かわいい松子は3度死ぬ/中島哲也「嫌われ松子の一生」
「嫌われ松子の一生」といえば、原作がベストセラーになり、中島哲也監督が映画化した作品です。
本ブログでは、映画の「嫌われ松子の一生」について、その見所を含めながら考えていきたいと思います。
松子は嫌われ者なのか。
物語は、川尻笙(かわじり しょう)が、叔母である川尻松子がどういう人であったかを知っていくという、ミステリー風の物語となっています。
一方で、川尻松子という女性がどのように生き、どのように死ぬこととなったのかが描かれた物語となっており、映画をみることで一人の女性の人生がわかるようになっています。
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基本的には、松子の転落人生が非常にコミカルに描かれているのが特徴です。
松子は教師をやっていていましたが、生徒がお金を盗んだことを、その場をやり過ごすために自分がやったと嘘をつき、結果として、教師を辞めることになってしまうのです。
それからは、次々と転落の人生になっていきますが、中谷美紀演じる松子は、非常に美しかったことから、色々な男を愛し、愛されながら生きていきます。
愛の女性
「嫌われ松子の一生」を見ていると思い出すのは、チェーホフの「かわいい女」です。
「かわいい女」は誰かを愛さずにはいられないオーレンカという女性が、色々な男と結婚しながらも先立たれ、それでも愛することをやめられない、という話しです。
松子もまた、愛情に飢えた女性として描かれます。
父親は病弱な妹にばかり愛情を注ぎ、松子にはまったく愛情を注ぎません。ですが、たまたま、松子がひょっとこのような顔をすることで笑顔となり、それ以来、松子はへんな顔をするようになっていきます。
彼女は、誰かに愛されようとしながら、ボタンの掛け違いのようにして次々と不幸に向かっていってしまうのです。
では、松子がいい女性か、というとそういうわけではありません。
コメディ
物語の前半で面白いのが、松子という女性が非常に利己的だということです。
自分が助かるために生徒を差し出そうとしたり、誰かを傷つけないように話しをしようとかいうことは考えません。
ですが、一方で、彼女は愛のためであれば、殴られようと蹴られようと耐えるだけの精神力をもっている女性でもあります。
物語だけ聞いていると、非常に暗い話になりそうですが、コメディタッチに進んでいきます。
また、ミュージカル要素も取り入れられており、非常に豪華なつくりになっています。
中島哲也監督はCM出身の監督ということもあり、歌と音楽をうまくつかって、彼女の人生を圧縮しながら紹介していく様は秀逸です。
中島哲也監督
映画をみているとわかるのは、その色彩感覚です。
色のコーディネートが行き届いており、どの場面の色鮮やかになっています。
そこでの撮影方法などは、次の作品である「パコと魔法の絵本」でも同様の撮影方法となっていたり、突然アニメーションが入ったり、主人公の笙が水の中に沈んでいくシーンなどは、後の「渇き。」などでも同じようなシーンがあります。
中島哲也監督といえば、ロリータファッションに身を包んだ深田恭子と、ヤンキー姿の土屋アンナが主演し、嶽本野ばら先生原作「下妻物語」の映画化で一気に有名になった監督です。
映像と音楽を合わせながら物語をすすめていくという手法と、そのテンポのいい編集が特徴の監督となっています。
余談ですが、「しばづけ食べたい」の台詞で有名なフジッコのCMも手がけたという監督でもあります。
とにかく中谷美紀の演技がすごいです。
綺麗な女優さんというイメージが強い中谷美紀ですが、この作品では、とことん汚れ役をこなしています。
男に殴られて鼻血を垂れ流し、愛情が得られないことにたいして「なんでー!」と怒ります。
また、風俗に務めるために豪快に服を脱ぎさったり、お酒を飲んで食べて寝るだけの生活をしてバケモノのようになってしまうなど、普通の女優さんではまず断ってしまうような演技を次々と行っています。
インタビューなどで、実際に撮影から逃げ出した、という話しもあることから、相当過酷な撮影だったことがわかるところです。
歌い、踊りもして、汚れ役もこなす。
まさに、体当たりの演技にハラハラします。
豪華な俳優陣
芸人が俳優として多く出ているのも面白いところです。
劇団一人が松子と関係をもっている男としてでてきたり、その奥さん役として、オアシスの大久保さん。同じ刑務所に花子。
ガレッジセールのゴリが、謎のパンク野郎としてでていたり、カンニングの竹山が松子に胸を見せろと要求する教頭を演じていたりします。
2006年当時のちょっとした人たちが出演しているというところも、楽しめるポイントではないでしょうか。
松子は3度死ぬ。
映画のストーリーに戻りますが、松子は何度も「人生が終わった」と自覚します。
一度目は、生徒を突き出し、自分の罪を逃れようとしたとき。
二度目は、恋人が目の前で電車に引かれたとき。
三度目は、作品を見ていただくとして、ことごとく彼女は自分の人生の底を経験し、それでもなお人生の底辺には下があって、彼女はどんどん落ちていきます。
ですが、彼女がどんどんたくましくなっていくというところが魅力です。
教師として他の先生に食い物にされたり、男に暴力を振るわれるだけだった松子ですが、風俗の仕事をする際に
「器用そうな指だ。しっかり稼ぎな」
と言われます。
ただ一方的に暴力を振るわれるだけの彼女から変わります。
また、
「ポイントは体重のかけかただ。そいつを自由に調整するには、腕と足腰の筋肉を鍛えるしかねぇ」といわれてスクワットを始めます。
彼女は今までの人生で学んだことをちゃんと生かしてい着ていくようになっていくのです。
スクワットをして、愛する男のために頑張る。
何度も裏切られ、それでも「一人ぼっちよりはまし」といって、愛情を求め続けます。
松子はたしかにキツイ人生を生きているのですが、苦労して苦労して、あまりにも不幸な境遇に、殻に閉じこもってしまうときもありますが、彼女は再び立ち上がろうとします。
そんな彼女の人生を笑うことはできません。
悲惨な物語ですし、暴力的な描写もありますが、見ていると前向きになろうと思う作品でもあります。
以上、かわいい松子は3度死ぬ/中島哲也「嫌われ松子の一生」でした!