スーツは現代の鎧だ/マシュー・ヴォーン監督「キングスマン」
靴のかかとを勢い良く合わせると、毒つきナイフが飛び出る。
数万ボルトの電流が流れる指輪や、地下に張り巡らされた秘密機関の鉄道。
大爆発するライター。
ロンドンに存在する謎のスパイ組織「キングスマン」。普段はスーツの仕立て屋。しかし、その実態は…。
「キック・アス」や「Xーメン」でも人気を集めているマシュー・ヴォーン監督によるスパイアクション映画こそが「キングスマン」です。
古き良きスパイ映画を踏襲しつつ、アクションあり、殺戮あり、涙ありの物語になっており、映像表現もあいまって飽きさせません。
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出自が貧しくても紳士になれる。
主人公はコリン・ファースではありません。
コリン・ファースといえば、本ブログでもたびたび紹介しておりますが、「ブリジット・ジョーンズの日記」にも主演しており、二枚目でありながらコミカルな作品にも出演。
そうかと思えば、「シリアスマン」といったゲイの大学教授の悲恋を描く作品にも出演し、その幅の広さと演技力には目をみはるものがあります。
もちろん、アカデミー賞を受賞した「英国王のスピーチ」がもっとも有名なところでしょうか。
そのコリン・ファースがアクション映画でバリバリ闘うのが本作品です。
コリン・ファース演じるガラハット候は、主人公である男の子エグジーを導いていく役目を担います。
エグジーの父親は、秘密機関「キングスマン」で働いていたものの、仲間のために命を落としてしまいました。その結果、貞淑そうなお母さんは、すっかりガラの悪い人たちと交流をもつ人になってしまっており、主人公もまた、決して環境のいい場所では育っていません。
映画「キングスマン」では、決して恵まれた環境にない主人公が、英国紳士であるコリン・ファースに導かれて、「紳士になる」という物語です。
マナーが人間をつくる。
コリン・ファースは言います。
「マナーが、人間を、作る」
パブでからまれたときに言った台詞ですが、これはからまれた相手をさげすんでいっているという意味もありますが、逆の意味もあります。
「プリティ・ウーマンは見たことあるか」
「マイ・フェア・レディなら」
「マイ・フェア・レディ」はかの大女優オードリー・ヘップバーンが主演し、下町に住む貧しい娘をレディにする中で、まわりの人間が彼女の魅力に気づき、また彼女自身もまた変わって行く、という物語です。
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プリティ・ウーマンは、マイ・フェア・レディを下敷きにして作られたものですので、劇中でこの台詞がかわされたときに、コリン・ファースは「マイ・フェア・レディは見ているのか」と言って笑うのです。
まさに、この物語の根底にあるのは、どんな人間であったとしても、マナーによって、人間が作られるのであって、出自は関係ないというのがこの作品の根底を通すテーマなのです。
どんなに金持ちであろうと、高貴な血筋をひく王女様であろうと、マナーが大事ということが、映画をみればわかってきてしまうのです。
これは映画ではない。
この映画は引用が多いです。
子供を殺そうとしてドアを破壊する母親は、スタンリー・キューブリック監督「シャイニング」そのままですし、最後のほうの戦闘シーンは、どう見てもスターウォーズの通路での戦闘のパロディとしか思えません。
敵キャラが、全身をほぼ白い服で合わせていることからも、ストーム・トルーパーをまねしているのは、間違いないでしょう。
そういった、映画の引用をこれでもかと入れながら、大富豪であり敵役でもあるサミュエル・L・ジャクソン演じるリッチモンド・ヴァレンタインは「これは映画ではない」といって、大変なことを行っていくのです。
また、映画の引用ではありませんが、秘密スパイ組織である「キングスマン」に所属するエージェントたちの名前は、すべてイギリスが誇る伝説的な王の物語「アーサー王伝説」にある、円卓の騎士に由来しています。
一人が死ぬまで、新たな人間はいれない、という伝統を守っているキングスマンは、まさにイギリスの伝統を守った機関といえるでしょう。
みどころ
さて、映画のテーマばかり語ってもしょうがないので、この映画の最大の魅力をお伝えしたいと思います。
それは、いわずと知れたアクション・シーンです。
コリン・ファースは、キレキレの動きで敵を次々と倒していきます。
アクション俳優でもなんでもないはずですが、コリン・ファースはきっちりトレーニングを積んで、この映画に臨んだそうです。
マシュー・ヴォーン監督「キック・アス」では、まだ小さい頃のクロエ・グレース・モレッツが、アメリカ的には非常に汚い言葉遣いで、悪いやつらをばったばったと倒しましたが、「キングスマン」でも、コリン・ファースがそれを越えるぐらいの大殺戮と、神への冒涜とも思える行為を行います。
また、前半戦は、キングスマンの新人を決めるための選抜試験がほとんどをしめます。
究極の選択を迫られながら、最後の一人まで残っていけるか、という点おいては、秘密スパイ組織という性質上、タイヘン厳しい試験が連続で行われます。
ヘリコプターで上空からの落下試験。
全員が飛び降りてから、突然言われます。
「誰か一人が、パラシュートをもっていなかったとしたら」
それまで楽しみながら墜ちていた全員はパニックです。
全員が助かる策を講じるも、なかなかみんなは実行してくれません。
究極の試験の中で、主人公は一匹の犬を飼育することになります。JBと名付けられた犬との交流と主人公の優しさが、決定的な決断をかえてしまう部分もまた見所といえるでしょう。
そう、紳士になるための試験を耐えて、エグジー青年は、大人へと成長していくのです。
スパイ映画のナンパ術
試験の一つとして「女性を一人、口説き落とせ」と言われます。
主人公と、もう一人残った男チャーリー、そして、女性一人が試験に残っていますが、女性を口説こうとするところにも薀蓄が語られて面白いです。
「君はカラーコンタクト?」
「ちがうわ」
「相手に否定させて、興味をもたせるナンパのテクニックね」
と、女性に声をかける方法や、相手を出し抜こうとするために相手の手の内をあかしてみたりと、そのやり取りは面白くみることができます。
ただ、主人公だけが「このお酒へんな味がしないか」と聞いてきます。
「全員に質問をするようにして、対象を自分との会話に引き込むテクニックね」
といわれるのですが、主人公はこのお酒の味について違和感をもったときは、ちょっとしたことがおきるので、そんなあたりを気にしながらみても、面白いかもしれません。
お姫様と恋に落ちよう
この作品は、世代交代もテーマにしています。
父親が殺された少年が、再び父がいた場所へと赴いていく、という物語にもなっているのです。
また、マナーが人間をつくる、という話は書きましたが、主人公のエグジーは、いわゆるB系ファッションを着ています。
そんないかにも若者なスタイルのエグジーが、スーツを仕立ててもらって、一人の男として成長していく姿が、ファッションを通じてもわかるところがいい演出です。
「スーツは現代人の鎧だ」
コリン・ファースはそう言い放ちます。かつては金属の鎧だったものが、今は立派に仕立て上げられたスーツこそが英国紳士における鎧、というのはぐっとくるものがあります。
さて、この映画は、イギリスを舞台にした映画にありがちな、階級を越えるという部分もふんだんに盛り込まれています。
そのため、なぜか捕らわれの身になってしまった王女様と、主人公のエグジーくんは、ひょんなことからいい感じになります。
その王女様は、気風のいいところをみせてはくれますが、決して淑女というわけではない行動にでます。
でも、それでいいのです。人間は出自とかそういうものではなく、マナーによって人間に成るものだから。
以上、スーツは現代人の鎧だ/マシュー・ヴォーン監督「キングスマン」でした!
コリン・ファースがでている映画は以下です。