パソコンの父は暗号解読者?/イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密
チューリングテストといえば、機械が知能をもっているかどうかを判定するテストとして有名なテストです。
また、チューリングマシンといえば、現在におけるパソコンの基本的な考えをつくりあげたものであり、我々が生活する中で切り離せないコンピュータの基礎の基礎といえるものです。
そして、チューリングという名前は、これから紹介する「イミテーションゲーム」における主人公であり、実在する人物アライ・チューリングからとられたものとなっています。
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その功績により、第二次世界大戦を2年は早く収束させることとなったといわれているアラン・チューリングの活躍を描いた「イミテーションゲーム」を紹介してみたいと思います。
孤独で嫌な男
チューリング博士を演じるのは、ベネディクト・カンバーバッチです。
ベネディクト・カンバーバッチといえば、海外ドラマ「シャーロック」でおなじみの人物であり、毛色の違う天才を演じることが多い役者という印象があります。
カンバーバッチが演じるチューリング博士もまた、特別な説明はありませんが、かなり変わった人物として描かれています。
実際のチューリング博士は、アスペルガー症候群だったのではないかと言われており、その傾向が劇中でも示されています。
「イミテーション・ゲーム」でのアラン・チューリング博士もまたコミュニケーションが苦手な人物として描かれており、一方で、その暗号解読や機械への集中力は並外れたものがあります。
劇中では、少し嫌味な性格をしており、まわりの仲間達も彼のことを見放しているところがあって、それが前半部の山場となります。
ただし、当時最高の科学力等を誇っていたドイツに対して、さすがのチューリング博士もどうしようもなくなっていきます。
天才が仲間
正確にはライバルとは呼べませんが、チェスの世界チャンピオンである男や、チューリング博士よりも早く問題を問いた女性などがでてきます。
チューリング博士の生い立ちも語られ、学校時代に仲の良かった友人と暗号をつかった遊びをしていたことから、彼が持つ罪の意識のようなもの、彼が暗号に固執するきっかけが何かがわかります。
また、多くの兵士達が戦地で命を落としていく中、チューリング博士たちは、ドイツの暗号解読は人間の力で解くことは不可能だとして、機械をつくりはじめます。
その名は「クリストファー」。
彼の友人の名前を冠した機械でしたが、当時はマシンのパワーも貧弱であり、暗号を解読するほどの力はありません。
どうすれば、解読することができるのか。
この物語は、一見あらすじだけ知ると、ドイツとの戦争についての話に思われる可能性もありますが、実は、一人の天才が、仲間を通じて協力することを知り、やがて、自分が多くの人を助けるために、一部を犠牲にしなければならない、神のような存在へと変貌していく物語になっています。
これは、一人の英雄が誕生し、そして、没落していくまでを描いた悲劇の物語なのです。
血にまみれた計算
ここからは軽くネタバレになります。
この物語は暗号を解く物語ですので、物語の途中で暗号は見事に解けます。
その理由は、愛によるものですが、その詳しい内容は映画を見ていただくとして、問題はその暗号を解読してからです。
ドイツ軍による暗号がわかり、どこが攻撃を受けそうになるのか。どれくらいの被害となるのかも、推測できるようになります。
「大西洋のすべての船の位置を知るのは我々だけだ」
襲われそうになっている民間船がわかり、すぐに知らせようとしますが、カンバーバッチ演じるチューリング博士は、それをとめようとします。
「デニストンのことは言うな!」そういって、電話まで壊します。
民間人が被害にあうかもしれないというのに、何をいっているのかと思うところです。
なぜか。
チューリング博士は言います。
「相手が嘘を予期する時、嘘は難しい。嘘と知る相手に、嘘はつけない」
戦争は情報戦です。
暗号はカギとなるものがわからなければ、意味のないものとなります。
ドイツが、そのカギを敵(英国)がもっていると知っていたらどうなるでしょうか。
ドイツ側は、自分の情報は相手に知られていないと思うからこそ情報を流しますが、知られている可能性があると知れば、相手も疑ってしまいます。
相手が、こちら側が嘘をつかないと思っているからこそ、嘘は成立するのです。
当然、暗号を解読したとバレてしまうでしょう。
しかも、せっかく解読した暗号の構造までかえられてしまい、また解読することになることになりかねません
そのため、彼らは悪魔のような決断をしなければならなくなるのです。
秘密をかかえるものの苦悩
彼らは、自分の身近な人であろうと、他人であろうと、誰かが死ぬのがわかっていながら、それを見過ごさなければならなくなります。
そのため、相手が情報操作をしていないと思わせる程度に情報を操る必要がでてくるのです。
身近な誰かのためではなく、国のために誰かを犠牲にする。
そして、それを秘密にしつづけなければならない。
秘密にしなければまた、被害が大きくなってしまうのです。
この物語は、秘密をかかえた人たちの辛い生き方を描いています。
本来であれば、暗号を解いたわけですから、国の英雄と呼ばれてもいいはずの人物たちは、その存在すらも抹消されながら、それでも、国のために秘密を守り続けるという使命の過酷さを描いています。
「一言でも漏らしたら、反逆罪だ」
あたりまえじゃないか、と思いますが、自分の身近な人が死ぬとわかっているのに、一言もいえないのは、どんな心境でしょうか。
この物語は、戦争中の話しと平行して、チューリング博士の取調べシーンも描かれます。
なぜ彼は捕まっているのか。
そして、彼を調べている人物が、軍に所属していたはずの彼のことを調べるにもかかわらず、チューリング博士の情報が綺麗に抹消されていることに気づくのです。
チューリング博士は、同性愛の罪によって告発されてしまいます。
彼が孤独でいてしまったのは、男性でありながら、男性しか愛せないということをまわりに隠して生きてきたことの苦悩も描いています。
そして、この物語はスパイもでてきます。
スパイもまた、自分が他国の人間につかわれていることを隠しながら、その国の人間としてふるまわなければなりません。
スパイだと疑われて主人公もまた困る場面があるのですが、この物語は、秘密を抱えることで、本当の自分をだすことができない、ということを、戦争や同性愛や、暗号解読をする天才の孤独を通じて描いた物語となっており、まさに「エニグマ(暗号)と天才数学者の秘密」というサブタイトルは、そのまんまの内容紹介となっているのです。
自分のありのままを出して生きることもたしかに素晴らしいですが、それが許されないことのほうが世の中多かったりします。
この映画を通じて、貴方もまた、秘密を抱えるものの苦悩を追体験できるかもしれません。
以上、「パソコンの父は暗号解読者?/イミテーション・ゲーム」でした!