シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

音楽とカーチェイス。感想/ベイビードライバー エドガー・ライト監督

「ベイビー・ドライバー」オリジナル・サウンドトラック

 

ゾンビが大発生したイギリスでダメ男たちが、ショッピングモールの代わりに選んだのはパブだった「ショーン・オブ・ザ・デッド」。

巨大な犯罪に立ち向かっていた刑事が、イギリスの田舎に行ったら大変なことになる「ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン」。

スピルバーグ映画のオマージュをささげつつ、イギリス出身のオタクがアメリカ旅行中にであった本物のアメリカかぶれな宇宙人との友情を描く「宇宙人ポール

高校のときはイケイケだった主人公がアルコール中毒になりながらも、伝説のはしご酒をやりながら、街を支配する宇宙生物を撃退してしまう「ワールドエンド 酔っ払いは世界を救う」。

といった、映画へのオマージュとともに面白おかしく作品をつくっているのが特徴的な監督こそが、エドガー・ライト監督です。

 

宇宙人ポール (字幕版)
 

 

そんなエドガー・ライト監督が長い時間構想を練りながら、ようやく完成させた作品こそが「ベイビー・ドライバー」です。

カーアクション×音楽。

ミュージカルカーアクションとも称される本作品について、感想を述べてみたいと思います。

 

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ドライヴ


本作品は、逃がし屋と呼ばれる仕事をしている主人公ベイビーの物語となっています。

この場合の逃し屋とは、主に銀行強盗などを行った犯人を、運転手がドライビングテクニックを駆使して逃がすことを指します。

主人公のベイビーは、運転の技術と度胸をかわれたことで逃がし屋となりました。

しかし、彼自身は、人を傷つけたりすることをよしとはしておらず、誰かが傷つくのを嫌がっている人間です。


エドガー・ライトという監督の特徴でもありますが、人を傷つけたりすることには責任がともなっている、ということを描くことを忘れない監督でもあります。

 

ちなみに、本作品と同じように逃がし屋をメインにした作品としては、ライアン・ゴズリング主演「ドライヴ」などが有名です。

 

cinematoblog.hatenablog.com


カースタントを行う一方で、強盗の逃がしやをしているライアン・ゴズリング演じる主人公は、愛する人と出会ったことで、自分自身のもつ暴力性と純愛の中で揺れ動く傑作作品です。


「ドライヴ」と「ベイビードライバー」は同じ逃がし屋の話であり、参考作品の一つでもありますので「ベイビードライバー」が気に入った方は、こちらもオススメとなっております。

 

音楽に合わせて

映画をみていて思うのは、音楽の使い方です。

主人公のベイビーは、事故の後遺症のせいで耳鳴りがするようになってしまっています。
そのため、それを紛らわせるために、アイポッドを使い、ずっと音楽を聴いているのです。


実は、本編にかかっている音楽はベイビーが聞いている音楽がBGMとして流れており、主人公の中の音楽が途切れれば、そのままBGMが途切れたり、遠のいたりしているのが面白い演出です。


そのため、アイポッドを聞けない環境においては、キーン、という耳鳴りが絶えず鳴っているのがわかります。機器の異常ではもちろんありません。


YOUTUBEで冒頭6分が公開されておりますが、音楽に合わせてカーチェイスが行われていきます。

 

 

顔も童顔(ベイビーフェイス)なベイビーによる、壮絶なカーチェイス

ドアの閉めるタイミングや、ハンドルの動きなど、リズムに合わせて動くさまは見ても聞いても爽快です。

もちろん、この作品は、大量の音楽が使われます。

洋楽が詳しい人間であれば、ご褒美のような映画になっておりますので、それだけでも見る価値がある映画であるといえます。

 

純愛

この作品のヒロインは、かなりあとになってから出てきます。

リリー・ジェームズ演じるヒロイン、デボラは、ボーズダイナーという食堂でウェイトレスをやっています。

ちなみに、リリー・ジェームズは「シンデレラ」の主演で有名となった女優です。


さて、主人公は前半完璧に仕事をこなします。
どんなに侮られていたとしても、彼は音楽を聴きながら作戦会議をしっかりと聞き取り、集中力を途切れさせることはありません。


そして、約束していた任期を終えてるのですが、その途端に、奇跡が起きてしまいます。


ヒロイン、デボラと出会ってしまうのです。


おそらく、このタイミングがずれていればこうはならなかったでしょう。

主人公は、逃がし屋家業から足を洗った、と思った瞬間だったからこそデボラと恋におち、そして、それがわかったからこそ、ケヴィン・スペイシー演じるドクは、再びベイビーを悪い世界へ引きずり戻すのです。


「君は、僕にとっての奇跡なんだ」


とベイビーは言います。


作品の中で、デボラはあまりに聞き分けが良すぎるキャラクターに見えるかもしれませんが、映画を既に見ている人はわかると思います。

 

主人公のベイビーはその奇跡を起こすのに十分すぎるほどに、いい人物なのです。


こういった組織や何かから抜け出すのは大きすぎる代償が払われるという点では、マイケル・マン監督「ヒート」なんかが有名なところでしょうか。

「ヒート」もまたロバート・デニーロ演じる主人公が、愛する女性のために犯罪をやめようとしますが、最後の犯罪をするときに、アル・パチーノ演じる刑事に追われていく、という物語です。

 

 

レザボア


ちょっと、余談です。

 

本作品は、冒頭でも紹介した「ショーン・オブ・ザ・デッド」や「宇宙人ポール」など数々の映画のオマージュを捧げた監督です。

 

 

本作品の中でも大なり小なりオマージュがされており、主に「ザ・ドライバー」やその元となった「ドライブ」といった映画に起因する部分や、劇中でそのまま「ファイト・クラブ」の映像が流れて、その台詞が使われたりしています。


銀行強盗をする会議の中で、彼らはあだ名で呼び合っています。

その中での会話は、クェンティン・タランティーノ監督の代表作「レザボア・ドックス」にも似た楽しさがあります。

 


また、ベイビーが一時的にピザの配達員としてドライビングテクニックを駆使して最速で届けたりする場面がありますが、その彼が勤めているピザ屋の店名が「グットフェラーズ」となっています。


これは、マーティン・スコセッシ監督「グットフェローズ(英語ではグットフェラーズ)」となっており、エドガー・ライト監督が影響を受けたというスコセッシへのお遊びのようなメッセージとみていいのではないでしょうか。

 

  

暴力に対する考え

 ライアン・ゴズリング主演「ドライヴ」は暴力という性質の中で悩む主人公でしたが、「ベイビー・ドライバー」のベイビーは、暴力を否定しています。

彼の世界は音楽で満たされており、その中で彼は運転を続けます。


ネタバレは基本しませんが、先入観なく見たい方は、映画を見終えてから見に来ていただければと思います。

 

さて。


本作品では、ベイビーはつかまってしまいます。

普通の映画であれば、つかまらないで、無事逃げ切って物語りは終わるところです。


この作品では、人を傷つけた代償というのは、それがいかなるものであってもちゃんと支払わなければならない、というエドガー・ライトの映画への考えをもとに作られています。

ベイビーは、しかるべきところへ行き、そして、そこで、奇跡の女性と再び出会うのか。


彼にとって、リリー・ジェームズ演じるヒロインはどのような存在なのか、を含めて、この作品は娯楽だけにとどまらない映画となっています。


洋楽好きへのご褒美であり、カーアクション好きも満足でき、近年「ラ・ラ・ランド」にはまってミュージカル風のものも見たくなった方にとっても、面白い映画となっています。


以上、音楽とカーチェイス。感想/ベイビードライバー エドガー・ライト監督でした!

 

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