おかあやんとヤサグレのジュン 『まむしの兄弟 二人合わせて30犯』(1974年)
今日は菅原文太・川地民夫主演の人気シリーズ『まむしの兄弟』の7作目『二人合わせて30犯』(1974年公開)を取り上げてみたいと思います!
監督は大物監督の工藤栄一。脚本は鴨井達比古が担当しています。
『まむしの兄弟』とは?
では、本作の内容に入る前に『まむしの兄弟』とはいったいどんな特徴を持ったシリーズなのかというのを説明したいと思います。
『まむしの兄弟』は1971年から1975年にかけて公開されています。菅原文太の映画出演歴を観ていくと、『関東テキヤ一家』シリーズが1969年から1971年、『現代やくざ』シリーズもほぼ同じく1969年から1972年、『仁義なき戦い』初期5作品が1973年から1974年、『トラック野郎』シリーズが1975年から1979年に公開となっています。
文太兄ィがめちゃくちゃ売れっ子なのが一目で分かりますね。
で、『まむしの兄弟』とはゴロ政(菅原文太)と彼をアニキと慕う、不死身の勝(川地民夫)のコンビです。
その内容はというと、Wikipediaにも簡潔にまとめられているのですが、
①冒頭、刑務所から出所する
②刑務所のアカを落とすために盛り場にでかけたり、「大人のお風呂」にいったりする
③派手に遊んでいるためにヤクザに絡まれる
④ヒロイン登場。ゴロ政が惚れる
⑤ヤクザとヒロインが対立していることがわかり、政たちはもちろんヒロイン側につく
⑥相手方により、政たち側の誰かが殺されたり、ひどい目にあう
⑦ぶちぎれた政と勝が、ドスなどで武装し、相手方のアジトに乗り込む、全員葬り去る
⑧逮捕される
という流れをほぼ毎作繰り返す構造を持っています。よって題材さえあれば何作、何十作もシリーズを続けることが可能です。
④と⑤あたりのエピソードは『トラック野郎』シリーズでもでてきますね。⑦の成敗シーンがあるあたりはいわゆる任侠映画の構造と一緒です。
また、全体的なテイストとして政や勝のアホアホ加減(下らなすぎて素晴らしい下ネタやとてつもない頭の悪さ)で笑わせるというコメディ要素もありますので、雰囲気的にやはり『トラック野郎』と似ているといえるかもしれません。
しかしながら⑥、⑦などの「死」の登場が、笑いとの落差を生み出し、永遠に「出所」と「逮捕」を繰り返しているかのような、哀しさ・やるせなさを感じさせます。
おかあやんとヤサグレのジュン
さて、そんなシリーズの7作目にあたる本作ではどんな内容なのでしょうか。簡単にまとめてみたいと思います。
例に違わず、出所シーンからスタート。弟分の勝が迎えにくる。ヤクザ映画の撮影をしているところを勘違いし襲撃。勘違いに気づいても難癖をつけて襲撃。冒頭からテンション高い。
神戸・新開地に戻った二人、ひょんなことから加賀組と乱闘、ヤサグレのジュン(東三千)という不良娘と知り合う。
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加賀組のキャバレーで糞尿をばら撒いているところを捕まり、リンチ。ちなみに加賀組長役はイケメン成田三樹夫。すんでのところを、兄弟分にすることを条件にジュンに助けられる。
ジンリュウ会の塚本(渡辺文雄)と加賀がなにやら悪巧み。まむしの兄弟を利用して一儲けしようと画策している模様。この耳打ちにシーンを部下のサングラスに反射させて映すのがオシャレ演出。
一方、ジュンは一般人から注文を取り、うらみを持たれている人々をまむしの兄弟にボコボコにさせて金儲けする。打ち上げで食べる焼肉がうまそう。
塚本たちはそんなまむしたちと接触。弁護士の本間(菅貫太郎)が、実は勝は、尾澤勝彦という名前で、芦屋で病に臥す大金持ちの尾澤弥生の息子であると告げる。
そんなアホな話があるかい、と笑うまむし達であったが本間の仕組んだ話にまんまと乗せられてしまう。
本間は悪徳弁護士で、塚本とつながりを持っており、10億の遺産を勝に相続させたあと葬り去って金を得ようと考えていたのだった。
母が見つかって嬉しい気持ち反面、アニキの母が見つからず自分の母が名乗り出たことに申し訳ない気持ちも半分、といったかんじの勝でしたが、ゴロ政とともに芦屋に向かいます。
「おかあやん」との感動の再開。豪邸に住むことになります。尾澤家には弥生の義理の息子のムネオ(会社を経営している)とその妻恵子、息子の敏彦も住んでいました。
実は、塚本らによる遺産強奪作戦には、弁護士本間だけでなく、ムネオと弥生の担当医も絡んでいました。
ムネオは弥生から預かっている会社で脱税していること、担当医はモルヒネを横流ししていることを塚本に脅されていたのです。
塚本は遺産10億の半分をムネオに、もう半分を勝に相続させ、自分たちの利益にしようと企んでいたのです。
本間は自分たちの計画に邪魔な政を、尾澤家にふさわしくないとして追放。勝のためを思い、憎まれ口を叩きながら尾澤家をでていきます。
さて、邪魔者を追い払った塚本たちは医者を呼び、注射で弥生を殺そうとします。その話を偶然聞いてしまった弥生。
すんでのところで勝に助けられる弥生。勝は車椅子に弥生を乗せ尾澤家から脱走します。
勝はボコボコに殴られながらも、なんとかゴロ政の住むアパートまで逃げ帰ります。
弥生が本間たちの計画を政たちに話し、警察に相談するといいますが、戦後の厳しい社会を権力に逆らいながら生きてきたゴロ政は反対し、自分たちで守り抜こうと誓います。
加賀組により、アパート周辺を包囲され絶体絶命のピンチをジュンの機転により切り抜けますが、政と勝は捕まってしまいます。
クリーニング屋の車を盗んでホテルに逃げ込み、一息つくジュンたち。車にあったという洋服を着てみると美しく見違えるようになりました。弥生に美貌を褒められ、ゴロ政に淡い恋心を抱いているジュンは彼との再会を待ちます。
さて、政と勝は加賀組のキャバレーで、弥生が勝の実の母でないことを知らされます。とまどう政たちでしたが隙をついて火を放ち、本間から遺言状を奪い取って、逃げ出します。
加賀に潜伏先を突き止められてしまったジュンは、弥生を守り抜きますが組員により刺し殺されてしまいます。着替えた白い服が凄惨にも血で赤く染まります。
一歩遅れて登場する政と勝。組員を葬り去ると命果てる間際のジュンと対面します。
「アニキ、この服似合うやろう」
「ああ、似合うがな…。死んだらアカンぞ!」
政の言葉も虚しく息を引き取るジュン。ずっとジュンが持っていたノートにはゴロ政への密かな恋心が綴られていました。
その気持ちに気づけず、悔やむ政。
車に盗んだ花を敷き詰め、ジュンの遺体を乗せた二人は華々しい「追悼」をしてやろう、と加賀の事務所に乗り込みます。加賀たちは、ゴロ政たちに渡した遺言状は偽物だったと笑っています。
ライフルで加賀の額を撃ちぬく政。次々を組員たちを死に追いやっていきます。
途中、腹を刺される政ですが、ジュンのノートを腹巻に差していたため事なきをえます。
「ジュン、われのおかげやで…」
とつぶやく政。
今度は刀で次々と切りかかります。
そこかしこで血しぶきが音ともに吹き上がり、血の海が出来上がります。
塚本を葬り、悪徳弁護士の本間の腕を切り落とすと、ゴロ政はこう言い放ちます。
「悪いやつはぎょうさんおるけどやな、弁護士の悪いのだけはゆるせんのじゃ! 勝、はらわたえぐってまえ!」
全てを終えた二人が警察に捕まる様子を背中から捉えて映画は終了です。
まむしは不死身なり
今作は『まむしの兄弟』シリーズでも人気のある一本だそうです。
その要因を考えてみると、物語のテンポのよさが挙げられます。92分というコンパクトな本編の中に、シリーズ全体で描いてきた母親への慕情、そしてゴロ政に恋心を抱く不良娘ジュンの存在を盛り込んでその顛末を描ききっています。
男勝りで一人で生き抜いてきたジュンの美女への変貌シーンがベタながらも見事であります。
討ち入りシーンも派手で、スローモーションや血しぶきを多様し見ごたえのある画面作りを行っています。時代劇に定評のある工藤監督の手腕が見事に発揮されています。
『まむしの兄弟』シリーズは主人公たちを除けば、監督も共演者も作品ごとにほとんど入れ替わり、各作品ごとのつながりもほぼないのでどれから見ても楽しめます。私としては本作が一番オススメかな、という感じです!
エロあり人情あり殺しありの盛りだくさんな本シリーズ。実質的には最終作となるこの作品を気に入ったら、シリーズ全部観てみましょう!