シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

昭和十年、東京にて。  中島貞夫『まむしの兄弟 懲役十三回』(1972年)

『まむしの兄弟』シリーズの3作目。監督は中島貞夫。なぜか舞台を昭和十年に移し製作された作品です!

 

主な登場人物

 

政(菅原文太)・・・まむしの兄弟。

勝(川地民夫)・・・まむしの兄弟、弟分。

弥之助(天知茂)・・・浅草菊村一家の代貸(だいがし)。政とはムショ兄弟。

岩淵(小池朝雄)・・・吉原東龍会の会長。浅草菊村一家の縄張りを狙う。

雪子(光川環世)・・・今作のヒロイン的存在。東龍会に追われる譲次と恋仲。

 

 

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はるばるきたぜ、大東京!

 

テンプレ通り、政の出所シーンから始まります。迎えに来る勝。

神戸の街で刑務所のアカをおとそうやないの、と勝はアニキに声をかけます。

しかし、政は刑務所内で知り合った弥之助という男に一度東京に遊びにきてほしい、といわれていたことを思い出し、吉原で遊ぶのもええやんけ、ということで二人は汽車で花の都・東京に向かいます。

 

車中で子供のスリ(愛称・チャボ)を助けるも自身も金をすられるという情けない政。東京につくと、調子のいい男(辰)が声をかけてきて浅草を案内してくれます。

どうやらこの男は、まむしの兄弟を、関西同友会から送られてきたヒットマンはやぶさの兄弟」と間違えている模様。

そんなことも露知らぬ御両人は、レビューの踊り子に猛アピールしたり、カフェーで浅草名物の電気ブランで痺れたり…と浅草を満喫。途中、花をくれたレビューの踊り子である雪子に惚れたりします。

足腰ふらふらの二人ですが、まだまだ夜はこれからとばかり、(金をすられているため)一文無しで吉原に繰り出します。

 

東京女子とパツイチやったあとの二人は「金はない!」と男らしく(?)開き直ります。吉原を仕切る東龍会の者たちに取り囲まれても動じないまむしの兄弟、勝は居残りで働かされ、政は金を作りに出かけていきます。

 

一方、女浪曲師である都春月と同衾中の東龍会会長岩淵。こちらは本物の同友会からの刺客に襲われます。東龍会は役者の引き抜きを繰り返し、関西同友会と揉めているのです。負傷するものの、部下たちが駆けつけ、ヒットマンたちを返り討ちにする東龍会。

 

さて政はバクチで金を作ろうとして東龍会の賭場へ繰り出します。調子良く見知らぬ他人と同行して、助言などしながら金を稼ごうとしますが上手くいきません。

 

ぶち切れた政は賭場で大暴れするものの、簀巻きにされ川にドボン。翌朝、チャボに助けられます。

 

チャボは盗品などをさばくばあちゃんと住んでいます。

反撃とばかり、チャボとばあちゃん、政は共謀して東龍会にタカリにいきますが、チャボたちは逃げ出し、なんやかやあって、政が岩淵に雇われることになります。

なんでも浅草では菊村一家というものたちが暴れていて手がつけられない、お前さんの腕を見込んでやつらをこらしめてほしいとのこと。

 

勝は勝で小間使いの仕事にせいをだし、小金を貯めていきます。ある時、お使いをことづけられそのまま遊郭から脱走します。すると、そこで政と合流。アニキ~、と勝はこれまで貯めた金を政に預けます。

 

 

弥之助と再会する

 

浅草に向かった二人、そこでチャボとばばあに出くわします。政はばばあを懲らしめようとしますがチャボの説得に会い、怒りを収めます(どうやら政は親のいないチャボに同情しているようです)。

 

政と勝は金もあることだしと、浅草にてスーツを仕立てます(政が黄土色、勝が赤っぽいスーツ、さらにそれぞれ同じ色のハンチングまで揃えるオシャレぶり)が、いざ支払いの段になって金がないことに気づきます。そうです、さきほどチャボにすられていたのです。相変わらず、甘いところに付け込まれる政です。

 

金を払う意思はあったにも関わらず盗人よばわりされて切れた政は通りで乱闘。東龍会のものに取り押さえられそうになりますがそこに偶然、弥之助が通りかかります。そう浅草を治める菊村一家に弥之助がいたのです。彼がスーツ代を支払い、騒動はとりあえず終結。再会の記念に弥之助と政たちは飲みにいきます。

 

弥之助は菊村一家の代貸で、今は先代の追善興行の支度で忙しい身とのこと。元々、東龍会の岩淵と菊村の親分とは同じ一家の間柄であり、先代が亡くなったあと菊村の親分が五代目を継ぎ、吉原の縄張りを岩淵が継ぐかたちになったそうです。

 

政と別れたあと弥之助は一連の騒動を岩淵に謝罪しに行きます。岩淵をオジキと呼ぶ関係の弥之助。さらに菊村一家はどうやら岩淵に借金があるそう。3月の追善興行が終われば金も返せますと平身低頭の弥之助。どうやら今回はこの二人の間で戦争がおきそうな予感です。

 

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政は惚れた雪子とデートの約束をするもののすっぽかされて浴びるように酒を飲んで潰れてしまいます。女店員の住んでいるアパートに勝とともに連れられていきますが、なんと隣の部屋が雪子の部屋で鉢合わせます。

なんで来なかったんやと怒り心頭の勝ですが、政は惚れた弱みで、なんか事情があったんだろう気にしないでな、と優しく声をかけます。

 

なんやかんやで雪子の部屋に入るとそこには乳飲み子が。

弟さんか? と頓珍漢な勘違いをする政。

 

政は譲次という男と雪子が一緒にいるところを見ていますが、女店員にあれは雪子とその兄だと吹き込まれているので、雪子を純真な女だととらえているようです。

しかし、譲次は東龍会に借金がある身で、雪子と九州に逃げようとします。

 

マサオという名のその赤ん坊をちょっとの間見ていてほしいと頼まれた政は「自分と同じ名前だ」などとホイホイ引き受けますが、そのまま雪子はアパートに帰ってきません(ちなみに譲次とのあいだの子供ではないとのこと)。

 

実はその赤ん坊が雪子の子だと知った政。

子供を置いて男と逃げるなんて母親失格だ、母のいない子供の気持ちが俺にはわかる、この子は俺が育てると決意します。

 

興行を巡る争い

 

追善興行開催のために大阪から大物興行主を連れてきた弥之助。菊村一家五代目と興行主と話し合います。五代目は病身で、興行が終われば長の身分を弥之助に譲りわたしたいという意向(この五代目が病に臥している演技が非常にリアルで素晴らしい!)。

 

興行主は浅草劇場の小屋主と話し合いますが、どういうわけか3月1日から都春月の舞台が組まれていると聞きます。浅草中の劇場が東龍会によって押さえられていたのです。

 

噂によれば先代が浅草での菊村の名を大きくしたが、7年前に他の組との出入りがあり代貸を死なせてしまった、今は落ち目であり、今回の追善興行をしくじったら一家はおしまいとのこと。

 

東龍会の岩淵は弱体化している菊村一家の興行を邪魔して浅草のシマを奪取しようとしているのです。

 

しかし大阪の興行主はその東龍会の嫌がらせを察知し、菊村一家に肩入れし、浅草劇場のスケジュールをあけさせると約束、関西の浪花節の大物を揃えるからあとは弥之助、お前の腕次第だと発破をかけます。

 

弥之助はどうしても興行を成功させたいがために、政に神戸に帰ってくれと頼みます。これ以上、浅草で暴れられては事がうまく運ばないのです。しかし決して人間として政を憎んでいるわけではないのは表情やそのセリフから伺えます。友情をとるより一家の存続を優先したのです。

 

政は激昂しますが、ちょうど雪子がアパートにふらりと帰ってきます、どうやら譲次は一人で満州に逃げたようです。雪子はどうしても子供が気がかりだったのです。

雪子に対しても激昂する政。しかし、カフェーの女店員の、

「子供には母親が一番大事というのがあなたにはよく知っているでしょう。お願いだから雪子ちゃんを許してあげて」

という言葉に政はマサオを部屋に残し、走って逃げ出します。

 

兄弟分や惚れた女との関係もこじれてしまった以上、東京にいる意味はありません。

政が失意のうちに勝とともに神戸へ帰ろうとします。

 

しかし雪子が東龍会に連れ去られたという情報が入ってきます。譲次の借金の身代わりとして吉原で女郎にされてしまう寸前、政たちは何とか雪子を救出、木更津まで送ります。

 

その後、サイドカーに乗った東龍会組員に銃で狙撃されますが反撃、サイドカーを奪い、今度は東龍会本部に突撃します。

 

一方そのころその東龍会本部では岩淵と弥之助が会談中。この度の不始末(政たちが女郎を足抜けさせてしまったこと)の責任を取り、弥之助が左の小指を詰めますが、岩淵は「こんなもの一銭の値打ちにもなりゃしない」と取り合いません。

「それでは、どうすればいいですか?」

「そうだなあ、追善興行をこっちに貰おうか。いやだといえば本家も分家もない、喧嘩だ!」

と凄まれる弥之助。

 

しかし彼にも意地がありそれだけは譲れません。

要求が受け入れられないとわかった東龍会組員が弥之助を狙撃、重傷を負いながらも反撃する弥之助。

 

そこへ政と勝が駆けつけます。

 

弥之助は最後の力を振り絞って岩淵を討ちますが、自分も果ててしまいます。

 

「皆殺しや!」

の政の一声で軽快なBGMとともに大乱闘が始まります。

最後は東龍会の代貸を葬って、政と勝の未完成の刺青を貫く傷跡がアップになり、警察の警笛の音を聞いた二人の背中を映し、ジ・エンド。

 

懲役十三回、総評

 

本作は『まむしの兄弟』シリーズ中でも異色の一作です。

それは舞台が昭和十年の東京であるためです。

 

通常の舞台設定よりだいぶ昔に遡っているのですが、正直言ってそんなに必然性を感じられません。

 

物語構成としては任侠映画のいわゆる「がまん劇」の型(岩淵・弥之助サイドのストーリー)と、母親慕情(政と雪子・マサオ)の二本立てですね。

 

しかし、ちょっとこの二つがそんなにうまく噛み合っていないようにも思えます。最後の10分間はそれまでの展開と比べると駆け足です。譲次や辰といったサブキャラクターもそんなに出番ないし、色々と盛り込むより、シンプルにそぎ落とすことも出来そうな印象を受けました。

 

東龍会のサイドカーでの襲撃も、映像的に何だかピリっとしませんでした…。

 

実際のところ昭和十年の浅草の興行をメインとした組同士の争いに、まむしの兄弟が外界から乱入した、というかんじでしょうか。

 

政たちがよかれと思って(あるいはただ単に暴れたくて)巻き起こした騒動が、結果的には義兄弟の弥之助を窮地に追いやっていく流れはなんとも悲哀溢れるかんじで、そこは物語の面白さを感じましたね。

 

あとはヒロイン的存在の雪子が影が薄く、まむしたちにいろいろと世話を焼くカフェーの店員のほうがよっぽど印象に残りました。

 

あくまで自分の感想ですが、『まむしの兄弟』シリーズの中では可も不可もない出来かな~という判断です!

 

とはいえ、あいかわらず文太兄貴の激昂シーンは熱いですので、一見の価値ありですぞ!

 

 

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