シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

子供が大人になるということ。感想&解説 映画「オーバーボード」

オーバーボード (字幕版)


自分の今いる状況というのが実は夢のようなもので、本当の自分はまったく別のどこかにいる、と考えてしまったことはないでしょうか。


「オーバーボード」は、けた違いの大富豪の息子が、記憶喪失になって、シングルマザーの貧乏家族の父親だと思わされてしまうコメディです。

ロマンティック・コメディとしての王道をいくような本作品ですが、どんな年齢でも楽しめて、且つ、感動できる作品となっていますので、そのあたりも含めて解説してみたいと思います。

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あらすじ

本作品の主人公は、3人の娘のシングルマザーとして生活苦に苦しむ主人公ケイトになっています。


彼女は、貧困から抜け出すために看護師になるための試験を受けようとするのですが、3人の娘を育てながら試験勉強をしつつ、仕事を二つ掛け持ちしながら生活しています。


アメリカは、子供を一人でいさせることはできません。

そのため、母親の家にいくのですが母親は夢を求めて家からいなくなってしまい、結局、子守と両立させながら試験勉強をすることになるのですが、そんな中、大富豪であるレオナルドに会ってしまいます。

レオナルドは、退廃的なお金持ちであり、美女を呼んで、豪華クルーザーでどんちゃん騒ぎをしています。

彼は大企業の社長の息子であり、他人のことを顧みたりすることもなく、嫌みな性格の男です。

ケイトは、そんな彼にいじわるをされて、商売道具をつかえなくされてしまい、散々な目に合うのです。

金持ちへの報復もの?

ひょんなことから、レオナルドは記憶喪失になります。

「オーバーボード」は、いってしまえばよくある話といえなくもありません。


記憶を失って騙されて貧困家庭にいったレオナルドは、労働者階級からバカにされながら、やがて、成長していき、偽物だった妻を本当に愛するという物語になっています。


本作品は、わかりやすいストーリーでありながら、子供が大人になるということの変遷もまた見事に描いています。


記憶を失ったら、おとなしくなるのが普通かと思いますが、レオナルドはそうではありません。

「肉は食べたくない、魚をだせ。スズキのムニエルだ。ぐずぐずせずもってこい」といってみたり、文句だらけで大変な状態です。

ケイトと夫婦だとしぶしぶ納得して生活を送りますが、そのギャップが面白く描かれています。

物語の前半は、お金持ちが記憶喪失になったことをいいことに、貧乏人に復讐される、というコメディになっています。

自分の家だといわれた家を見て、レオは

「僕は貧乏人?」

というところや、自分が3人の娘の親であることを知って、信じられない(信じられなくて当然でしょうが)ところなどは、コメディらしい面白さにあふれています。

子供から大人へ

細かいところは作品をみていただければいいのですが、本作品からわかるのは、子供がどういう風に大人になるか、というところです。

子供というのは、もちろん40を過ぎているであろう大富豪の息子レオナルドという男のことです。

お金にものをいわせて美女をはべらせ、些細なことであっても使用人に指示をして、二言目には文句を言って、言い訳をして動かないような男です。

 

肉体労働をさせられることになった彼は

「使い走りとか事務のほうがきっと向いている。マフィンを買うとか」

彼は何度も現実を疑って、なかなか現実に向き合い切ろうとしません。

そして、高級な邸宅にプールをつくる仕事をするのですが、そこで美女と楽しんでいる金持ちの男女をみて、まるで自分があっち側だったはずだった、とでもいうような表情で見るのです。

自分は、非力で工事現場の土ひとつ捨てることができず、仲間たちにバカにされます。

「これが自分の人生だとどうしても思えないんだ。何かが間違っていると感じるんだ。妻が赤の他人に思えたり。夫婦としての実感がない。最後に一緒に寝た日もわからない」

彼は現場の仲間たちに言います。

「俺もだ。高校時代の女房は最高にセクシーだった。今はまるで別人だ。最後は、3歳になる娘を仕込んだときだ」

それでも、レオナルドは食い下がります。

「まるで、自分がATMにでもなった気がするんだ」

「それが旦那ってものさ。引き出せるのはわずかだが。俺たちも同じだ」
「みんなも?」
「お前は恵まれている。仕事はあるし、心の広い奥さんとかわいい娘たちもいる」

「ドン・コルレオーネはいった。男らしくしろ。そして、ビンタだ」

といって、叩かれます、


自分だけが被害者で、種なしで、アルコール依存症で、貧乏だと思っていた彼ですが、みんなも悩んでいるんだということを知ります。

子供から大人へかわる一歩は、他人を知ることです。

そして家に帰った彼は、一生懸命勉強しているケイトを見ていとおしく思っていくのです。


そこには、自分のことしか考えなかった彼ではなく、同じ悩みをもつ仕事仲間と気持ちを共有したり、自分自身の境遇が必ずしも不幸なだけではない、ということを理解して大人へと変わっていく一人の男が見えるのです。

やがて変わる主人公

はじまりこそ騙して夫婦にみせかけていた主人公ケイトですが、やがて、変わっていくレオナルドに対して悪い気持ちだけをもつこともできず、やがて、惹かれていってしまいます。

レオナルド自身も、自分の境遇を受け入れたことで、娘たちに自転車を教えてあげたり、大人として男女の付き合い方について注意をして心配をしたりと、変わっていくのです。


シングルマザーとして頑張っていた主人公一人では、決してできなかったことであり、彼は彼らの精神的に大きな位置を占めていくようになるのです。


それまでが、さんざん嫌なやつであり、現実を受け入れようとしない人間だっただけに、不器用ながら努力してみたりする姿にはぐっとくるものがあります。

 

実はリメイク

「オーバーボード」は、1987年に公開された「潮風のいたずら」のリメイクとなっています。

潮風のいたずら」では、記憶喪失になるのは富豪は女性であり、貧乏人は男の側になっています。

いきなり4人の子持ちとなった富豪婦人の物語になりますが、物語の骨子となる部分から重要なセリフに至るまで、その大半がリメイク前と共通しています。

ただし、その演出は、リメイク版である「オーバーボード」のほうがはるかに優れています。

「オーバーボード」は、シングルマザーであるケイトが、レオナルドのせいもあって住む家を追い出されることになりそうだったりする事情の中で、友人にそそのかされて追い込まれて実行します。

さらには、文書偽造をしてみたり、演技やごまかしもうまく、ケイトがレオナルドにひかれていくのもわかるような脚本づくりや、演出になっています。

 

対して、「潮風のいたずら」は、男の子4人が母親がいないことで危険なことになりそうな雰囲気はわかるのですが、決定的な状況には追い込まれていません。

男側もお金がないといいながらも毎晩飲み歩いてみたり、子供たちに対して「俺たちは親友だ」といって親であることを放棄しています。

潮風のいたずら」では女性側も子供ではあるのですが、男性側もまた子供であるため、二人が惹かれていく理由が「オーバーボード」に比べるとだいぶ薄くみえてしまうところです。

リメイクのうまさ

リメイク作品だということを含めて考えても、本作品は演出・構成がうまいです。

派手な演出などはしませんが、「潮風のいたずら」と違って、レオナルドが娘に教えた自転車によって、去っていくリムジンを追いかけてみたりするところは泣けます。

今までお金もちとして下の人間たちのことなど一切気にかけなかった彼が、現場での仕事を経験することで変わったことを「14キロのセメント袋も売り出すべきだ」といってみたり、かわっていく様がわかる点も素晴らしいです。

本作品は、お金か愛か、という二択の物語ではありません。

ただ、どんなにお金があったとしても幸福ではなく、本当に大切なものがどういうものか、現実をしっかりみて、自分が今持っているものを大事にするということを含めて教えてくれる、非常によい映画となっています。

 

以上、子供が大人になるということ。感想&解説 映画「オーバーボード」でした!

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