アメリカンドリーム。マクドナルド創始者物語「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」
マクドナルドを食べたことのない人は、ほとんどいないのではないでしょうか。
世界各国に存在し、且つ、そのハンバーガーの基本構成はどの国でも同じであることから、経済の指標としてビックマック指数なんてものがあるぐらい、マクドナルドは世界的に店舗をもっている巨大企業です。
そんなマクドナルドが、どのようにして成長していったのか。
一人の男を中心に描かれた物語「ファウンダー」について、ハンバーガーが好きではなかったとしても、映画の中の面白さはかわりませんので、解説&感想を述べていきたいと思います。
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とあるセールスマンの物語
「バードマン(あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡)」や、若い時にはバットマンの主人公を演じたマイケル・キートンが主演です。
彼が演じるレイ・クロックは、野心家ではあるもののいまいちぱっとしないセールスマンです。
彼は苦労人で、もともとは、紙コップや、収納テーブル、そして、物語冒頭ではミルクシェイクの機械を売って生計を立てています。
彼は、派手な生活こそしていませんが、家を一軒もっており、そこに妻を住まわせることができたことに誇りをもっている男です。
ただ、奥さんは、アメリカ全土に商品を売り歩いている夫に対して、家にいてほしいと願っているのですが、主人公のクロックは新しいものに飛びつく人間で、野心家です。
マクドナルドを見つけたクロックに対して、奥さんは
「はじまった。目新しいものにすぐ飛びつく」といって呆れます。
「だから、この家で暮らせた」
とにかく彼は、自分が売ることのできる何かを探し求めているのです。
物語冒頭では、ミルクシェイクマシーンを何度も何度もいらないと断れ、そのたびに、各地のハンバーガーを売っている店を転々とします。
とても売れそうにない機械ではあるのですが、一気に6個のマシーンがほしいという注文が入ったことで、物語は動き出します。
マクドナルド創世記
主人公であるクロックは、マクドナルド兄弟に会います。
マクドナルド兄弟もまた苦労の人であり、映画館をやってみたり、ホットドックの店を開いたり、BBQ店を開いたりしたという話をします。
ちなみに、この時代のアメリカは、フォードによる低価格の車の普及がすすみ、まさにモータリゼーションの真っ最中。
戦争から戻ってきた若者たちも大勢現れて、ドライブイン文化が発達しますが、若者たちが集まりやすいということは、すなわち治安が悪くなるということです。
結果として、マクドナルド兄弟の店からは客足が遠のいていき売り上げは伸び悩みます。
主人公であるクロックもまた、全国を旅しながらBBQ店を回ったりして、長時間待たされたり注文が間違っていたりと、大変嫌な目にあっていたので、彼らの実体験がよくわかるのです。
そんなマクドナルド兄弟がだした秘策こそが、現代の我々にも通じるハンバーガー文化なのです。
安くてうまくて速い
当時のアメリカのBBQ店というのは、お酒も置いていて、フライドチキンをはじめとするいろいろな食べ物がある店となっています。
ですが、マクドナルド兄弟は、ハンバーガー、フライドポテト、ミルクシェイキの3つにメニューをしぼります。
お皿に乗せて提供していた食べ物を、今の我々のように包み紙に入れてだすことで、皿を割られることも、汚されることもなくなりました。
極めつけは、注文から30秒でだす、というところです。
現代ではもう少し遅くなり、かつ、注文してからつくったりしてはいるものの、当時はメニューが3つしかないので、フライング気味に作ることができ、かつ、出来立てです。
メニューが少ないから食材のロスも減ります。
また、当時のアメリカはまだまだ食品の衛生観念が発達しておらず、ハンバーガーを食べて食中毒を起こす、というのは頻発していました。
混ぜ物だって当たり前にしていたような時代です。
そんな中、ガラス張りで店内が見え、15セントという料金でハンバーガーが食べられたことで一気にマクドナルドは人気店になるのです。
そんな奇跡のような店を、主人公のクロックは、ようやく、売るものとして、見つけるのです。
もちろん、売るものは形のある商品ではなく、マクドナルド兄弟の店のシステムそのものです。
困難
マイケル・キートン演じるクロックは、マクドナルド兄弟に言います。
店のブランドやノウハウをつかって稼いでもらい、その利益から一定のロイヤリティをもらうフランチャイズ方式ですが、さんざんアメリカ中をめぐって嫌な思いをしてきた彼からすれば、アメリカ中にこんな店ができてほしいと思うのも当然といえるでしょう。
ですが、
「もうやってる」
彼らはこれ以上フランチャイズを広げない、といいます。
それは、品質管理ができないためです。
今でこそ、マクドナルドといえばマニュアル文化というのが根付いていますが、当時のアメリカにおいて、マニュアル通りに一定のものをつくる、ということをみんなしなかったのです。
フランチャイズといっても、店のオーナーになった人物はすぐに、自分の好きに店を変えていってしまうのです。
2枚しかいれないはずのピクルスを3枚入れてみたり、肉の焼き加減があまかったり、勝手に、フライドチキンをメニューに加えてみたりする。
クロックがなんとかして、店をひろげようとしますが、なかなか守ろうとはしてくれません。
そんな彼が、どういう人物がオーナーにふさわしいのか、ということも含めてよくできています。
兄弟との確執
物語の前半は、マクドナルド兄弟との出会い、そして兄弟たちの創業秘話にはじまり、主人公が長年かけて手に入れた家を抵当に、融資を受けて店をつくるところまでとなっています。
後半には、マクドナルド兄弟との確執が待っています。
今までの経験からマクドナルドの店のカタチにこだわるディックとマック・マクドナルド。
彼らの今までの人生からすれば、契約通りにやらせなければだめだ、と思っていることはよくわかります。
ですが、あまりに頭の固い彼らとの間に、溝が生まれてくるのです。
店に地下室をつくることすら認めてくれず、コカ・コーラを提供したいといっても断られる。
クロックが何かよいアイデアをだしても、マクドナルドらしくないからと却下されるのです。
しかし、必死の努力の甲斐もあってフランチャイズ店が増えていったにもかかわらず、クロックは家を抵当にとられそうになってしまいます。
フランチャイズ店の経費率が高く、純利益から受け取るロイヤリティが少なすぎて、彼はお金がなかったのです。
どうしようもないからこそ、ロイヤリティのアップを要求するクロックですが、それもディック・マクドナルドは拒否します。
どうしても、家だけは売りたくない彼は銀行に泣きつきますが、結局断られ、そこで、メフィストフェレスに出会うのです。
悪魔との契約
「ファウンダー ハンバーガー帝国の秘密」という映画は、マクドナルドという世界的な企業の創成秘話を語ったものとなっていると同時に、アメリカンドリームという巨大な夢の闇を語った作品としてみることもできます。
成功を夢見て、ようやくマクドナルドにたどり着いたレイ・クロック。
彼のもとにコンサルタントのハリーという男が現れたことで、物語は別の方向へ動き出します。
フランチャイズのロイヤリティだけでは暮らせなくなったレイ・クロックは、ハリーに言われて、土地のリースを始めます。
マクドナルドが莫大なお金を手に入れた背景には、巨大な土地をもつ企業である、という事実が背景にあることがわかるのです。
フランチャイズの条件の中に、クロックが選んだ土地を借りるということにすれば、ロイヤリティのほかの土地の賃料も入ります。
店舗が増えれば増えるほど、お金がたまっていくわけですが、クロックとしては、あることを達成したいと思っているのです。
経費を抑えるために、粉のミルクシェイキを使いたい。
冷凍庫の維持費が高いというのが主な理由であり、実際に行われたのは数年ですぐに廃止されたというのが現実の話です。
ですが、「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」では、このミルクシェイクによって、兄弟と主人公の間が分断される決定的なアイテムになっていくのです。
力は契約を超える
アメリカ社会は訴訟大国と言われます。
ですが、訴訟によって解決できるのは、それは同じような力をもっている人物同士に限られるところです。
主人公がマクドナルド兄弟との契約を破り、訴えられたとしたら普通なら負けてしまいます。
だからこそ、主人公はディック・マクドナルドの「ノーだ」という言葉に、怒って電話を切ることしかできなかったのです。
ですが、巨大な資金をもっていれば、契約を破棄することだって可能なのです。
優位に立っていると思っていたマクドナルド兄弟は、絶体絶命で頼ってきていたクロックをつきはなしました。
結果として。
クロックは、別の方法で資金の入手を考え、やがて巨大な資金を手に入れたとき、兄弟との関係は逆転するのです。
裁判というのはお金がかかります。
これは現代社会でもそうなのですが、訴訟をするためにかかる費用は大きいです。
争いが絶えない世の中で、簡単に訴訟があちこちで発生しないのは、それなりに手間と費用がかかるためなのです。
特にアメリカであれば、訴訟が長引けば、結局、資金力のないほうが負けてしまいます。
場外戦術によってクロックはマクドナルド兄弟との契約を打ち破り、本当の意味でマクドナルドを手に入れる、というある意味ダークヒーローな物語になっているのです。
さらに、内助の功で支えてくれた奥さんを主人公は捨て、マクドナルド兄弟は、店の名前を変えることになり、自分たちが先にもかかわらず店がつぶれてしまいます。
「マクドナルド。この響きこそがいい。クロックではだめなんだ」
主人公であるクロックは言います。
この映画は、アメリカという国に、マクドナルドというアメリカらしい響きの食文化がつくられた、というする物語でもあるのです。
建国から歴史が浅いアメリカの中で、見事に成功した男の物語。
成功者との差とは何か
「執念だ」
レイ・クロックは言います。
本来であれば、マクドナルドはマクドナルド兄弟の会社として成功するはずです。
ですが、マクドナルド兄弟は、店の名前をレイにとられてしまいます。
レイは、何度も色々な商品を売っては失敗してきましたが、最後にマクドナルドの創始者になりました。
「世の中に執念に勝るものはない。才能があっても、成功できないものはゴロゴロしている。天才も報われないのが世の常だ。学歴も賢さを伴うとは限らない。執念と覚悟があれば無敵だ」
この物語はたしかにマクドナルドの物語ですが、野心的な一人の男の、アメリカンドリームの物語として、非常に面白い作品となっています。
まさに、彼は見つけ出したもの、ファウンダー(創始者)なのです。
年齢でもなんでもなく、成功しようとする意志こそが大事である、ということが描かれているのです。
以上、アメリカンドリーム。マクドナルド創始者物語「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」でした!