麻薬中毒から更正するために/トレインスポッティング
ダニー・ボイル監督の代表作の一つであり、ユアン・マクレガーが主演した「トレインスポッティング」は、ドラックをやっている人間からすると非常に身近なものに感じられるそうです。
そのドラックにはまった人間の心境がよくわかってしまう作品であり、人間というのが堕落してしまうとなかなか抜け出すことができないということを描いた作品でもあります。
人間の業を描いた本作品について、解説してみたいと思います。
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ダニー・ボイル
監督をしているのは、腕を挟まれて動けなくなった登山家がどうにか脱出を試みる「127時間」や、インドの貧しいはずの青年がクイズ大会に勝利して大金をつかむ「スラムドックミリオネア」で有名な監督です。
また、ゾンビ映画である「28日後…」なども手掛け、幅広い才能を発揮する監督です。
イギリスの監督ということもあってか、過酷な状況にいる主人公にも関わらず、自分自身を客観的にみてユーモラスに表現することが多い監督です。
ドラック映画
さて、T2として続編まで公開された「トレインスポッティング」ですが、有名な事柄としては、この映画における、ドラックをつかった人間の状態がよく表現されている、という点です。
ユアン・マクレガーが演じる主人公レントンは、仲間4人とともに非常に自堕落な生活を送っています。
何かあればドラックをやり、常にいい具合になってしまいます。
しかし、彼自身も自分の現状がいいとは思っておらず、ドラックを断つためにいろいろな方法を試みます。
ドラックで恐ろしいのは、禁断症状です。
一度でもドラックを使用してしまうと脳が変異し、それを求めずにはいられなくなります。薬を断ってから一定時間たつと訪れる禁断症状をこらえるために、主人公は食料を買い込み、簡単に外にでられないように扉に板を打ち付けます。
「必要なものは監禁室。トマト缶。バニラアイス1箱。下剤。炭酸飲料。睡眠薬」
禁断症状がくるのを睡眠薬を飲んで眠っている間に乗り越えようとする主人公ですが、
「睡眠薬が効くまでのつなぎに一発、必要だ」
と思ってしまい、結局麻薬入りの座薬をうってしまいます。
下剤の影響で入ることになる、「スコットランドで最も汚いトイレ」はものすごく酷いです。
そして、そこに麻薬入りの下剤を落としてしまったことで、便器の中を探している主人公のみる幻想的な光景には悲鳴すらあげたくなります。
ドラック表現
ドラック表現は非常に豊かです。
赤い絨毯に沈みこみ、物事が遠くのほうで行われているような気分になるところや、就職の面接を受けるときに薬をやってしまったことで、ハイテンションになりすぎて落とされてしまったり、ちょっとしたことで大乱闘を起こしてしまったり。
ドラックによって堕落してしまった若者たちがどこまでもどん底に落ちていくさまが描かれます。
法令にそむく女性に手をだすもの、彼女のベッドのシーツに脱糞してしまうもの、精神を破壊されかねない出来事にあい、結局、彼らはドラックに逃げるのです。
そして、最終的に彼らは、ドラックを手に入れるために犯罪に手を染めていきます。
そこまで墜ちていくと人間まわりのことも気にならなくなるようで、底なしにドラックをやりすぎたために、彼らは大変なことをしてしまいます。
悲しみにくれる彼らですが、結局、彼らはドラックに逃げてしまうのです。
離脱症状
薬をやめるなんて無理に決まっているさとタカをくくっていた主人公の両親でしたが、あまりに主人公の状態が悪くなってしまったために、部屋に監禁します。
薬をやめるためには、薬を絶つ必要がありますが、「トレインスポッティング」では、薬をやめたときの副作用である離脱症状の恐ろしさについても、映像として描いています。
部屋が急に大きくなったように感じたり、隣におじさんがいたり、天井を張ってきたり、有名なのは身体の中を虫が這いずり回る、という感覚だそうですが、いずれにしても頭がおかしくなってしまうような嫌な体験には違いありません。
そんな凄まじい体験が、テンポのいい音楽と共に流れるのです。
「私達がついてるわ。一緒に戦うの」
放任気味だった両親もさすがに厳しい態度にでます。
「一回だけ、あと一回だけやらせてくれ」
レントンが頼んでも、耳を貸してくれません。
この離脱症状を映像としてみるだけでも、トレインスポッティングをみる価値があるといってもいいでしょう。
天井からじわじわとやってくる、赤ちゃんなんて、もうトラウマものです。
更正することの難しさ
「とにかく何かをはじめなきゃ」
と、麻薬の離脱症状から抜け出した主人公は、唐突に就職します。
マンションの販売員として頭角を現し、見事に自立します。
「仲間とはそれほど会いたくなくなった」
そして、恋人のような相手からは、手紙でかつての友人達が相変わらず堕落した生活であることが知らされ、友人の一人が銀行強盗をして逃亡中であることが告げられるのです。
そして、更正した彼の元にその友人がやってきてしまいます。
ここからはネタバレとなってしまうので、詳しく説明はしませんが、悪い友人がいるといやがおうにも、それに引っ張られてしまうのが人間だ、ということです。
主人公は見事に更正を果たしながら、結局、またドラックをうつことになります。
そこで、大金を手に入れることになるのですが、主人公は、その友人達の行動をみて、やっぱりダメだと気づくのです。
悪い友人といるのは楽しいですが、一方で、その友人達によって悪いほうに引っ張られてしまう。それは、一種のドラックにも似ていて、なかなか断ち切れるものではありません。
トレインスポッティング
色々と諸説もあったりするようですが、トレインスポッティングという名称は、電車の音を聞いたりするだけで、電車の型名とかをあててしまうような人たちをトレインスポッターといい、その電車当てをやっていることをもともとは指すのだそうです。
電車当てをしている人たちに対しての揶揄としてのものや、そういった場所でドラックをうつ人たちのことを指していった俗語だそうです。
ヘロインをうつ腕の注射痕が、電車のルートのようだというものもあったりするようですが、ドラックを愛用する人たちの隠語だと思っていただければそう大きく間違いではないと思われます。
主人公達はたしかにどうしようもない人たちかもしれません。
ですが、この作品の最後では、どうすればどうしようもない人生をかえていくことができるかも示しています。
「変わろうと思う。足を洗って堅気の暮らしをする。楽しみだ。あんたと同じだ。健康。低コレステロール。DIY。ジャンクフード。子供。クリスマス…」
主人公は冒頭でも、同じような言葉を並べています。
「単なる暇つぶしのDIY。ジャンク・フード・腐ったからだをさらすだけの肉体。子供。だが、俺はご免だ。豊かな人生なんてごめんだ」
あたりまえの生活を否定し、ドラックに逃げていたレントンが、最終的には、仲間を裏切って、普通の生活を楽しみにする。
そんな、前向きな終わり方をするのです。
ですが、考えてもみてください。
何度も何度も、あと一回と思って、結局また過ちを犯してしまう彼が、そのあとの人生もうまくいくのか。
そんな、彼らの20年後を描いた作品が「T2 トレインスポッティング2」として公開されておりますので、気になった方は、合わせてみてみるのも面白いかもしれません。
以上、「麻薬中毒から更正するために/トレインスポッティング」でした!