえば、近年有名どころでは、メタンフェタミンをつかったブルーメスと呼ばれる麻薬を生成することで家族にお金を残そうとする化学教師ウォルター・ホワイトと、間抜けな元生徒であるジェシーが麻薬を売りながら麻薬王にのぼりつめていく姿を描いた傑作ドラマ「ブレイキング・バッド」を思い出すところです。

 

ロイは、神経症を抑えるために薬を飲んでいました。

しかし、薬をもらっていた医者が失踪してしまったために、新しい医者にかかることになります。

新しい医師には、改めて病状やらを説明しなければならず、自分の過去について話していくうちに、彼は、別れた元妻との関係を思い出して、その元妻との間に、子供がいたかもしれないについて、悩んでいることが発覚します。

娘のために

「マッチスティックメン」の大筋としては、完璧な詐欺師であるロイが、治療のために、妻との間にできたと思われる娘と会うことで、親として娘に接するようになったり、自分以外の人間に優しくできるようになったりと、主人公自身が代わっていくと共に、詐欺ができなくなっていく、というものです。


娘に「詐欺の仕方、教えて」とせがまれて、彼は結局教えることになるのですが、詐欺をするという行為が、悪いことだということについても教えるところが素晴らしいところです。

 

 娘役であるアンジェラ(天使を意味する、エンジェルの変形させた名前という時点で、ちょっと出来すぎている気がしたりもします)が、現れることで、彼の生活は一遍していくのです。

 

詐欺や言葉のもって生き方

「マッチステッックメン」で面白いのは、詐欺の手口がわかることと、物事を強引に進めていく方法の一端わかるところでしょうか。


娘に教えた詐欺というのは、宝くじを使ったもので、人間心理をついた巧みなものです。

人のいい人間であれば、あっさりと引っかかってしまうことでしょう。

「マッチスティックメン」からわかる詐欺のポイントは、やはり、お膳立てはするけれど、結局、騙された人は、自分が騙されていることに気づかないことでしょう。

 

あくまで、自分の意思だと思い込んで、騙されるのです。

いかに自然に物事を運び、まるで、自分で選んだように仕向けるか、が大きなポイントです。

 

または、交渉術も駆使されます。

アンジェラは、詐欺の仕方を教えてと頼みますが、

「無垢で美しい娘は道を踏み外すな」と断られます。

そこで、すかさずアンジェラは「私って美しいかな」と髪を触ります。

結局、ロイは詐欺の仕方は教えてくれませんが、次のシーンで

「私は無垢じゃないよ。色々経験済みだし、教えてあげようか」
と、あることないこと話し始めます。

その言葉に観念して、ロイは「わかった。教える」
と言ってしまうのです。

 

ロイの「無垢で美しい娘は道を踏み外すな」という台詞から、アンジェラは、ロイが自分に対してもっている無垢なイメージが壊れるほうが辛い、ということがわかったのです。

こういうやりとりが、詐欺というよりは、会話から相手の真意をさぐっていくのが面白いところです。

もしも、美しいかな、というところで反応していれば、アンジェラは色仕掛けの一つもしたかもしれませんが、詐欺師達がどうやって人間の心の中をさぐっているかがわかるところからも、油断ならない人たちであることがわかります。

 

そういった場面はいくつもあって、道の真ん中で叫んでみたり、他者から注目をうけるようにして注意をそらしてみたりと、様々な手法で、他人を頷かせるための交渉術が行われているのも、本作品の特徴です。

 

ネタバレ後に

見たことのない人はかならず、映画を見てから当記事の残りをみて頂きたいと思います。


物語の途中まで見ていれば、どういうオチがまっているかは想像がつくところなのですが、そうであったとしても、本作品は、綺麗に騙されたほうが面白い映画となっています。


「絶対に騙す相手に騙されるな!」


とロイは言います。


視聴者である我々もまた、一度目は、騙されまいとしてみたほうがより楽しむことができるのです。


さて、というわけでここからはネタバレ感想です。

 


物語のラストのほうで、主人公は、再び娘と出会います。


そこは、絨毯を売るお店で、主人公がかつて行っていた大金が動くものでもない、地味な仕事です。

さらに補足すれば、絨毯なんてほこりが発生する仕事をあえて選んでいるという時点で、彼が既に神経症を治していることがわかります。


その場所に、実にろくでもなさそうな彼氏をつれて、アンジェラがやってきてしまいます。


一瞬、ものすごい顔になるニコラス・ケイジ演じるロイですが、何もなかったかのようにやさしく接します。


たとえ、何があったとしても、ロイにとって、アンジェラは娘なのです。

血がつながっているとか、そういう問題ではない。


仮に嘘だとしても、誰にかに愛情を向けてもらったことで、主人公はかわることができたのです。


もっと正確なことをいえば、彼は、妊娠したままの元妻を置いて、逃げてしまったことをずっと後悔していました。

その影響もあって、強迫神経症のような状態になってしまっていたのですが、今更、別れた妻に対して、子供がどうなったかを聞く勇気もなかったのです。


しかし、自分自身が騙されたことを知り、なりふりかまわず元妻のところにいったら「流産したのよ」と告げられ、彼は、笑います。

一つは、散々「騙す人間に、騙されるな」といっていた、自分こそが騙されてしまったという事実。

そして、もう一つは、自分がずっと抱えていた、妊娠した妻を置いて去ったという罪悪感が、意味のないものだったことに。

(意味がないわけではありませんが、実態のない影におびえていたのは間違いないでしょう)


妻にしてみればひどい話でしょうが、ロイからすれば、ようやく開放された瞬間だったのです。


この映画は、たんなる詐欺の映画ではなく、一人の男の苦悩と、成長を描いた作品となっており、テンポも速く見やすい映画であるため、見返してみると新たな発見があるかもしれません。

 

以上、騙されるより、騙されたい。マッチスティック・メンでした!

 

リドリー・スコット監督作品の記事は以下になります。

 

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

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