シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

ロリータの深田恭子/中島哲也「下妻物語」

映画「下妻物語」

 

深田恭子土屋アンナが主演し、ロリータとヤンキーという日本の特殊なカルチャーを背負ったキャラクターが活躍する作品「下妻物語」は、中島哲也監督によるコミカルな編集と演出によって人気を博しました。

中島哲也監督のある意味出世作となっている作品でもあり、原作者の嶽本野ばら先生による作品としても、異質な作品となっていることも含めて、この映画の魅力について考えてみたいと思います。

 

スポンザードリンク

?

 

ロココノココロ

深田恭子演じる竜ヶ崎桃子は、ロリータファッションに身を包んだ高校生です。

ロリータファッションといえば、日本のサブカルチャー的なものとして海外でも評価されており、多くの場合、フリフリのついた格好をしており、ピンクや白を基調とした色遣いをして、パニエなどをはいてスカートにボリュームを出すなど、絵本の中からでてきたような人たちのファッションをさします。

 

 

黒を基調としたゴシック・ロリータ(通称ゴスロリ)というものもありますし、ピンク色を強調したようなものは、甘ロリといわれたりもします。

解釈の余地は色々あるとは思いますが、当ブログでは、誤解を招かないように、こういったファッションがあり、そこにはお洋服に対して信念をもってきた少女のようでありながら、強く勇ましい信念をもった女性たち(時には男の子たち)がいる、ということ知っていただければと思います。


そんなロリータ・ファッションに身を包んだ深田恭子が、土屋アンナ演じるイチゴと出会い、やがて、自分本位だった彼女の生き方が変わっていく様子を描いた、ガールズ青春物語が「下妻物語」となっています。

 

田舎でロリータでいること


主人公の竜ヶ崎桃子は、茨城県下妻市という田舎に住んでいます。

この作品は、田舎に住む人たちを皮肉った物語としてみることもできますが、同時に、「都会から来た人間が田舎の人たちに感化されていく」物語でもあります。

ただし、主人公はもともと田舎からきた人間です。


竜ヶ崎桃子は、ロリータファッションで畑しかない道を歩きます。

田舎では車かバイクか、せめて自転車が必要ですが、ロリータ・ファッションの主人公は必ず歩きます。

「自転車なら早いのだけれど、そんなのダメ。ロリータがママちゃりこぐ姿なんて」

それは、本当かどうかわかりませんが「好き勝手に生きる」というロココの精神をもって生きているからです。

好きなお洋服を着て、まわりの人間なんかは気にしないで、好きに生きる。

ですが、田舎で住んでいる主人公からすれば、それを実現するのは困難です。

彼女が好きな服のメゾン「ベイビーザスターズシャインブライト」は、東京にあるお店であり、それを理解してくれる人はいません。

「服買いに行くのに、なんでわざわざ東京までいくの。下妻のジャスコは、スーパーなんてもんじゃねえの。なんもかんも揃ってる。東京のパルコ以上だ」

何かというと、当時のジャスコ(現在のイオン)を引き合いにだし「これだってジャスコで1500円」「このブラウスも2800円」「これだってジャスコ!」

と、郊外化が進み、服にこだわりをもつ人がいなくなっているという現状を描きます。


その中で、主人公は、まわりの人間から距離をおき、大好きな服に囲まれた日々を過ごすのです。

 

ヤンキーちゃんと出会う


服を買うお金がなくなった主人公は、ベル○ーチの服を売ることを思いつきます。

当然、ニセモノなのですが、それを購入しようとやってきた土屋アンナ演じるイチゴと出会います。

ヤンキーまるだしの彼女ですが、桃子を気に入ったのか何度も家にやってくるようになります。


その理由は語られませんが、友情こそがこの作品の重要なポイントとなります。

 

刺繍が得意な桃子は、土屋アンナの特攻服に刺繍をするまでになっていきます。

 

 

この物語は、田舎ものの象徴である土屋アンナと、本当は田舎ものだけれど田舎から精神的に脱出しようとしている深田恭子演じる桃子の、友情と服と愛の戦いの物語。


「私は妙に冷めた、無慈悲な子供でした」


深田恭子は言います。

彼女は、実は子供の頃の時点で完成していました。

悩むことはなく、周りがどれだけ「かわいそうな人」と彼女を蔑んだところで、まったく気にならなかったのです。

なぜって、それはロココの精神をもっているからです。

ですが、イチゴと出会うことで、不完全になっていってしまうところも魅力の一つです。

嶽本野ばら

嶽本野ばら先生といえば、「乙女のカリスマ」として一世を風靡(?)し、「下妻物語」「ミシン」を執筆。

もともとは、「それいぬーー正しい乙女になるために」を連載したことで人気を博した作者であり、男性でありながら本人もまたロリータファッション等に身を包んだ人物でもあります。

 

それいぬ―正しい乙女になるために

それいぬ―正しい乙女になるために

 

 

大麻所持事件によって逮捕され、ロココ時代に生まれたという設定でやってきていたのに実年齢を明かされてしまうという営業妨害のようなことまでやられてしまいました。

多くの乙女たちは、現実世界の野ばら先生を見て絶叫してしまったものです。

ですが、復帰第一作目の「タイマ」を発表するなど、ころんでもタダではおきないたくましさをもった人物でもあります。


ちなみに、タイマはまさに大麻所持によって逮捕されてしまったときの話しを、本人としか思えない主人公を通じて描いています。


野ばら先生が描く作品の多くは、丁寧な言葉づかいの一人称のキャラクターが多く、その一方で性描写や時には暴力的な描写を取り入れながらも、強い意志をもってすすむ主人公達が描かれます。

読む人を選ぶ傾向がある作者ですが、「下妻物語」は少女達の友情を描いたという点で、一般にも受けいられやすい作品となっているのが特徴です。

もし本作品が気に入った方は原作を読み、問題なさそうであれば、こうもり傘とミシンとの出会いに感動したことからミシンと名付けられた少女の物語「ミシン」や、男性不信に陥った女の子が、ゲイの男の子と恋をする「エミリー」などがオススメです。

いずれも、大好きなお洋服によって救われている人たちの物語を描いています。

どんなに酷い環境にいたとしても、自分の好きなもの、その信念のために生きる人間の業を描いています。

 

カミカゼ・ガール

この作品はフランスでも公開され「kamikaze girl」として人気を博しました。

ロリータ・ファッションは日本独自のファッション文化であり、そのような側面が強く評価されたものだと考えられます。

物語的には、なぜか伝説の刺繍屋を探しにでかけたり、レディースの集会に一度でなかっただけで、集団リンチをくらいそうになったりしながらも、最終的には自分が好きなものではなく、友情をとる物語であり、物語としてはまさに王道ものとなっています。


見所としては、ロリータファッションに身をつつみ、おしとやかに生きようとしていた竜ヶ崎桃子が、友達を助けるために、大好きなロリータ服を泥と血にまみれさせながらも、自分が嫌っていた尼崎弁(原作では関西弁の中でもガラが悪い)をつかって、ヤンキーたちを威嚇するところです。

自分の全てを受け入れた上で、友人のために嫌なものと対決する、という姿が見れるのも素晴らしいところです。

コメディタッチであり、時々ウッディ・アレンの作品のように、急に画面のほうを深キョンが見て解説をしてきたりするのも面白いです。

 

二人の女の子の姿勢に、元気をもらえる作品となっていますので、自分の自信が揺らいだときに見てみると面白いかもしれません。

 

以上、ロリータの深田恭子/中島哲也下妻物語」でした!

中島哲也監督の他作品の紹介は以下となっています。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

 

スポンサードリンク