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シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

コリン・ファースの言葉は世界を救う/英国王のスピーチ

洋画 ぺぺろん

英国王のスピーチ (字幕版)

 


コリン・ファースといえば、マシュー・ヴォーン監督「キングスマン」や、恋人が死んでしまったために自殺を考える同性愛者の大学教授を演じた「シングルマン」が有名です。

 

イギリス紳士たるコリン・ファース主演映画の中でも、見事アカデミー賞を受賞した「英国王のスピーチ」について、さらっと紹介してみたいと思います。

 

らじおのじかん


アカデミー賞を受賞したとはいえ、英国王のスピーチって、いかにも地味な感じの内容と思われるでしょうが、地味な映画です。


吃音症であるコリン・ファース演じる主人公のジョージ6世が、ナチスドイツによって世界が混乱に落ちようとしている中、世界を一致団結させるために、ラジオに向かってスピーチをする、というのが簡単な内容です。

 

物語の冒頭から、マイクが大写しになります。

 

1930年頃から物語は始まりますので、ラジオによって国民は、王の言葉を直接聞くことができる時代になっています。


ある一定より古い時代の物語で、王様がでてくる話であれば、馬にまたがって、兵の先頭に立って闘う勇ましい姿こそが王たるものの務めのように思ってしまいますが、時代はとっくに変わっています。


必要なものは、民衆をひきつけるための言葉です。

民衆を奮い立たせ、民衆を誘導していくことこそが、指導的な立場にたつものの責務となっているのです。


そんな時代になっているにも関わらず、ジョージ6世は、吃音症によって、うまく話をすることができません


自分の娘たちに「パパ、お話を聞かせてよ。ペンギンの話が聞きたいわ」と言われても、少し覚悟をしながら、やっとの思いで言葉を紡いでいくといった具合です。


そんな彼が、なんとかして重要なスピーチのために、練習していくという姿は、英国王という立場でない人間にとっても、普遍的なテーマを含んでいるといえます。


ジョージ6世が、自分の吃音症を治すために、一人の男と友情を築いていくという点において、何も遠い国の物語というわけではないのです。

 

 

シェイクスピアにあこがれる男

 

当時の吃音症に関する医学的な知識が、非常に少ないといった描写があります。

 

古来から伝わる吃音症の治し方と言って、ビー玉を飲ませて、しゃべらせるといった、今では考えられないような治療法も登場します。

 

そもそも、ビー玉を口に含んでいたら絶対にしゃべれないと思うのですが、古代ではそれで直った人がいたというのだから、驚きです。どちらかというと呪術的な意味が多いように思えます。


そんな中、ジョージ6世の吃音を直そうとするのが、ライオネル・ローグです。


現代においては、それほど不思議な治療法をしているようには思えませんが、ライオネルは、当時でいうと異端の治療法を行うという人間でした。


それは、吃音になってしまうのは幼少期におけるトラウマが原因と考え、それを探っていくという治療法です。


特に、ジョージ6世は、俗に言う汚い言葉をつかうときはよどみなく発音できるのに、王とか責任に関係するようなプレッシャーを感じると途端に、声がつまってしまった、何もしゃべられなくなってしまいます。

このことからも、身体的な欠陥としてしゃべれないのではなく、なんらかのトラウマが関係しているのではないかと探っていきます。

 

彼は治療を仕事にしていますが、実は、役者になりたい男です。

シェイクスピアの舞台が何より好きで、台詞は全部覚えています。

舞台のオーディションで、シェイクスピアのリチャード3世を演じるのですが、駄目だしをされます。

 

「王座を渇望する、王の叫びが聞こえてこない」

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イギリスの王であるリチャード3世を演じようとして駄目だしをされる一方で、イギリス王の吃音を治すというところに皮肉がきいています。

彼は、ジョージ6世の前では治療をする側ですが、自分自身もうまくいかない現実をかかえている普通の人間であることが示されます。

 

リチャード三世 (新潮文庫)

リチャード三世 (新潮文庫)

 

  

イギリス社会は呼び名から


心療内科のような治療をはじめるライオネル。

 

「私のことはライオネルと呼んでください。陛下のことは、バーティと呼びます」

「家族しかそう呼ばない」

「ここではお互いに対等で」

 

実は、この映画では執拗なまでに名前の呼び方にこだわっています


イギリスという階級社会が重要な国では、相手との関係を重視します。そのため、名前の呼び方一つとっても簡単なことではないのです。


物語の後半で、ライオネルの奥さんとジョージ6世と奥さんがばったり出くわすシーンがあります。


ジョージ6世の奥さんは、「はじめて会ったときは、陛下。次からは、奥様でいいわ」

と。

ですが、ライオネルは、いきなり家族しか呼ばない呼び方をするわけですから、抵抗感があるのは当然です。


同じくコリン・ファースが出演していて、階級社会を描いている映画があります。


このブログでも紹介した、「ブリジット・ジョーンズの日記」です。

これは、労働者階級の独身女性であるブリジットが、コリン・ファース演じる弁護士をやっている上流階級の男と恋に落ちる物語です。


この物語も、階級を超えるイギリス社会を、恋愛という形で描いている作品です。

 


イギリス映画では、時々、決して超えられない階級社会を題材にしている作品が多いのも特徴だといえます。


イギリスは、階級社会であるということを意識するとまた違った見方ができるのが面白いです。


英国王のスピーチ」にいたっては、オーストラリアからの移民である平民中の平民であるライオネルと、イギリスの王たるジョージ6世が、友情を育む、というイギリス社会ではとうていありえないことがおきている、ということもまた、見所の一つなのです。

ただし、これは実話がベースにつくられているところがまた興味深いです。

  

王に求められるもの

 

とはいえ、吃音が簡単に直るわけもなく、王位についたジョージ6世は、王位を継承する際の宣誓でも、言葉を詰まらせてしまいます。


彼にとっては、王という重圧そのものが、彼の吃音を生み出す原因の一つであるのに、自分自身が王になってしまう、という現実もまた、彼自身を憂鬱にさせてしまいます。

 

そんな気分の中、娘たちを抱きしめようとします。


手を広げるのですが、娘たちは、いつものように抱きついてはくれません。

 

姉妹で目を合わせて、それから、「陛下」と呼ぶのです。


実の娘から「陛下」と呼ばれることで、より王の重圧を感じるコリン・ファースの表情には、胸を締め付けられます。


また、父親であるジョージ5世にも、王としてのプレッシャーをかけられます。

「昔の王は軍服姿で、馬にまたがっていればよかった。今では、国民の機嫌をとらなくてはならん。我々は役者だ」


ここでも、役者になりたいライオネルとの対比がでてきてきます。


「王室という会社だよ」


王家というものの、現状にも触れているところも面白いところです。

 

 

スピーチの意義

 


劇中でも散々語られますが、この物語は、第二次世界大戦が行われようとしている際のできごとを描いています。


コリン・ファース演じるジョージ6世の吃音が、実は、個人の問題ではなく、全世界をも巻き込む非常に重要なものであることが、物語に奥深さを与えています。


今でこそナチスは悪かった、ということになっていますが、当時は、どちらに加担しても不思議ではない雰囲気だったようです。


そんな中、ドイツと対抗するための中心となれる国は、イギリスしかなかったというのが現状だったようです。


その中で、まさかイギリスの王が、ラジオが国威高揚のためには欠かせなくなった時代に、吃音でまともにしゃべれない、となってしまっては、戦争どころではなくなってしまうというわけです。

 

あらゆるプレッシャーがある中、物語は、その世界大戦の幕開けとなってしまうと同時に、歴史的にも重要なシーンが描かれていくのです。

 

王としてのプレッシャーに重みを感じている男が、一人の男との出会いによって、最後には「陛下」と呼ばれることを受け入れていく、王になっていく様は、コリン・ファースの演技とあいまって非常に良くできています。

ライオネルは、「バーティ」とコリン・ファースの事を呼んでいますが、とある場面では、その自分の中にある王を、自分の言葉で宣言したコリン・ファースに向かって、改めて「陛下」と呼ぶシーンは、その静謐な場面とあいまって、強い印象を残します。

 

たしかに地味な物語ではありますが、アカデミー作品賞を受賞しただけあって、非常に面白く作られています。

 

英国王のスピーチ (字幕版)

英国王のスピーチ (字幕版)

 

 

特に、前半部分のコミカルな勧め方は、物語にすぐに入っていける気軽さがあり、吃音の人の苦悩や、まわりの人間の期待、失望がよく描かれている良作です。

 

素質はあるのに自分に自信がなくて闘えない男が、妻や、トレーナーとの出会いによって、自分自身や、自分の才能に気づいていく、という実に王道の物語でもありますので、気になった方は是非ご覧ください。 

 

以上、「コリン・ファースの言葉は世界を救う/英国王のスピーチ」でした!

 

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