シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

感想はカ・イ・カ・ン?/相米慎二「セーラー服と機関銃」  

セーラー服と機関銃

 

セーラー服と機関銃といえば、薬師丸ひろ子が主演、相米慎二監督による映画を避けては通ることはできません。


誤解を恐れず言いますと、薬師丸ひろ子は決して、絶世の美人ではありません

 

ですが、スクリーンの中では、時には母性に溢れ、時には何をしでかすかわからないお嬢さんっぷりを如何なく発揮しています。

柳沢きみお原作「翔んだカップル」では、男達を惑わす?ヒロインである圭ちゃんを演じ、大林宣彦監督による「ねらわれた学園」などでも主演を勤めるなど、角川映画を代表する監督達の名だたる作品に出演していたのが薬師丸ひろ子です。


相米慎二監督と薬師丸ひろ子のいわば代表作でありながら、ヤクザと女子高生という赤川次郎の世界が、とんでもないレベルで映像化された作品となっています。

感想と共に、どんな映画なのかをさらっと解説してみたいと思います。

また、記事のしたには、橋本環奈主演「セーラー服と機関銃」の記事もありますので、気になった方は、是非合わせて読んでいただけるとありがたいです。

 

母性溢れる女子高生。

 

この映画は、少女が大人に成長する話、としてみることができます。


単なる女子高生でしかなかった薬師丸ひろ子演じる星泉(ほし いずみ)が、父が死に天涯孤独になってしまったところで、ヤクザの組長の跡目として引き受けることになってしまいます。


星泉が組長を務めることになった目高組は、薬に関わる事件に巻き込まれ、大変な目にあいながらも、自分たちを無茶苦多にしたものを破壊すべく、巨大な組に立ち向かっていく。

といったのが、表面的な物語です。


たしかに、星泉は女子高生でしたが、たんなる女子高生ではありません。


物語の冒頭で、ブリッジ(仰向けになりながら両手足を突っ張って背中をそらせる運動)を行いながら、父親が焼かれる火葬場を見るところからはじまります。


ブリッジをしているところから、すでに普通ではない雰囲気がでていますが、星泉は、自分の父親が焼かれている火葬場を見ながら、同級生たちに向かって、明らかに普通の女子高生ではない発言をします。


「言わせてもらいますと、私は妻であり、娘であり、母ですらあったんですから、一応は。最後の面倒までしっかり見ときたかったわけ」


と、女子高生らしからぬ発言を口にします。


自分の父親に対して言うには、星親子の関係がいかに濃密であったかがわかるというものです。


そのため、少女の成長を描くというよりは、既に母性的な存在であった薬師丸ひろ子演じる星泉が、どのようになっていくかが作品の見所といえます。


また、ヤクザが校門の前にいて、みんなが恐れて裏門から帰ろうとするシーンがあります。

ですが、星泉は一歩も引かず「ここは私達の学校よ。どうして、こそこそ帰らなきゃいけないの!」

といって正面突破を試みます。

そんなエピソードだけで、星泉がいかに完成された存在なのかがわかるのです。

 

組長になる瞬間

 

組長になってくれと頼まれた星泉は、もちろん断ります。


そのシーンは、相米慎二監督らしく長まわしで行われますが、陰影がきっちりとしています。


渡瀬恒彦演じる若頭は、日の光りが当たらない場所で星泉を説得しています。

対して、星泉は同じ画面の中にいるにも関わらず、明るい場所で座っています。

 

ですが、組長をやらないと言っていることで、若頭演じる渡瀬恒彦が、組の存続を諦めて、「野郎ども、杯もってこい」と言って、対立する組に突撃をしかけようと準備を始めます。


自分が組長をやらなければ、4人のヤクザが死んでしまう。


星泉は、なりゆきで止めに入りますが、そのときには、星泉の体は、闇の中に溶け込んでいるのです。

そう、ヤクザ側の人間として。

光と影をつかった演出が見事な場面になっています。


そして、このシーンは、物語に深く関わる重要な場面ともいえるのです。

 

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不思議な場面

 

相米慎二監督といえば長まわしが代名詞のような存在ですが、「セーラー服と機関銃」の中でも、もちろん見所がふんだんにあります。


星泉が「今夜は狂ってしまいそう」といって、組員のヒコをけしかけて、暴走族からバイクを借り、バイクの後ろに乗ったまま街中を走りだすというシーンです。

映画であれば、編集をつかって、さも街中を暴走族とともに走っているようにみせかけることもできるでしょうが、ワンカットだと当然それは出来ません。

実際、逮捕者も出たという話もあるシーンとして、臨場感が伝わってくるかのようです。


バイクに乗る前のシーンも、仏像の上に登って、結跏趺坐(足を組んで指で円をつくる)を行っていたりするシーンなどは、意味がさっぱりわからないシーンです。

星泉の菩薩のような母性を現しているのかもしれませんが、随所に挿入されるアイドル映画とはある意味真逆のイメージが印象的です。

 

ヘロインの売買を行っている三国連太郎演じるふとっちょのアジトで、星泉はつかまって、十字架のようなモニュメントに張り付けにされたり、一種宗教的な場面も面白いところです。

 

メンツを壊すカイカン

 

当ブログでも、ヤクザ映画はたびたび紹介しているところですが、「セーラー服と機関銃」では、特にヤクザはその面子にこだわるものとして描きます。


学校に目高組のメンバーがやってくるところでも、組員は4人なのに、格好がつかないからといって人を借りてまで、多く見せようとしています。

暴力沙汰を起こして、なわばり争いをして、しまいには、薬のせいで、目高組の人間達が死んでいってしまう。

そんなことで、自分の大事な人間がいなくなってしまうことに、星泉は憤りを感じます。


その最終的な帰結として、星泉は、機関銃によって、人ではなく、薬そのものを破壊するのです。

 

 

薬はすなわち、男たちが築きあげた虚像のようなもの。

実にしょうもないものに薬が姿を変えているあたりからも、女からすれば、男が大事にしているものが、いかに滑稽なものであるかを表しているように思います。

 

だからこそ、薬師丸ひろ子演じる、星泉は、「カ・イ・カ・ン」とつぶやくのです。


機関銃を撃つからカイカンなのではなく、男たちが大事にしている、くだらないものをぶっ壊すことに、カイカンと言っているのです。

 

 

男の世界を知る話

 


ここからは、物語のネタバレ的な部分を含みますので、気になる方は視聴後に戻ってきていただきたいのですが、最後に、星泉はある男に口付けをします。


それは、共に死線をくぐりぬけてきた頼れる人であり、大人の世界をみせつける人でもあります。

 


その男に対して口付けをし、有名な台詞がつぶやかれます。


「生まれて初めての口付けを中年のおじんにあげてしまいました。わたしおろかな女になりそうです、まる」

 

組長になることを一度は断った星泉ですが、組長を引き受けたのは、「バカな男の世界」を認めていなかったからです。

母性ある女性、星泉は、男の世界のバカな行動を止める側でいようとしていたのです。

 

星泉は、堅気になろうとして北海道の商社に勤めた男が、ヤクザのケンカを仲裁しようとして死んだと聞かされます。


ですが、それに対して、バカにするようなことはなく、そうでしょうね、と理解を示すのです。

だからこそ、彼女は、中年のおじんだろうが、母性をもって唇を重ねてしまったのです。

 

男の世界の愚かさを認めてしまった私は、愚かな女になりそうだ、と。

 

これは、少女の成長ももちろん描いてはいるでしょうが、既に母性的である星泉にとってすれば、男の世界を知っていく女性の物語としても見ることができるのが面白いところです。


有名な、これまた長まわしのエンディングの中で、赤いハイヒールを履いた星泉が、マリリン・モンローよろしくスカートを浮かせながら、子供と見えない機関銃で「ばばばばばばー」と打ち合いをして終わります。


ここからも、男の子達の世界に理解を示す、もの悲しげな星泉を見てとることができるのです。

 


相米慎二監督映画では、歌謡曲を登場人物が歌いだすというのも見所の一つかもしれません。

セーラー服と機関銃」では、星泉と、マユミが、カスバの女を歌います。

カスバの女は1955年に発表され、何人もの歌手にカバーされた曲です。

ここは地の果てナイジェリア、と歌いだします。

カスバの女は、夜の仕事に身をやつした女性が、決して戻ることができない自分境遇について謡ったものです。

これを二人の女性が歌いあげることで、まったく別の意味合いがでてくるのが面白いところです。


ほかにも、当ブログで相方ニャロ目が書いた記事で、台風クラブがありますが、その中でも、三人組みユニットわらべによる「もしも明日が」が歌われています。

 

 

男女が台風の中で、「もしも、明日が晴れならば~」と歌っている様は、狂気と共に晴れやかな気持ちになるから不思議です。

 

 

橋本環奈版

 


さて、2016年3月5日より公開されている「セーラー服と機関銃 -卒業-」については、当ブログでも別記事で感想を書いています。


たしかに、相米慎二を求めると物足りなさがあるかもしれませんが、橋本環奈の演技は、薬師丸ひろ子とは違った星泉を楽しむことができるので、二つあわせてみることで、その演出の違いや、背負うものの違いを見ることができると思います。

 

 


以上、『感想はカ・イ・カ・ン? /相米慎二監督「セーラー服と機関銃」』でした!

 

 

橋本環奈主演の「セーラー服と機関銃」の感想は以下です。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

 

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