シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

松方弘樹は三度死ぬ   『仁義なき戦い』シリーズより

はじめに

 

映画『仁義なき戦い』シリーズの大きな特徴として、「同じ役者が別人として複数回登場する」ことが挙げられる。

こんな画期的な方法がいまだかつてあっただろうか(まあ、じつはあります。東映はよく使ってます)。

仁義なき戦い』シリーズ(このページでは初期の5部作を指すこととします)はわずか2年のあいだに5本が公開された。上記の方法が導入されたのは限られたスター役者を毎回登場させやすくするためといわれている。この驚異的な製作ペースの中、3回出演し、3回殺された男がいる。

 

それが松方弘樹だ。

 

仁義なき戦い 完結篇』脚本家である高田宏治は、松方弘樹を「陽性」の役者と評した。

菅原文太高倉健は「陰性」であり、「陰性」のほうが銀幕ではスターになりやすい。松方弘樹のように「陽性」のキャラクターをもちながらスターになるのは珍しい、と。

 

 

そんな松方弘樹が、陰も陽も飲み込むような大作シリーズで、どのような死に様を見せたのか。少し振り返ってみたい。

 

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仁義なき戦い』 坂井鉄也

 

サングラスの似合う男、坂井の鉄っちゃん。主人公の広能(菅原文太)も一目置く人物。知性・度胸・実直さを併せ持ったバランスのとれたヤクザと思われる。同じ山守組の新開派を叩き潰したり、親分である組長に向かって、「神輿が勝手に歩けるゆうなら歩いてみいや」と言い放つ。何度聞いてもいいセリフだ。自分も一度は使ってみたい。

 

松方が演じた3役の中で最もストーリーへの絡みが深かったキャラクターであり、ファンからの人気も高い(先ほどあげたように名台詞も多い)。

 

自分の子供が生まれた後は、より人間味のある性格になり、「自分たちのしたいことが自由にできる組」を結成しようとしたが実現しなかった。広能がタバコを出そうとしたのを拳銃と間違えてヒャアーッというヤクザらしからぬ(?)悲鳴をあげるのも、彼らしいといえば彼らしいのは下の台詞からも何となくうかがえる。

 

「わしらどこで道間違えたんかのう。夜中に酒飲んどるとつくづく極道がいやになってのう。足をあろうちゃるかおもうんじゃが、朝起きて若いもんにかこまれちょると夜中のことはコローっと忘れてしまうんじゃ」

 

車の中で広能にそう呟き、子供への土産を買うために一人立ち寄った店で、山守の若い衆に何発も銃弾を打ち込まれ、息絶える。

 

一時的には山守組長を引退まで追い込む勢いを持っていた坂井。ただ、彼が捨てられなかった人間性が仇となり、死期を早めることになってしまった。その悲劇性もファンの心をつかんで離さない。

 

仁義なき戦い 頂上作戦』 藤田正一 

 

岡島会長を頂点とする義西会の幹部、ショウちゃん。刑務所内で広能と顔見知りになる。病弱のため顔がどす黒い。仁義を重んずるタイプのヤクザで、岡島に忠誠を尽くす。面倒見もよく、共闘する(はずだった)川田組の若い衆である野崎にも気安く話しかける。岡島が射殺された後、何とか仇を討とうと川田組組長に協力を求めるが、金銭問題から裏切りにあう。病状が悪化(吐血)し、残された時間が少ないことを自覚していたが、自身が貸していた拳銃で野崎に撃ち殺される(野崎は川田組長にそそのかされた)。

 

『頂上作戦』では山守組(神和会系グループ)と打本組、広能組、義西会そのほか(明石組系グループ)の対立が描かれる。

物語前半はほぼ登場シーンはありません。顔見せと、野崎と多少絡む程度です(伏線というやつです)。

 

もともと岡島は、神和会系グループにも明石組系グループにも肩入れするつもりはなかったが、何というか成り行きで殺されてしまった。そんな会長の仇を討つのが物語後半の藤田の目的となる。ただ、いかんせん体がついていかず、また性格的にもどちらかというと穏健(岡島の影響もあろう)と思われ、機敏な行動ができなかった。目をかけていた野崎になぜ撃たれたのか。もしかしたら藤田は最期まで思い至らなかったかもしれない。結局、反山守組=反神和会系グループは仲間割れでむなしくも瓦解してしまった。

 

激しく咳き込む迫真の演技。その風貌もあいまって、そう多くない登場時間に比して、藤田は忘れられないキャラクターとなった。

 

仁義なき戦い 完結篇』 市岡輝吉

 

武田をトップとする政治結社天政会と対立する市岡組組長、市岡輝吉。テル。広能の舎弟である。「攻撃は最大の防御」というイケイケタイプ。ウヒョウヒョ笑いが何とも不気味な男だ。

 

武田の後釜を狙い、松村と反目する大友とは犬猿の仲であったが、反松村派とし共闘することになる。時代の変化に抗う、というかちょいついていけてない感じもある大友と市岡。イケイケ系ヤクザとして気があったのだろう。

市岡は天政会の跡目争いに乗じて、広能とともに広島を手に入れるという野望があったのだが、広能が出所する前、物語の中盤過ぎにほろ酔い気分で歩いていたところを松村派により射殺される。相手にも銃弾を撃ち込み、しぶといところをみせたが夢半ばで散っていった。その後、大友は逮捕され、松村が正式に天政会のトップとなった。出所後の、老いた広能にはもう暴れまわる気力も体力もなかった。

 

市岡は狂気と野心に満ちた魅力的なキャラクターだったが映画の中で姿を消してしまった。

 

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すごいぞ松方!!

 

これら3つの役を演じていたのが松方が31,32歳ごろという信じがたい事実。どうみても、何度みてもそんな若い年齢だというのがシンジラレナーイです。また、3つの役をきちんと演じ分けるのがスゴイです。

キャラクターの造形的には回を重ねるごとにどんどんエスカレートしてるように思いますし、本人も撮影では試行錯誤しながらも楽しい日々だったとインタビューで答えています。

 

さて、今回は松方弘樹の役者魂について触れてみました。今後、こういう役者はあらわれるのでしょうか。ぜひぜひ出てきてほしい。もっと面白い映画を、素晴らしい演技を観たい。

 

では、新たなスターの登場に期待しながら、さよならさよなら。

 

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