シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

映画で見る明友会事件の裏表~表篇~ 『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』(1975年)

今回は明友会事件を取り扱った映画である『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』を取り上げます。監督は「将軍」こと山下耕作

この作品では明友会事件を狩る側として柳川組組長をモデルとした主人公を演じる小林旭たちが登場します。

翌年公開された『実録外伝 大阪電撃作戦』では狩られる側である明友会をモデルとする主人公を松方が演じていますので、明友会事件を表と裏から観賞することができます。

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殺しの軍団、関西を血に染める

簡単に登場人物をまとめてみます。

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 花木・・・小林旭。花木組組長。元々庄司組に世話になっていた。柳川次郎をモデルとするがフィクション成分も多め。

金光・・・梅宮辰夫。花木に襲撃されるも同じ朝鮮の血が流れていると知り盟友に。柳川組二代目組長の谷川康太郎がモデルといわれている。

庄司・・・室田日出男。庄司組組長。

松原・・・成田三樹夫。天誠会。

西田・・・伊吹吾郎。花木組組員。

大槻・・・遠藤太津朗。天誠会系。モデルは山口組の地道行雄。

国友・・・金子信雄。日新連合会会長。

ケイコ・・・花木と男女の関係になるも桜会との抗争に巻き込まれて死亡してしまう。

 

本作は柳川組組長をモデルに物語を作っておりますが、終盤は特に史実とは異なるオリジナル展開となっております。実録といっても全てが全て実話ではないのは当たり前ですね。

柳川組主体の話ということで、明友会事件は登場するものの物語のメインそのものにはなりません。成り上がる柳川組の功績の一エピソードとして登場します。

 柳川組は超武闘派組織で大阪・キタを拠点にする愚連隊を元にした組織で、鬼頭組との抗争では8人で約1000人の相手に挑むなどまさに「殺しの軍団」という異名にふさわしい暴れっぷりで名をあげていきます。

明友会事件でも多数の相手を死傷させ、それに伴い逮捕者もでましたが、その働きが評価され山口組三代目田岡一雄組長から柳川次郎組長が盃を受けることとなります。

 

朝鮮人としてのやくざ

大きな特徴として、主人公(モデルである柳川次郎もそうですが)とその盟友である金光が朝鮮人だということが挙げられます。

もともと花木と金光は敵味方の関係でしたが、負傷した金光に輸血した際、お互いに朝鮮の血が流れていることを知ります。

この部分は彼ら二人の大きな絆として描かれており、金光が組に加わったことで少し弾かれた形となった西田が花木に向かい「自分が日本人だから」金光と同じように接してくれないのか、と問う場面に繋がっていきます。そして花木はその問いを叱ることしか出来ず、差別される側であった彼自身が日本人を差別していたのではないか、という内省を呼びます。

男同士の友情という枠組みだけでは考えられない「同胞」という意識。

この意識に苦しめられた西田は救いを求めて、クスリに溺れていき、やがて物語から消え去ってしまいます。

その後、西田の問いに明確な答えを返せなかった花木は金光とともに、大きなやくざ組織の中で、末端の消費財として使い捨てられるという「差別」を受けます。

 

実を言うと、花木が襲撃した明友会(をモデルとする組)も朝鮮系のメンバーを中心にした組織だったため、結局のところ日本人のやくざ組織の見つめる中、朝鮮系同士が血を血で洗う戦闘を繰り返し、生き残った花木側に盃が渡されるという、皮肉な構図があるわけです。

天誠会にしてみれば、全国制覇に邪魔な日新連合会の地方組織に花木たちを派遣し、次々と撃破させるだけで陣地が増えていくわけですからこんなに楽なことはありません。花木たちは自分たちの境遇を「殺し」の力に変化させて大暴れするわけです。そして最後にその刃は自分たちの背後にいる天誠会に向かっていきます。

 

「朝鮮とやくざ」を扱った作品といえば、名作『やくざの墓場 くちなしの花』(1976年)という深作欣二笠原和夫の『仁義なき戦い』コンビを連想します。こちらもおすすめです。

マテンの黒シャツ

主人公のモデル柳川次郎は「マテンの黒シャツ」という異名を持っております。これは大阪・天満で根城にし、黒いシャツを好んで着用していたからそう呼ばれたのですが、本作では黒い革ジャンを小林旭が着込むことによって再現されています。これが非常に格好いいです。「殺し」というワードにピッタリでございます。このような柳川の目立つ格好は他の映画でも取り上げられていて、『山口組外伝 九州進攻作戦』(1974年)では室田日出男が柳川を演じており黒スーツに白ネクタイ、そして黒シャツという素敵すぎる格好をしております。

実録やくざ路線も終盤に差し掛かりつつあった1977年の『北陸代理戦争』においては、柳川をモデルにした金井組組長を千葉真一が熱演。こちらもオシャレなベスト(?)を着用しており、一見しただけで只者でないというのが分かります。

やくざとおしゃれは非常に相性が良く、別の機会にコラムとしてまとめてみたいと思います。

白を赤く染めて

 本作では実録やくざ路線の特徴である、揺れ動くカメラ・血の飛び散る激しい抗争シーンがふんだんに盛り込まれています。もちろんこれは殺しの軍団といわれる柳川組を描くために必要な表現方法です(作中では「殺しの集団」と呼ばれています)。

また、明友会事件のみに留まらず、服部組組長喜多久一殺人事件や山陰夜行列車殺人事件、山陰抗争などがデフォルメされて描かれています。

さらに物語も後半になると完全にオリジナル展開となり、花木組と天誠会との抗争が激化します。

この途中で金光は河川敷にたなびく白い布に鮮血を撒き散らしながら絶命するという最期を迎えます。

脚本を担当した松本功によると、朝鮮系の人たちは「白」という色を好んでおり、それを真っ赤に染め上げることは最初から意識していたそうです。無念さ、むなしさを画面いっぱいに表現したわけですね。

冒頭にでてくる輸血のエピソードも含めて、まさしく「血」を扱ったエピソードが花木たちの出自と絡んで強烈なインパクトを与えます。

『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』感想・評価まとめ

 本作は『仁義なき戦い』シリーズと比べると知名度がないようで(というか実録やくざ路線は『仁義なき戦い』以外あまり知られていないように思われます)、観たことある方も少ないかと思います。ですがわりとレンタルショップなどでも置かれているので手にとりやすいのではないでしょうか。

ぜひぜひ『実録外伝 大阪電撃作戦』とともに観てみてください!

ちなみにこの二本は役者も被っており、どっちがどっちだか分からなくなることもあると思いますが松方弘樹渡瀬恒彦が出ているほうが『大阪』のほうと覚えておきましょう。

 

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