シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

君の名は。好きな人は前作も。解説&感想「言の葉の庭」

言の葉の庭

 
社会現象ともいえる人気となり、日本アニメ会にとって大きな影響を与えた新海誠監督「君の名は。」ですが、その前作にあたる「言の葉の庭」も、ファンであれば抑えておきたいところです。


言の葉の庭」は46分という、かなり上映時間の短い作品となっており、さくっと新海誠作品をみたい、という人にはオススメの作品となっています。


君の名は。」の流れから見る人も、すっきり入れるように解説しつつ、語ってみたいと思います。

 

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新海誠

言わずとしれた新海誠監督は、「ほしのこえ」をたった一人でアニメーションを作るという快挙を成し遂げ、当時の業界に衝撃を与えた人物です。

 

ほしのこえ

ほしのこえ

 

 

そして、特徴として言われることが多いのが、その映像の美しさです。


君の名は。」を見た方はわかると思いますが、新宿の風景などが、実際の風景よりも美しく(強調されて)表現されていることから、誰かの心のフィルターを通したときに、いつもの景色というががらっと変わることを教えてくれるというのが大きな特徴といえるでしょう。


本作品では、「雨」という表現が非常に多用されていることから、そのあたりをポイントに見ていくと面白いです。


特に、雨が落ちるときの雫のはね方などは、わざとらしいぐらいにしっかりと描かれていたり、雨の落ちる種類というのも数多く存在しています。


話しによれば、雨になるたびに新海誠監督は外にでていって、雨がどのように降っているのかを確認していたというのは、制作秘話として周知のことのようです。

 

ジブリがいっぱい。

言の葉の庭」の物語については、ジブリ的要素が詰まっています。


そのため、ジブリというフィルターを通さなければ、作品世界そのものは、少しばかし青春の匂いがぷんぷんとして、好き嫌いがより強くなってしまうかもしれません。


新海誠監督自身が大きく影響を受けた作品の一つとして、当然のことながら、ジブリ作品があり、オマージュ的な部分も含めて本作品を見るのが正しいのです。


耳をすませば」といえば、説明するまでもないかもしれませんが、バイオリン職人を目指す天沢聖司と、読書好きで夢見がちな少女月島雫の二人が織り成すラブストーリーです。

 

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言の葉の庭」には、「耳をすませば」の設定と似た部分があり、その精神性も含めて考えると理解しやすくなります。

 

言の葉の庭」における主人公タカオは、靴職人を目指す高校1年生です。15歳という身でありながら、自分でつくった靴を履いており、技術そのものは未熟かも知れませんが、強い意志をもった少年です。


靴の材料となる皮や道具を買うためにも、バイトで稼ぎ、日々を過ごしています。

 

正直なことを言えば、15歳にしてバイトをばりばりこなし、靴職人になるために遊びたいという欲求を抑えながら頑張る青年というのは、今の時代にはかなり珍しい人物といわざるえません。


ですが、「耳をすませば」の聖司君をベースにしていると考えれば、これぐらいのことは、前提として考えなくてもすむのです。

聖司君がベースなら、靴職人ぐらい目指すだろう、と。


耳をすませば」の月島雫の姉も、突然家を出て行きます。

そのことで、主人公は焦りが生まれますし、何もない自分がどうすればいいのかを真剣に悩むようになっていくのですが、「言の葉の庭」においても、タカオの兄が、突然家をでていくことを宣言します。


2歳年下の彼女と同棲する、ということで出て行くわけですが、主人公のタカオはそれほど動揺することもなく、物語に大きく影響するわけでもなく、たんたんと進んでいきます。


ところどころに、耳をすませばとの関連性を感じさせつつ、物語は進んでいくのですが、オマージュだと思いながら考えていったほうが面白く物語りを見ることができます。

 

君の名は。への影響は。

主人公のタカオ。そして、ヒロインにあたる雪野。


二人は、すこしずつ惹かれあいます。

細かい話しは物語を見ていただければいいところですが、雨の日だけタカオは授業をサボって、公園に行くことを習慣としています。

その中で、とある問題をかかえているために、公園にさぼりにいってしまう先生が恋をしていくというところが物語の大枠です。


一応、この作品は対比的にキャラクターが描かれており、15歳でありながら自分の人生の目標をたて、お金を稼ぎ、自立してみる大人のような子供のタカオ。


27歳で、大人であるはずの雪野は、心が弱っており、実は、タカオよりもはるかに子供の存在です。


そんなちぐはぐな二人が、出会う物語。


46分という短い上映時間の中ですので、主に二人の心の動きがフォーカスされています。


お互いがどう思っているのか、半ばわかっているところですが、その二人の独白があとで明かされることによって、「君の名は。」でも見られた、お互いの気持ちの中身がわかっていく、というのは、その後でも引き継がれていますし、新海誠作品としてポピュラーな表現となっているところです。

 

スポンサーがいっぱい。

余談ですが、新海誠作品の特徴の一つとして、企業スポンサーをきっちりつける、というところも面白いところです。


作中でも、お茶や、靴や服のブランド、町の景色に溶け込む看板など、実際の企業名が入っていたりします。


この手のやり方をもっと大胆に推し進めたアニメ作品として「タイガー&バニー」などがありますが、それっぽい飲み物や道具がでてくるよりは、実在のものがでてくることで現実感が強調される、というのは、表現としても面白いところかと思います。

 

 

拒絶反応を示しそうになる人もいるかとは思いますが、手法の一つとしては面白いところではないでしょうか。

 

見るべきか。

君の名は。」という作品は、作画監督安藤雅司という、スタジオジブリ作品の「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」の作画監督をやった超ベテランがとりくんでいます。

そのため、「言の葉の庭」を、「君の名は。」のクオリティのつもりで見たら少し拍子抜けしてしまうことでしょう。


雨の表現が美しいといっても、そこには予算も含めた中での制約もあります。


ただ、新海誠監督の男女の恋愛に強く焦点をあて、少しだけ前向きになった作品として、「君の名は。」につながるための中間の作品として非常に意義深い作品となっています。

 

新海誠監督作品は、秒速5センチメートルに代表されるように、明るくて楽しい恋愛などは描かれません。

 

秒速5センチメートル

秒速5センチメートル

 

 

抑鬱的な主人公と、純真無垢にみえながら、主人公との間に決定的な齟齬をもっているヒロイン。


すっきりしない恋愛模様を扱いながら、「言の葉の庭」では、しっかりした主人公と、倫理的ではない恋愛をしたり、生徒との色恋沙汰に巻き込まれたりして心が弱ってしまったヒロイン雪野。

ですが、「二人とも歩く練習をしていたのだ」という劇中の言葉の通り、彼らは、歩こうとしており、その象徴として靴が描かれているのです。

 

今後の変化の兆しがみえていく作品として、新海誠をより知りたいという人には、見てみると面白い作品といえます。


以上、君の名は。好きな人は前作も。解説&感想「言の葉の庭」でした!

 

君の名は。の記事は以下となります。

 

cinematoblog.hatenablog.com

 

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