ちゃんとしてなくていい。カーペンターのコメディSF映画「ダーク・スター」感想&解説
ジョン・カーペンター監督といえば、「ハロウィン」や「遊星からの物体X」といった作品、サスペンスやホラー的な要素を含んだ作品が多い巨匠です。
しかし、そんな巨匠といえど、初めての作品というのは存在するものです。
さて、そんなジョン・カーペンター監督の初作品でもある「ダーク・スター」について、簡単な感想と解説について述べてみたいと思います。
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低予算映画でも売れる
ハリウッド業界の歴史をひも解くまでもなく、映画業界というのは沢山のお金をかけた作品と、自主映画さながらの予算をつかっていても、興行収益を上げた作品というのは山のようにあるものです。
当時、売れた売れないというものはあるものの、「ダーク・スター」という作品は、ある種のカルト映画的な人気を誇っている映画ともいえる作品です。
ジョン・カーペンター監督が、学生時代に作成したフィルムに追加をすることでつくられた本作品は、今見ても安っぽい部分があるように思ってしまいますが、あまり先入観をもたずにみてみますと、古い映画だし、こんなものかな、と思いながら見ることができます。
ファミコンのようなピコピコ音と、それっぽい宇宙船の状況をあらわしたディスプレイ等、1974年に作られた作品とは思えない、それっぽさがあります。
また、本作品に主演し、且つ、脚本も手掛ける人物がいることもまた見逃せない点です。
そう、ダン・オバノンの存在です。
魂の戦士
ダン・オバノンは、のちにリドリー・スコット監督による「エイリアン」の脚本を担当し、SF関連の脚本を描かせたら右にでるものはいない人物となっています。
アーノルド・シュワルツェネッガー主演「トータル・リコール」なども有名作品です。
また、「ホドロスキーのDUNE」を知っている方であれば、ダン・オバノンが魂の戦士であることもご存じでしょう。
詳しい事情は省きますが、ホドロフスキーが認めた人物の一人であることは間違いありません。
傑出した才能をもつダン・オバノンが、処女作にしてジョン・カーペンターとタッグを組んでいる、今考えると、すごい作品となっているのです。
デコボコ野郎の宇宙旅
さて、作品の内容に入っていきたいと思います。
ネタバレはネタバレなので、気になる方は、ご覧になってからと思います。
ただ、本作品は、もう、基本SFコメディ作品となっておりまして、大真面目にこれから、ハードなSFを堪能するぞ、という心づもりでみると肩透かしをくらいますのでご注意ください。
「ダークスター」は、宇宙を開発するために、爆発しそうな不安定星を事前に破壊し、地球人が暮らせる星を整地ならぬ、整星する人物たちを描いています。
ちなみにアポロ計画が始動されているこの時代の映画において、この手の、特に、この時代の宇宙の世界というのは、憧れの世界を描いているともいえます。
厳しい試練や訓練に耐え、選ばれたものだけが宇宙にいけるはずが、もはや、「ダークスター」の設定では、それもまた過去の話です。
不安定な星を破壊するように命じられて、宇宙に行っている彼らですが、船長はすでに死んでいます。
しかも、そんな状況にも関わらず、予算を削られたからいう理由で補給物資の供給は断られ、それでも、乗組員の4人は星を破壊してまわるのです。
自分の名前すらわからなくなった男や、遊びがてらに船内で銃をぶっぱなす男、はては、宇宙を見上げてほかの船員とは関わらない男。
他人と間違えられて乗せられてしまったまま、4年が経過しているなんていう設定も飛び出してきて、宇宙パイロットっていったいなんなんだろうと思ってしまうメンバーです。
念のため、確認しますが、本作品はコメディです。
暇を持て余す
本作品は、肉沸き、血踊るようなことは起きません。
なんとなくやる気のない野郎たちが、一人でトランプをしてみたり、船内が壊れたから、食糧庫で寝泊まりをしてみたり、とにかくゆるい日常が流れています。
バルーンでできたチープな宇宙生物との追いかけっこが原因で、本格的に船が壊れるところなど、どうすればいいのかわからなくなってしまうほどです。
本作品の男たちは選ばれた人物ではなく、どこにでもいる人間だということなのです。
爆弾との対話
本作品で面白いのは、船内コンピュータや、爆弾とのやり取りです。
船内コンピュータと聞いて思い出されるのは、やはり「2001年宇宙の旅」のHALでしょうか。
いつ反乱を起こすのだろうかと思ってみているのですが、そんな素振りはありません。
なんともセクシーな声で、船員たちに語り掛けるだけです。
また、本作品の一番の見どころは、爆弾との対話です。
センサーが壊れたため、爆破装置が解除できなくなってしまった爆弾に、言葉で説得を試みます。
何を書いているか意味がわからないと思います。
既に、作品をみたあとであれば、説明するまでもないと思いますので、補足と思っていただければと思います。
現象学で乗り越えろ
冷凍された遺体の船長から
「現象学でも話してみたらどうだ」
と言われて、実際に話すというのも、おかしな話ですが、哲学的な問いかけでなんとかしようとします。
「爆弾、聞こえるか。君はなぜ、自分の存在がわかる?」
いわゆる、自己言及のパラドックスというやつです。
有名なものでいえば、嘘つきのパラドックスなんていうものがあります。
クレタ人が「クレタ人はいつも嘘をつく」という言葉を話した場合に、彼の言葉は嘘か本当か、といった類のものです。
おそらく、船内コンピュータクラスであれば、自己言及のパラドックス程度は簡単に解決してしまうでしょう。
ですが、爆発を制御するために作られた爆弾ぐらいであれば、それほど強固な自己を保有することはないはずだから、自己言及のパラドックスで動作不良にさせてしまえばいい、ということからの問いかけです。
ただ、そこを甘くみた挙句、まさか、爆弾が自我に目覚めて、爆発してしまうというのも、壮大なギャグとなっているところです。
ちなみに、地球から命令を受けて、すでに用済みになってしまっているのに、宇宙で仕事をし続ける彼らもまた、命令を受け付けなくなってしまった爆弾と変わらないよね、という構造的なギャグになっているところも面白い点だったりします。
関連映画
先ほども書いたようにスタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」の影響を受けつつ、「博士の異常な愛情」による核爆弾爆発の終わり方などを混ぜた作品として見ることができるかと思います。
「博士の異常な愛情」は、最後、核爆弾の上にのって、ロデオのようにして落下していく人物をみることになります。
「ダークスター」では、爆発した船体の破片に乗って、サーフィンするという頭のネジが飛んだ演出が話題だったりしますが、一種のオマージュだと考えても問題ないでしょう。
「ダークスター」が気にいった方はぜひ、そちらの2作品も再確認していただきつつ、本作品の、低予算ながらも低予算さを感じさせないつくりの工夫にもぜひ目を凝らしてみていただきたいところです。
以上、ちゃんとしてなくていい。カーペンターのコメディSF映画「ダークスター」感想&解説でした!