アメリカ大統領は替え玉か/デーヴ
影響力という点においては、アメリカ大統領ほど影響力の強い人もいないのではないでしょうか。
アメリカ映画において、大統領を主役にした映画は数多くありますが、その中でも、大統領の影武者が主人公というコメディ映画は一風変わったものでもあります。
コメディ映画の中でも、地味でありながら非常に良質の脚本とキャスティングがされている「デーヴ」について、その魅力を語ってみたいと思います。
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大統領の影武者
物語そのものは、非常に単純です。
大統領の物まねをやりながら、職業斡旋所(派遣等もあるのかもしれない)を経営する主人公、デーヴ・コーヴィックは、大統領に似ているという理由から影武者に選ばれてしまいます。
そこで、大統領の真似をしながらも、大統領夫人に恋をし、やがて、アメリカ大統領としてどうしていけばいいのかを考えていく、という教育的でありつつも、しっかりとした脚本ですすめられている物語となっています。
素晴らしき哉、人生
主人公であるデーヴを見てすぐに気づくのが、彼が、フランク・キャプラ監督「素晴らしき哉、人生」にでてくるような主人公と同質の雰囲気を感じるということです。
映画評論家・解説者である故淀川長治氏曰く、
「フランク・キャプラタッチですわね。フランク・キャプラ映画のタッチがありましたね」
日曜洋画劇場 解説より
ということもあって、主人公の造詣に類似点が見られます。
フランク・キャプラといえば、アメリカの中でも偉大な監督として知られる人物です。
ただし、彼自身が評価されたのはかなり晩年のこと。
「素晴らしき哉、人生」の版権が安く買われたことにより、何度も繰り返しテレビ放送され、徐々にファンを増やし、評価されたという一風変わった監督でもあります。
「素晴らしき哉、人生」の主人公は、住宅ローンの融資を行っている男(建築貸付組合だそうです)であり、彼は、お金のない人のためにお金を貸し出しながら人助けをし、多くの人に好かれる人物です。
ですが、彼は多額の預金を紛失してしまった責任を負って、自殺をしようとします。
そこに天使がやってきて、彼がいなかった世界を見せることで、自分がいない世界がどういうものであるか、また、その結果不幸になる人や、自分自身がいることでどれほど人を助けていたのかを知り、自殺を踏みとどまる、という物語です。
アメリカでは、クリスマスの定番映画となっております。
「デーヴ」に戻りますが、デーブは、職業斡旋所をほそぼそと経営しながら、多くの人に好かれ、誰かを助けながら生きています。
脚本の妙
「デーヴ」は脚本的にも優れています。
脚本家のゲイリー・ロスは、本作品によってアカデミー脚本賞にノミネートされています。
ゲイリーロスの脚本で有名なものといえば、一匹の駄馬が競走馬として目覚めていくことで周りの男達もまた自分の中の自信をとりもどしていく姿を描いた「シービスケット」や、ジェニファー・ローレンス主演で人気を博した、アメリカ版バトルロワイヤル「ハンガー・ゲーム」の脚本などを手がけています。
そんなゲイリー・ロスによるコメディ映画こそが「デーヴ」なのです。
物語の内容自体は、先ほども書いたような、ひょんなことから大統領の影武者になり、巻き込まれていく主人公を描いており、激しい銃撃戦があるわけでも、心理戦が描かれるわけでもありません。
主人公は、大統領について思うところはあっても、だからといって政治に参画するような人物ではありませんでした。
飯の種として、物まねをしながら小銭を稼ぐぐらいであり、正直、政治そのものに対して関心などもっていなかったのです。
ですが、大統領の影武者になり、大統領夫人に一目ぼれしていくことでジョジョにかわっていくのです。
彼自身は、もともとひょうきんであり、知己に富んだ人です。
ですが、孤児院等の施設を訪れたりする中で、政治の本質に触れていくのです。
富の分配
政府そのもには様々な機能がありますが、その多くを担っているのは税金をいかに分配するか、という問題でしょう。
大統領に扮したデーヴは、友人の力を借りながら、今で言うところの事業仕分けを行っていきます。
「施設で完成が遅れているところがあるよね。払わなくていいのに払ってしまっているものがある。これを預金して、その利息を足すといくらになるかな。あと、アメリカの自動車を買うのが正しいと思わせるために宣伝費を使うぐらいだったら、まず先に子供達に家を与えたほうがいいと思わないか」
と、彼は、言葉巧みに予算を削っていくのです。
そうして、彼は、お飾りだった大統領の影武者から、政府というものがどういうことをやっているのかを理解していくのです。
コメディ
この映画は、基本的にはコメディです。
政府に対する皮肉などがたっぷりつまっているところも見所の一つです。
大統領が入れかわったことで、大統領人気があがってみたり、皮肉を言われたりします。
また、大統領に対してのコメディアン達の反応なども非常にリアルです。
コメディアン達が大統領を皮肉るというのは伝統行事みたいなものであり、そのあたりが面白おかしく再現されているのも素晴らしいです。
また、ラリー・キングなどがでて、ゲストの人と話をしたりするところも豪華です。
端的に言えば、ラリー・キングとは日本でいうところの田原総一郎氏のような人物であり、議論を導いたり、インタビューしたりするテレビ業界になくてはならない人だったのです。
そんな世俗的な部分をしっかり取り入れながらやっているところが、「デーヴ」の魅力の一つでもあります。
物語の終わらせ方
さて、この手の物語でもっとも難しいのが物語の終わらせ方です。
ひょんなことから大統領になった主人公。
ですが、彼はいわばニセモノです。
自分の意思で国をかえていこうとしますが、彼は、副大統領に会うことで、自分自身を見つめなおすのです。
副大統領役を演じるベン・キングズレーに
「歯医者にいくと行って会社を抜け出して、市議へ立候補したよ。選挙資金はわずか2000ドルだった」
と言われます。
様々な要因がある中で、主人公であるデーヴは、再び、自分自身に戻ることができるのか。
また、自分が本物の大統領ではない、ということをいつ言うのか、どう物語を正しい方向にもっていくのか、というところを見事にすっきりと終わらせた良作です。
余談
キャストが豪華であることも特徴の一つとなっていますが、ヒロイン役として、「エイリアン」シリーズのリプリー船長でおなじみシガニー・ウィーバーが登場しています。
戦う女性というイメージが強い彼女ですが、一般的な映画でも十分すぎるほどの演技力を発揮しています。
俳優も脚本、共に優れた作品となっており、比較的短い映画でもありますので、気になった方は見返してみるのも面白いかもしれません。
以上、アメリカ大統領は影武者か/デーヴ、でした!