良作映画を紹介。ある女性作家の罪と罰
面白い作品ではあるものの、宣伝が悪いのか、なんとなくイメージで敬遠されてしまうのかはわかりませんが、世の中には、思ったほどみられていない良作映画というものはあるものです。
今回の記事で紹介するのは「ある女流作家の罪と罰」です。
罪と罰というぐらいなので、ドストエフスキーを思い出してしまうところですが、これは日本語タイトルとなっており、原題は「Can you ever forgive me?」となっています。
海外の批評家からは絶賛されたという本作品ですが、日本では劇場公開されていないという作品です。
日本語タイトルだけみると、女流作家がなんか悪いことをしたのかなー、といったイメージになるかと思いますが、創作する人間の苦悩であるとか、犯罪であるとしても自分のもっている誇りとはどういうものか、ということを教えてくれる作品となっていますので、どのようにシネマトブログが見たか、ということを中心に簡単に紹介してみたいと思います。
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作家稼業じゃ生きられない
「ある女流作家の罪と罰」は、リー・イスラエルという実際の作家が出版した自伝をもとにつくられた作品となっています。
キャサリン・ヘプバーン(女性の自立のシンボル的な存在として活躍した女優)のインタビュー記事を発表して有名になった主人公であるリーは、それから10年余りたったあとには、すっかり落ちぶれていました。
仕事の最中にアルコールを飲んで上司にクビを宣告され、飼っていた猫は病気になっているのに、治療費を滞納していたせいでどうしようもない状態。
彼女は、キャサリン・ヘップバーンからもらった手紙を売ることでお金をもらって糊口をしのぎます。
彼女は、正直言って売れるものが書ける人ではありません。
ただ、能力やプライドが高く、それゆえに、自分自身を前面に出すことができない人間として描かれています。
エージェントに次の出版の話をもちかけられた際に、自分と同時期に話題になった作家が面白くもない作品を書いていても許されるのに、リーが出そうとするものはダメなのかという理由が、作家そのものに人気がないから、というものでした。
リーという女性は、同性愛者であり、自分自信のプライドや何かのせいで別れてしまったことが一種のトラウマとなっています。
彼女は、孤独で、貧困の中で、過去の文学者たちの手紙を捏造し、それを売ることを思いつくのです。
創作者の苦悩
この作品は、たしかに、手紙を捏造して罪に問われる物語ですし、貧困のせいで犯罪に手をだしてしまう話となっています。
ですが、その根底にあるのは、創作者としての苦悩です。
彼女は、もともと別の企画を温めてはいましたが、時代に合わないという理由で断られます。
一方で、彼女は、古いタイプライターを買いそろえ、作家のサインを捏造し、作者に対する並々ならぬ知識と創造力で手紙を偽造していきます。
その精度の高さによって、目利きたちが彼女にお金を渡していく姿は、彼女のどん底を知っているだけに、面白く感じるところです。
彼女は、犯罪だと知って、でも、生きるためにやっているのですが、その根底にあるのは、創作者としてのプライドです。
相棒であり、友人である、ジャック・ホックは、作家仲間ではありますが、彼女とはプライドの置き所が異なる人物です。
リーは、手紙を作品として売っています。
もちろん、これは、自分の作品ではなく、誰かの名前を借りて作ったものにすぎません。
ジャックは、それを商品としてしか見てなかったため、リーにものすごい剣幕で怒られたりしています。
誤解が起きやすい言い方をしてしまうのであれば、同人誌を売っている感覚でしょうか。
日本においてはたびたびやり玉にあがることがありますが、他人のキャラクターをつかっていようとその人が一生懸命考えて作ったものは、まぎれもなく作品だと思います。
そのあたりの温度差が、リーとジャックにでているあたりは面白いところです。
ですが、作中で彼女が行っていることは、公文書偽造ということになりますので、そのあたりの倫理的判断は難しいところです。
友達を得て、失うこと
リーは、孤独な女性です。
そのプライドの高さなどから、他人と衝突をしますし、身なりも気にしません。
ただ、誰かに優しくする心をもっていたりするのですが、そういった行動がうまく実を結ばないだけなのです。
ですが、文書偽造を続ける中で、彼女は友人をつくれそうになるのです。
手紙を買い取ってくれていた書店の女性主人です。
自分の好きな作家のことで盛り上がったり、一緒にご飯にいったりするようになりますが、彼女にはどこか後ろめたさがあります。
彼女の作った短編小説を読んでほしいと頼まれますが、なかなか読むことができません。
たんにお金をもらうだけであれば、悩まなかったかもしれませんが、彼女にとって初めて文学を通じて友達になれた人なのです。
そこで苦悩する彼女も、この作品ならでわといったところになります。
一人の友人を失い、また、もう一人友人を失ってしまうか否か、といったところがこの物語のキーとなる部分です。
創作者として
この物語は、女性作家による貧困による文書偽造という伝記というだけではなく、創作者の悩みという点においてみてみても面白く見ることができます。
リーは、10年前に活躍しており、いくらでも道があったはずです。
ですが、次の作品を出すことができず、自分自身を商品にすることもできずに停滞することになります。
前の恋人とうまくいかなかった原因も、そのあたりにあるのかもしれません。
彼女は、自分をさらけ出したり、自分自身と向き合ったりすることを避けることで、創作ができなくなっていたのではないでしょうか。
彼女は、他人の手紙を捏造することを作品としていましたが、それは、自分自身が矢面に立つことを恐れていたことの裏返しでもあったのです。
自分の名前を出さないで、他人のものを作品として出す、という行為の後ろめたさ。
一方で、彼女がそうしなければ生きていけなかったという現実ももちろんあります。
結果として、彼女は、自伝を出すためにジャックと話をし、自分自身と向き合うことに決めました。
リーという主人公が、創作をするために、どのようにして、克服していったのか、という物語にもなっております。
ブラックなユーモアにあふれた創作者にとっても、そうでない人にとっても、大変興味深い作品となっているのが「ある女流作家の罪と罰」となっています。
以上、良作映画を紹介。ある女性作家の罪と罰でした!