シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

戦争、だ~いすき 中島貞夫監督『沖縄やくざ戦争』(1976年)

本日は東映ヤクザ映画狂気の作品『沖縄やくざ戦争』(1976年、中島貞夫監督)を取り上げたいと思います。

 血で血を洗う抗争! 『沖縄やくざ戦争』は激しすぎる実録映画

実録ヤクザ映画の一つとして位置づけられる『沖縄やくざ戦争』は現実に発生した抗争事件を参考に製作された映画です。製作会社である東映では、当時何本ものヤクザ映画が作られ、この作品も、沖縄やくざ同士の対立、沖縄やくざと本州のやくざの対立という軸を中心に撮影されています。
驚くことに、映画のモデルとなった抗争事件は撮影時も進行中であり、その影響で沖縄でのロケがほとんど出来なかったといういわくつきの作品です。

 

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舞台は1971年、沖縄の本土復帰が近づく中で本州やくざの進攻に対処するため、琉盛会というやくざ連合組織が結成されました。その中心人物の一人であり武闘派の国頭組組長、国頭正剛は本土への敵対心を隠さず、その狂犬のような暴れっぷりから琉盛会のもう一つの派閥、大城組からも手に負えない存在として煙たがられていました。抗争による殺人の刑期を終えて出所した国頭組の中里を待っていたのは、組の中で存在感を増し国頭の右腕となって君臨する石川と、好き勝手に気ままに暴れまわる国頭でした。組の状況に愛想が尽きた中里は部下を連れて、国頭と距離を取ろうとしますが、石川の策略により部下が襲われていきます。その内部抗争に、大城組も絡み、さらには関西の強大なやくざである海津組も参入し、中里たちは翻弄されることになります。

 

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物語は大きく二つにわかれ、前半部分は国頭組内の抗争を中心とした内紛のストーリー。後半は琉盛会の幹部たちと関西の海津組が手を組み、中里を中心とする国頭組の生き残りとの戦いのストーリーです。

 

監督、キャストは大物がズラリ!

 監督は『893愚連隊』や『日本暗殺秘録』などを撮った中島貞夫。主演は松方弘樹千葉真一です。

その他にも渡瀬恒彦、尾藤イサオ、三上寛室田日出男志賀勝成田三樹夫織本順吉地井武男、梅宮辰夫といったやくざ映画ではおなじみだったり、売出し中の若手といった、そうそうたる顔ぶれが脇を固めます。彼らの鋭い眼光や、勢いのあるセリフまわしなどをみているだけでも映画を楽しめます。

 

松方弘樹千葉真一の見事な演技

中里を演じた松方弘樹、その兄貴分である国頭を演じた千葉真一。この二人を中心に映画は進行していきます。


特に千葉真一の国頭の存在感は圧巻です。
映画が始まって1,2分で料理屋をめちゃくちゃに破壊したり、海津組から差し向けられた鉄砲玉の前で沖縄舞踊を舞って挑発したり、とその暴れっぷりは見事というほかありません。コーラやアイスをよく食べるコミカルな部分と見事な筋肉美、有無を言わせぬ残虐性、沖縄返還が迫ってもなお消えない本土への反骨心、さまざまな魅力に溢れたキャラクターです。
千葉真一は『仁義なき戦い 広島死闘篇』でも大友勝利というこれまた狂犬と呼ばれるやくざを演じきっており、彼の演技力とキャラクター造形が見事にマッチした配役といえます。

一方、その国頭の下で苦渋をなめてきた中里。国頭を信頼していますが、次第に心が離れていきます。狂犬のような国頭に対して、中里は忍耐力があり、冷静に物事を考えられる人物として描写されています。しかし、その心の奥には沖縄やくざの暴力性が存在しており、ひとたび国頭を敵と認識すると、壮絶な報復合戦が始まります。

 

 

二人の策略家、地井武男成田三樹夫

主役の二人以外にも、影の実力者といえる二人が存在します。
それが地井武男演じる石川と、成田三樹夫演じる翁長です。

石川は眼鏡をかけたインテリ風なやくざで、中里が不在の間に国頭組で成り上がっていきます。しかも、国頭に従っているふりをしながら裏では見限っていたりするという一筋縄ではいかないキャラクターです。地井武男はそんな難しい役柄を、あえて怒鳴り声などを多用せずスマートに演じています。

翁長は国頭組と対立する大城派で、言葉巧みに中里や大城、はては関西の海津組長にまで取り入り、保身をはかりつつもおいしいところは自分で得ようとする、これまた一癖も二癖もある人物です。その場を取り繕うのがうまいため、なし崩し的に相手を納得させる手腕を持っていますが、それが中里の怒りをかってしまうことになります。
成田三樹夫はその知的な風貌を生かして、自らの手を汚すことなく物事を推し進める汚いやくざを熱演しています。

 

脇役も個性派揃い! 室田日出男、尾藤イサオ、渡瀬恒彦

中里の部下たちも個性豊かな俳優が揃っています。


氷屋を営む具志川を演じる室田日出男
縄張りを越えて仕事をしたため、国頭の怒りを買い、局部をペンチで潰されるという拷問を受けます。その後はそれまでの威勢のよさは影をひそめたものの、ぶつぶつと石川らへの恨みごとを呟く不気味な演技が見どころです。

尾藤イサオは儀間という青年を演じています。歌手としての印象が強い尾藤イサオですが意外なことに『新仁義なき戦い 組長最後の日』などのやくざ映画に出演しています。
儀間は無鉄砲で陽気な若者で、中里の忠実な部下です。沖縄本島出身ではないことや自分の肌の色にコンプレックスを持っており、それが警察に捕まった仲間に拳銃を密かに差し入れて脱走させたり、単独で大城の命を狙ったりといった大胆な行動力につながっています。顔に大やけどを負ったあとの鬼気迫る演技がとても印象的です。

そして渡瀬恒彦が演じる嘉手刈。
具志川や儀間と同じように沖縄本土ではない島の出身で、儀間の紹介で中里の部下となります。
刹那的で後先考えない性格で、抗争に翻弄される姿が胸を打ちます。
渡瀬は『山口組外伝 九州進攻作戦』や『仁義なき戦い 代理戦争』、『現代やくざ 血桜三兄弟』といった作品で、似たような若いやくざを演じています。

彼らのような脇役たちの素晴らしい演技もやくざ映画を観るときの楽しみの一つといえます。

 

改めて、実録やくざ映画とは?

先ほど、『沖縄やくざ戦争』は東映の実録ヤクザ路線の映画であると書きましたが、それについて補足します。

実録ヤクザ路線というのは、時代劇から派生した仁侠映画に続いて考案されたヤクザ映画の一ジャンルです。
単純明快なストーリー展開を持つ任侠映画と異なり、実録路線は史実をもとにし、誰が最後まで生き残るかわからない臨場感溢れる内容となっています。

最も有名なのが、深作欣二監督、菅原文太主演『仁義なき戦い』シリーズです。1973年に公開されたこの一大シリーズから実録ヤクザ路線は始まりました。戦後日本の混乱・復興期を背景にしたこのシリーズは「暴力」をテーマとしており、激しさのみならず、抗争の無念さまでも見事に表現したとして今でもファンを増やし続けているという名作です。広島が舞台となっており、菅原文太らの広島弁で怒鳴りあいが見どころです。

他にも大阪を舞台とした『実録外伝 大阪電撃作戦』、九州や大阪を舞台とした『山口組外伝 九州進攻作戦』など各地の実話を膨らませたドキュメンタリータッチの作品が作られ、人気を博しました。

cinematoblog.hatenablog.com

 

沖縄を舞台にしたやくざ映画

『沖縄やくざ戦争』はその名の通り、本土復帰を間近にした沖縄やくざたちの抗争を描いていますが、沖縄を舞台とするやくざ映画は他にもあります。

深作欣二監督、鶴田浩二主演の『博徒外人部隊』は日本で行き場を失ったやくざたちが沖縄で再起をはかるといった内容で、『沖縄やくざ戦争』とは反対の方向から沖縄を描いている傑作です。
松尾昭典監督の『沖縄10年戦争』は、沖縄海洋博の利権を狙う本土のやくざとそれに抵抗する沖縄やくざの激しい戦いが展開されます。

これらの作品では、東映による実録路線の成立と1972年の沖縄返還に絡むやくざの動きが、沖縄やくざ映画としてダイナミックにまとめられています。

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一度観たら忘れられない! 『沖縄やくざ戦争』まとめ

沖縄返還という歴史的なテーマ性、俳優たちの血と汗にまみれた演技が見事に結実した『沖縄やくざ戦争』。普段、やくざ映画はあまり観たことがないという人でも、その熱量に圧倒されること間違いなしです。今では大御所として知られる俳優の若かりし頃の姿も楽しめます!

 

映画の評価としては、千葉真一が殺されるまでの前半は物語のテンションが高く、その後の本土やくざ進出篇は少しクオリティが落ちるのではないかという指摘もあります。そしてそれは(残念ながら)概ね正しいです。

 

ですがラストまで物語を引っ張る松方の演技はいつも以上に迫力がありますし、いづれ記事に書く予定の『沖縄10年戦争』との比較も面白いので、ぜひみていただきたい一作です!

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