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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

ブギーマンが、ついてくる。/イットフォローズ(IT Follows)

ポスター/スチール写真 A4 パターンA イット・フォローズ 光沢プリント

 

 

2015年に公開され、わずか4館の上映ながら、あのクエンティン・タランティーノ監督からも絶賛され、「今までみたことがないホラー映画」という触れ込みの中、一気に人気を広げている映画があります。


「それ」をうつされた人間は、ゆっくり歩いてくる「それ」が見え、「それ」につかまると殺されてしまう。


数百億円かけるのはあたりまえとなっているアメリカ映画において、わずか2億円程度でつくりあげ、新鮮な設定と、その物語の解釈によって注目をあつめているのが「イット・フォローズ」です。


ストーリー自体は単純ながら、物語が何を物語っているのか、その難解さとあいまって、どういう風に見ればいいのかわからなくなりそうな本作品ですが、誤解をおそれず、「感想・考え」をみなさんにお伝えしてみたいと思います。


ネタバレになる恐れもありますので、是非映画を観てからご覧いただくのがいいと思いますが、観たとしても、「イット・フォローズ」における恐ろしさや、主人公たちが体験している事実が色あせることはありません。

 

 

ソレは何だ?

 

主人公である女の子ジェイは、可愛い金髪の女の子です。

友達はいるのですが、少しお高くとまっているところもあり、どこか浮いた雰囲気をかもし出しています。

 

ですが、最近はデートをしている男の子とよい感じになっており、ついには、浜辺でキスをして、車の中で行為をはじめます。


「素敵な彼氏と手を繋いで、デートをするのが夢だったの」

という幸せそうな彼女を尻目に、彼は、彼女を無理やり縛りつけ、とある事実を話すのです。


「『それ』が君を追ってくる。君が殺されれば、次は、またボクのところにやってくるんだ」

そう言って、男は彼女の前から去ります。


時には老婆に、時には背の高い男に代わり、「それ」をうつされた人間たちにしか見えない存在が、ゆっくりと歩いてやってくる。


彼は、別の誰かと寝ることで、「それ」はうつっていく、といいます。

ジェイは、はたして「それ」から逃げることができるのか。

というのが、ざっくりとした内容です。

 

誰も信じられない。

 

ホラー映画というのは、お約束でできている部分が大きいそうです。


近年では、「キャビン」がそのお約束を逆手にとってつくられたホラー映画ということで話題を集めたところです。

その中で、みんなに隠れて情事を行うやつは、まっさきに殺される、というお約束があります。

本作品においても、行為をした相手に「それ」がやってくるということから、ホラー映画の伝統を受け継いでいるともいえます。

 

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「それ」をした人間から死んでいく。


物語の前半部分では、ジェイが、歩いてくる「それ」を見たことで半狂乱になります。

友人たちに相談しても、はじめは、あまり信じてくれません。


ストーカーや幽霊などの恐怖に襲われている人たちの恐怖は、なかなか他人には伝わらないというもどかしさが、彼女を孤独にしていきます。


気づくと窓の外側から歩いてやってくる、というヴィジュアル的な恐ろしさは、観ている我々の心も徐々に蝕みます。

 

やがて、何もない風景ですら、「それ」がいるんじゃないかと思ってしまう演出になっているのが絶妙です。


冒頭でも犠牲者がでるのですが、その女の子は、誰も信じられなくなっています。彼女は、誰の助けも求められないまま、やがて、一人で「それ」に殺されるのです。

 

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ジェイは、友人と妹がいる。

特に、その中の一人である、ポールは、ジェイのことが昔から好きです。ただ、内気な少年なだけに、目の前で他の男に彼女がとられていくのを、非常に辛い思いでみている存在でもあります。

 

やがて、友人たちで力を合わせて、「それ」に立ち向かっていく話に物語はかわっていきます。

 

ハロウィンの影響

 

監督であるデヴィット・ロバート・ミッチェルは、劇場パンフレット内のインタビューで下記の通り答えています。

 

ーーあなたが影響を受けた作品について聞かせて下さい。

あり過ぎて言えないな。ジョン・カーペンター監督作品、たくさんのホラー映画。「パリ、テキサス」(84)は何度も観たよ。「黒い罠」(58)も、「ローズマリーの赤ちゃん」(68)も、「シャイニング」(80)も、もちろん50年代と70年代の「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」(56)と「SF/ボディ・スナッチャー」(78)の両方ねもね。

 

「IT FOLLOWS」 パンフレットより 

 

ジョン・カーペンター作品の影響は、「イット・フォローズ」の中では特に顕著であるように思えます。


劇中でつかわれている音楽も、ジョン・カーペンター作品の中でつかわれる電子音のようなものがあり、「ハロウィン」では、似通った音楽の使い方されています。

 

「ハロウィン」といえば、スプラッター映画の代名詞ともいえる作品の一つです。

1978年に巨匠ジョン・カーペンター監督によって作り出され、現在においても新シリーズが継続中という、凄まじい映画です。

 

5歳の時に、行為を行ったあとの姉を惨殺した少年マイケルが、15年後に精神病院をぬけだして、3人の女の子をつけまわし、ハロウィンの日に、殺人が行われる、といった内容です。

 

その影響は大きく、「13日の金曜日」や「エルムガイの悪夢」といった、かつては金曜ロードショーの特定の時期には必ず流れていたラインナップに、絶大な影響を与えたとされています。

  

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ブギーマンは「ソレ」なのか?

 

ジョン・カーペンター監督「ハロウィン」の中の殺人鬼は、ブギーマンと呼ばれます。


続編を見るにつれて、設定があきらかになり、肉親を次々と殺していくという存在であることがわかってくるわけですが、「ハロウィン」の第一作においては、走行中に車をバカにした女の子3人が、ヘンタイに付けねらわれるという話にしかみえません。


ブギーマンは、彼女たちの視界にふと現れ、姿を消します。


カメラを引いていくと、何もいわず立っているブギーマン

窓の外をみると、立っているブギーマン


主人公の女の子は逃げますが、ブギーマンは決して走りません。

歩いて彼女を追いかけます。


それは、まるで、イットフォローズにおける「それ」そのものです。

このことからも、影響というよりは、ブギーマンを模している可能性は非常に高いと思われます。

 

映画「ハロウィン」で、殺人鬼であるマイケルは、あくまで人間です。

ただ、ブギーマンと名付けられたもとの意味が存在します。

 

ブギーマンとは、民間伝承における悪霊のような怪物そのもの、みたいなものと言われており、姿かたちはなく、不定形の恐怖が実体化したものであるということになっています。

 

「イット・フォローズ」においても、その姿は不定形であり、特に相手が見たくないものを見せているのがわかります。

 

「それ」がブギーマンである可能性は高いと思われますが、「イット・フォローズ」におけるブギーマンは、一体どういったものを表しているのでしょうか。

 

死についての話が語られるシーンがあります。

それは、30秒後かもしれないし、今かもしれない。

 

避けられない死としての象徴のようなものが「それ」なのかとも思いましたが、それだけではないように思います。

 

 

物語、ラストシーンの意味(ネタバレ)

 

ここから先は、ちょっとネタバレを含んだ考察になりますので、先入観を持ちたくない方は、是非ご覧になってから戻ってきていただきたいと思います。

 

 

さて、この映画をみて勘ぐってしまうことがあります。

それは、不幸の上に幸福がなりたっているのではないか、というものです。

 

 


最後に、ポールとジェイは手を繋いで歩きます。


ジェイは、ポールに言っていないことがあります。それは、彼女のとある行動と、手に巻いてある包帯の色で暗示されるのですが、心が痛むところです。

 

また、ポールは、道で立っている女性を見つめます。


詳しくは述べませんが、彼らは、自分たちが助かるために、誰にもいえない秘密をかかえているのです。

その二人の手はたしかにつながれていますが、決して幸せそうではない。

 

ジェイは、美人だとまわりに言われるだけあって、実は男関係も希薄ではありません。その中、内気なポールは悔やんでいたことでしょう。

ジェイが、イケメンの彼氏と報われる幸福がある反面、ポールは、何度も傷ついていたに違いないのです。

 

だから、彼らが手を繋ぐ姿は、誰かの不幸にささえられているのかもしれない。


後ろから「それ」がついてくるかもしれない。

そんな、恐怖が映画の裏側にあるかもしれません。

 

8マイルを超えるのか


さらに、一歩うがった見方をしてみたいと思います。

 

 

彼らは、8マイルと呼ばれる場所を超えます。


この作品は、デトロイトが舞台になっているのですが、デトロイトといえばかつては自動車産業で栄えた場所でした。ですが、ジェネラルモーターズの破産などを受けて、いまや廃墟同然の街になってしまっています。

 

 

ラッパーであるエミネムが、自伝的半生を描いた映画に、自ら主演して話題となった映画「8マイル」の舞台でもあります。


8マイルロードと呼ばれるその道を隔てて、貧困層と富裕層がきっぱり別れてしまっているのが、デトロイトの現状です。


エミネムは、白人でありながら、黒人ばかりが住んでいた町に住んでいました。本来裕福であるはずの白人が、黒人の住む場所で暮らすというのは、それだけで貧困の酷さがわかるのです。

 

そんなエミネムは、8マイル・ロードの向こう側に行こうとして、ラップで成り上がっていく様を描いているのが「8マイル」です。

 

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「イット・フォローズ」では、「それ」と闘うために、主人公たちは、超えるためには両親に許可をもらわなければならないとされている場所。

「8マイル・ロード」を超えて、決戦の地へと赴くのです。

この行為は、彼らが一種の大人になったという暗示ともとれるかもしれません。


彼らが車で移動していたりする際には、なぜか、家がやたらに写されます。


その多くは、ぼろぼろで、廃墟同然のところもあります。

アメリカの家の中でも、非常に重要な、家の前の芝生が、ぼうぼうに生えてしまっているのをみても、いかにデトロイトが荒廃にむかっているのかがわかります。

 

彼らは、自分たちの今の生活が、デトロイトの悲惨な現状の上に成り立っていることを気にしないで、安穏と暮らしていたのです。


「イットフォローズ」で描かれる恐怖は、性に対する恐怖や、いつ訪れるかもわからない「死の恐怖」もあるでしょうが、もっと、自分たちが背負っていかなければならない、目を背けてはならない恐怖そのものがやってくる物語、とみることも、できるのではないでしょうか。

 

映画評論家の町山智弘氏が、TBSラジオ「たまむすび」の中で、「これは生と死と愛の物語なんだ」と監督が言っていたと話しておりました。

 

この物語からは、一面的ではない物語の真実があるのかもしれません。

 

ですが、「イット・フォローズ」は、自分の後ろを歩いてくる恐怖そのものを素直に楽しむこともできますので、身近によってくる恐怖に触れたくなったら、是非、ご覧になったうえで、「それ」が何か考えてみるのも面白いかもしれません。

 

以上「ブギーマンが、ついてくる/イットフォローズ(IT Follows)」でした!

 

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