五部作、堂々の完結! 『仁義なき戦い 完結篇』(1974年)
今回は『仁義なき戦い』シリーズのラスト作品である、五作目の『完結篇』を取り上げます。
各組織の逮捕により収束したはずの広島抗争。しかし、これまで闘争の中心であった広能や武田より若い世代が次第に台頭しはじめ、まだまだ広島やくざの争いは終わりそうにありません。
簡単なあらすじ紹介
山守組の武田は広島やくざ組織の団結を狙って政治結社である天政会を作った。暴力団排除の風潮も高まる市民社会に対しての彼なりのアイデアであった。
広島やくざの大同団結といっても各人思惑はばらばらであったため、二代目会長である武田の跡目を巡って内部での争いが激しくなりつつあった。
そんな折、天政会の金庫番である参与・杉田が広能に近い市岡組組員によって殺される。市岡組への対応を巡り天政会内部は揉め、武田・松村ラインと大友・早川ラインの二つの対立が深まっていく。
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自身の逮捕が身近だと悟った武田は舎弟の松村を次期会長候補として決定し、敗れた早川らは仇であるはずの市岡と接触。大友・市岡が手を結ぶこととなる。
呉の槇原が出所すると松村は金の力を使い、自らの陣営に加える。しかし、呉にて槇原組との抗争を続けていた広能組組員により槇原は殺されてしまう。
一方、呉から広島に進入した市岡も松村派により射殺され、抗争の火は収まる気配を見せない。
出所した広能に対し、一足早く出所し会長に復帰した武田は直接接触。引退せずに広島に入った場合は命の保障はしないと伝える。しかし広能は拒否。松村も広能と対面し、引退を勧めるものの、回答は保留。
そんな中、反松村派の組員たちが三代目襲名のための挨拶まわりの途中にあった松村を襲撃する事件が起きる。瀕死の重傷を負う松村。しかし、彼はたとえ命を落としたとしても襲名式をやり遂げなければならなかった。
仁義なき登場人物たち
広能昌三(菅原文太)
前作ラストから引き続いて、北海道にて服役。『仁義なき戦い』の原作にあたる手記を書いているというシーンも登場する。呉の武闘派であり、舎弟の市岡に「もう一度広島抗争の表舞台にたって欲しい」と懇願されるも本人はあまり乗り気ではない様子。かつての自分たちのような若者の犠牲を増やしたくないのだ。
市岡が松村一派に殺されたことを知り、再び広島抗争の中心人物となるかと思われたが松村という新世代のやくざの台頭を前に結局、広能組若頭の氏家を天政会理事長として出向させ、本人は引退を決めた。
武田明(小林旭)
天政会二代目会長。市民社会、警察のやくざへの厳しい追及の目をくらまし生き延びるために政治結社として広島やくざをまとめあげる。服役中に、松村が力をつけたこともあり、三代目の座を彼に譲り広能より一足早く引退する。
松村保(北大路欣也)
天政会理事長、そして会長代行、後に三代目会長を襲名する。
武田のもとで若き理事長として力をつけ、旧世代にはない、金の力を有効活用しながらその強い信念とともにやくざ社会で頭角をあらわしていく。
天政会内部で対立する大友・早川と争うも、保釈された大友を不問として再び迎え入れるなどバランス感覚(?)も持つ。
武田不在時に政治結社としての天政会の解散を宣言したり、傘下会員へ自分と盃を改めるよう要求したりと難事を切り抜けるハートの強さも持つ。
武田が出所するとあっさり会長代行の座を降りて親分である武田の下に戻るなどやくざの「仁義」の心得も持つ。
瀕死の重傷を負いながらも三代目襲名式を強行する様子は圧巻。
かつては火の玉といわれたほどの向こう見ずだったらしい。
槇原政吉(田中邦衛)
呉の槇原組組長。仮出所後、松村、大友の両派と接触。どちらにも貫禄をみせるものの金の力に負けて松村派に。その後、あいかわらず山守にそそのかされて天政会会長への欲をみせるもかねてよりの抗争相手である広能組組員に白昼堂々殺害される。
山守義雄(金子信雄)
天政会初代会長。現在は表の仕事の関係もあるのか、裏方にまわっているが、まだまだやくざの表舞台に返り咲く意欲がある様子。早川らとともに武田・松村の隙をついて三代目を継承しろと槇原の尻を叩く。
市岡輝吉(松方弘樹)
呉・市岡組組長。広能の弟分。旧世代を大友と代表するかのような武闘派やくざであるが、新世代やくざからは疎まれている一面も。
天政会の金庫番・杉田を殺害し、揺さぶりをかけ、反目していたはずの大友と手を組むというサプライズを起す。
敵対する松村が槇原を抱え込んだことをしり広島に乗り込むも、松村の策略にあいあえなく射殺されてしまう。
大友勝利(宍戸錠)
大友組組長。病気の影響で頭がいかれている様子で、好戦的な性格はむしろ増している。当初は市岡に敵意をむき出しにしていたが、新世代の松村を倒すために市岡と手を組む。しかしその市岡が殺されてしまったため、弔い合戦のため、本来仲間うちであるはずの早川・槇原に応援を頼むも協力を得られなかったため一人で松村をとりにいこうとして大勢の警察官に取り押さえられる。
早川英男(織本順吉)
天政会の幹部で、松村の台頭を疎み、大友を担ぎ出して会長に据えようとするも情勢が不利だと感じると市岡とタッグを組ませるなどサプライズを巻き起こす。
いよいよ松村が権力を手中にすると天政会から脱会。組を解散するが、それはカモフラージュで今度は槇原を使って打倒松村を目論む。
氏家厚司(伊吹吾郎)
広能組若頭。冷静な性格で市岡の決起要請にも慎重な姿勢を崩さなかった。それもこれも広能の不在時に事を構えることを嫌ったからで、広能出所後は彼の意を汲んで天政会理事長として松村のもとに身を寄せることとなる・
間野豊明(山田吾一)
大友組若頭。松村の切り崩し工作にあい、大友のもとから離れる。
姉に「あきちゃん」と呼ばれている広能組員。彼なりに組をことを思って行動するのだが、トラブルを招くことも多い。姉家族に睡眠薬入りのコーラを振る舞い、店の売り上げを奪い、45口径の銃を買い槇原射殺を目論むも、直前にびびって別の組員に機会を譲った。物語のラストで槇原組残党に射殺されてしまう。
『仁義なき戦い 完結篇』のみどころ
なんといってもオープニングでしょう。平和を願って天政会面々が練り歩く様子を延々と映すという熱すぎる構図にテンションはマックスです。胡散臭さもマックスですが。その後、末端構成員が飲み屋で集会の愚痴をこぼすというところまでセットでとらえると、深作演出の巧みさが分かりますね。
本作の大きなテーマは世代交代。
松村という若く、野心も頭もある新世代のやくざの台頭がメインとなっており、武田・広能は脇に追いやられた感じです。我らが山守組長もちょこちょこ登場し、映画に華を添えます。
『仁義なき戦い』シリーズ恒例の「若者の報われない死」は本作でも継承されており、その代表が広能組の佐伯です。姉が遺体に足袋を履かせながらかける言葉には広能ならずともグっと胸にくるものがあります。
『仁義なき戦い 完結篇』評価・感想 まとめ
前4作の脚本を担当した笠原和夫が降板したこともあり、正直いってあまり評判がよろしくないとも聞きます。変わって執筆した高田宏治は松村の情婦を登場させ、女性を排除(せざるを得なかった)してきた『仁義なき戦い』の世界に新たな可能性を感じさせましたがもっと存在感が欲しかったという感想を抱きます。
ですが、この「女」の部分が『新・仁義なき戦い』シリーズにおいては存在を増して旧シリーズとは違った魅力となるのです。