ファミリーでも安心映画。紳士なクマが大活躍/パディントン
くまのパディントンといえば、全世界でも販売されている有名な児童文学の一つです。
子供の頃に読まないまでも見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。
- 作者: マイケルボンド,R.W.アリー,Michael Bond,R.W. Alley,木坂涼
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: 大型本
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そんな「くまのパディントン」が、あえて今映画化された理由は何なのか。
愛らしい紳士的なクマの物語について感想&解説を行ってみたいと思います。
移民か、戦災孤児か。
クマのパディントンは、知性のあるクマです。
劇中では、知性のあるクマは、希少価値があることがわかりながらも、まわりの人間は、クマがしゃべったりすることに対してあっさりと受け入れます。
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パディントンは、ペルーに住んでいたクマでしたが、とある事情から、大量のマーマレイドを食料代わりにしてロンドンに密入国をします。
原作者であるマイケル・ボンドは、売れ残ったクマのぬいぐるみと、第二次世界大戦の影響により、疎開した子供達が首から名札をぶら下げて駅で立っている姿をみて、パディントンというキャラクターを作り上げていったそうです。
劇中においても、パディントンは自らの首に札をかけて立っているのが、物悲しいです。
現代社会に置き換えるのであれば、パディントンは、移民ということになるのではないでしょうか。
ブレグジット(イギリスのEU離脱)もあり、移民問題等も含めた中で、本作品は意義深いところです。
家をくれないか。
「パディントン」という映画の表面では、移民問題などはわかりやすく取り扱われたりはしていません。
クマの叔父さん夫婦から、イギリスから来た探険家に暖かく迎えてくれるはずだ、といわれており、ルーシーおばさん(くま)が老クマホームに入る一方で、ペルーから密入国したパディントンは、とりあえず、首に名札をつけて駅で立っています。
理由はよくわかりませんが、彼は、非常に礼儀正しいクマです。
107もあるというイギリスの雨の表現を覚え、真摯な態度を基本的には崩しません。
ですが、食べ物を食べるときなど、時々野生的な振る舞いをしてしまったりするところがチャーミングです。
駅で立っていたところを、パディントンは、ブラウン一家に助けられます。
慣れない都会に戸惑いながら、彼は、浴室を破壊したり、ひょんなことから泥棒を捕まえたりと、おきまりのドタバタがはじまるのです。
ブラウン一家。
パディントンを助けたブラウン一家は、実は、かなり風変わりな一家です。
父親は、どんな物事に対してもリスク計算をする人で「怪我の7パーセントはジャンプが原因」といったことを言って、子供のやんちゃを止めたりします。
母親は、挿絵画家、息子は発明家、娘は語学の天才。一緒に住んでいるおばさんは掃除好き。
ウェス・アンダーソン監督「ロイヤル・テネンバウムズ」というほどではないにしても、個性的な家族が描かれます。
ブラウン一家は、一人一人は非常に優秀ではあるものの、実は家族としてはそれほど結束していません。
ブラウン家の長女であるジュディは、自分の彼氏を母親に紹介しませんし、学校でも、自分の家族のことを紹介しようとしません。
思春期の娘さんにはよくあることではありますが、ざっくりと言ってしまえば、自分の家族が恥ずかしいのです。
長男である男の子も、発明家としての能力がありながらも、制限されてしまっています。
父親もまた、家族のために仕事をしているのに、それが家族に伝わっていないという不幸な構図ができあがっています。
父親は、子供が生まれるまではヒッピー同然というか、非常にワイルドな方でしかたが、「子供が生まれると人が変わる」をそのままに、いいお父さんになってしまいました。
ちぐなぐな家族が、パディントンというクマ(異物)を家に迎えることによって、家族が一丸となって困難に立ち向かっていく、というほのぼのファミリー映画となっているのが「パディントン」です。
かわいいくま
パディントンは、CGとアニマトリクスをつかって撮影されています。
アニマトリクスは、「レヴェナント 蘇りし者」にでてくるクマや、それ以外にも様々な動物のロボットを動物のようにして撮影するというものです。
奇妙にリアルな動きは可愛らしいパディントンです。
余談ですが、可愛い動きをするクマといえば、子供の時に友達になったテディベアのぬいぐるみと一緒に年をとってしまった中年を描く「テッド」シリーズなども、オススメです。
パディントンは英国紳士然とした、礼儀正しいクマですが、「テッド」にでてくるテディベアのクマ(ぬいぐるみ)は、下品でオタクなクマとなっています。
ぬいぐるみと生物のクマではありますが、あいらしい動きは一見の価値があります。
インド人も日本人もみんな一緒
パディントンが探していた探険家が残念なことになっていて、あまり救いはなかったりする点もある作品ですが、本作品は、異なる人種(クマ)を受入ながら、家族になっていく話しです。
「パディントン」のすごいところは、表面的には移民問題などはまったく見え隠れしていないにも関わらず、その根底になるのは、現代人に忍び寄ってきている不寛容な社会や、コミュニケーション不足による誤解などが生まれてしまう世界への警鐘といえます。
そして、このタイミングにパディントンを映画にしたことには、やはり、ブレグジット(イギリスのEU離脱)の関係を考えると切り離して考えることはできないのではないでしょうか。
移民問題や差別といったものの広がりの中で誰であっても家族になれるというメッセージは、ファミリー映画の体裁をとっているだけに、非常に重要なものになっています。
それほど前面に押し出されているわけではないですが、そういいきれる部分としては、劇中で流れている曲「London Is the Place for Me」です。
黒人のおじさんたちがBGMとして流しているところですが、歌の内容自体は、アメリカ人やインド人、中国人、日本人も、ロンドンで楽しく歌おう、みたいな歌詞なのです。
カリプソと呼ばれるジャンル・スタイルの音楽となっており、ニュースを伝えるものであったり、政治等への批判も含めた内容を歌ったものです。
「パディントン」は、かわいい紳士なクマ(移民)が家(国)を求めてロンドンに来て受入られる、という一見よい物語になっていますが、移民問題から端を発したEU離脱問題も含めて考えてみると、「パディントン」という映画そのもののあり方が、現代社会を批判しているようにも見える、家族で見ても安心ですが、どういうあり方が大事なのかも教えてくれる映画となっているのです。
以上、「ファミリーでも安心映画。真摯なクマが大活躍/パディントン」でした!