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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

秀でた美しさでございます/パク・チャヌク「お嬢さん」

ぺぺろん 洋画

荊の城 上 (創元推理文庫)

  

オールドボーイ」などで有名なパク・チャヌク監督が誇るエロティック・サスペンス。

話題となっている「アガシ」こと「お嬢さん(hand maiden)」について、どのような映画なのか、ミステリー仕立てということもあって、面白さの一旦を伝えづらいところではありますが、その見所も含めて感想を語ってみたいと思います。


舞台は日本統治下の朝鮮

原作小説はサラ・ウォーターズの「茨の城」です。

ビクトリア王朝のイギリスが舞台になっているのですが、「お嬢さん」では、1939年の日本の統治下にあった朝鮮半島が舞台となっています。

パク・チャヌク監督もパンフレット内で言っておりますが、この作品は、この時代に設定したことで、非常に豪華なセットを楽しむことができるようになっているのが特徴です。

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メイドとしてやってきたスッキは、和洋折衷の館の中でお嬢さんと過ごします。

貴族としてのきらびやかな世界と、後に触れますが、貴族における退廃的な世界が見事に変更された舞台設定の上で成り立っているのです。


「お嬢さん」は、館の中に囚われた令嬢として姿を現すのです。

 

三部構成

1部は、メイドとしてやってきたスッキの視点で語られます。

彼女は、幼いときから盗みを学び、可愛らしい姿とは裏腹に、お嬢さんに近寄って騙そうとする役割を担っています。

ただし、彼女は、赤ん坊が好きな女の子で、非常に母性に溢れた女性であることが示唆されています。

「私の胸から乳がでれば」とスッキは何度も考えています。


お嬢さんをお風呂でお世話しているシーンでは、

「お嬢様は私の赤ちゃんです」

といって、秀子お嬢様に飴を舐めさせてあげるなど、若干、倒錯しているところもありそうですが、その深い情愛のある女性でもあるのです。


1部では、このスッキが、詐欺師と組んでお嬢様を騙そうとするのですが、そのお嬢様の美しさと純粋さに惹かれてしまい、お嬢様に恋していく姿が描かれます。


その耽美な世界こそが、「お嬢さん」の一つの魅力といえるでしょう。

 

日本語と、卑猥な台詞

作中にでてくる人物は、日本語をかなり喋ります。

秀子お嬢様は、5歳のときに日本から朝鮮にやってきたという人ですし、叔父という人も日本にあこがれている朝鮮人だったりします。

でてくる詐欺師も、たどたどしいけれど、古めかしい言葉をつかってお嬢様を誘惑します。


「秀でた美しさでごじゃいます」

と、はじめてお嬢様を見たときに驚く姿は印象的です。

また、この作品では、卑猥な日本語を言うことが何度となくあります。

それこそがこの物語の肝というべきところでもあるのですが、他の国では字幕がつくのでそれほど気になることはないでしょうが、日本人の場合、日本語に字幕をつける必要はもちろんありません。


「顔、耳、足、へぞ(ヘソ)」と順番にいっていくわけですが、あまり文字ではみても言葉として聞くことが多くない台詞を、恥ずかしがらずに役者が言っているのを聞くと、気恥ずかしさを感じながら聞くことになるのです。 

実はエロティックコメディ

エロティックの部分が強調される本作品ですが、実は、コメディタッチの部分も大いにあります。

スッキと秀子お嬢様は同じベッドで眠ります。


お嬢様というのは、世間知らずなものと相場が決まっています。

世間知らずなお嬢様を、自分の赤ん坊だといいながら最大限の愛情を注ぐスッキ。

詐欺師の男から求婚されたとスッキにうちあける秀子お嬢様は、「男の人は、初夜に何を望むのですか」と聞いてくるのです。


お嬢様の美しさに心を奪われているスッキは、それならばと、初夜の作法をお嬢様にお教えするのです。

キスも知らないお嬢様を手ほどきするメイド、という非常に耽美な世界がはじまります。

そこで、お嬢様がキスも上手でそのあとの行動もお上手であることから、スッキは「天性のものですね」とお嬢様の才能に感嘆するのです。


このシーンそのものはエロティックであるんですが、その台詞や、お嬢様の下腹部をじっと見て、スッキが「秀でた美しさでごじゃいます」というところもまた、コメディとしてみたほうがいいでしょう。


エロとコメディをあわせたところもまた、本作品の魅力の一つです。

 

異なる視点。

三部構成となっている本作品ですが、2部はお嬢様の視点で語られます。

スッキと出会う前の話と、スッキと出会ってからの話。


さて、この作品は

「極限の騙し合いから逃げられない-。」

がキャッチコピーです。

 

同じような作品をあげてみますと、思い出すのはデヴィット・フィンチャー監督「ゴーン・ガール」です。

ベン・アフレック演じる旦那と、有名な作家の絵本のモデルになっている娘との、美男美女カップルとして有名であった二人。

ある日、旦那が家にかえってみると、血まみれになったキッチンと、いなくなった奥さん。
スキャンダラスなニュースとしてとりあげられていく中で、殺したのは旦那であるベン・アフレックではないかと疑われていく、というサイコ・ホラーであり、サスペンスです。

 

ゴーン・ガール (字幕版)
 

 

こちらも、1部と2部でわかれていて、どんでん返しが発生します。


「お嬢さん」もまた、1部で考えていた事柄をひっくりかえされ、耽美な世界の中で、登場人物同士の騙しあいが行われていることに気づくのです。

 

エロの方向性

エロということで「お嬢さん」が気になる人もいるいかと思いますが、その方向性は二つに分かれていると思われます。

一つは、メイドとお嬢さんによる耽美なエロスの世界。
女性同士でのまぐわいによるエロティシズムがあります。

 

もう一つのエロティシズムとしては、このお嬢さんの叔父が主催しているイベントの姿でしょう。

貴族によるエロティシズムといえば、文学的にも多く取り上げられているところです。

SMの語源にもなった、サド侯爵が描く世界こそがこの物語のもう一つのエロスです。

マルキド・サドといえば「悪徳の栄え」でしょうし、「眼球譚」で有名なジョルジュ・バタイユのような、退廃的な貴族のエロティシズムです。

 

悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)

悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)

 

 

少なくともこの時代における貴族というのは、単なる性では満足できず、屈折した方向に行くことが多かったのです。

そのような秘密クラブ的な中での倒錯した性というものも描かれているのが本作品の特徴といえるでしょう。

そのため、エロいことばかりに目がいくと、拍子抜けすることがあるかもしれません。

 

物語として


エロティシズムを抜きにしても、この物語は非常によくできた作品となっています。

お嬢さんを騙すためにやってきたメイドのスッキは、お嬢様への愛に気づくことで、お嬢様を純粋に助けようとし、お嬢様もまたスッキの本心がみえないために苦しむ。

また、お嬢さんを騙そうとする詐欺師もまた、お嬢様の気高さにはじめから惹かれているのに、詐欺を行おうとするなど、人間の深奥にある欲望や純粋さを描いた文学的な作品となっています。

一つだけシーンを上げるとすれば、やはり、お嬢様をお風呂にいれてあげるシーン。
騙そうとしているスッキがお嬢様の美しさに見とれ、お嬢様もまたお風呂によって上気していく肌の色と、スッキに見とれている姿。

耽美的な中に、人間の業が描かれている作品となっていますので、気になった方は、是非騙されにいっていただきたいと思います。


以上、秀でた美しさでございます。/パク・チャヌク「お嬢さん」でした!

 

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