シネマトブログ

映画の評論・感想を紹介するサークル「ブヴァールとペキュシェ」によるブログです。不定期ですが必ず20:00に更新します

松方弘樹VS小林旭 『広島仁義 人質奪回作戦』(1976年)

今回ご紹介する映画は、1976年公開の『広島仁義 人質奪回作戦』牧口雄二監督作品です。

牧口雄二といえば『玉割り人ゆき』(1975年)や『徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑』(1976年)などを監督したカルト的に人気のある方で、やくざ路線の作品は本作のみかと思われます。

 

主演は小林旭松方弘樹

舞台は広島(と東京)で、旭と弘樹という幼馴染の友情がヤクザの仁義の前にむなしくも壊れていくという内容です。

仁義なき戦い、そのあとに

広島、ヤクザとくれば、これはもう『仁義なき戦い』ですが、本作は『仁義なき戦い 完結篇』と元ネタが被っていますので、大きなくくりで見ればある意味、ポスト『仁義なき戦い』ともいえる作品です。実際のところ、本作のプレスシートには『仁義なき戦い 未来篇』と書かれていたそうです。

 

まず簡単に作中登場する組織を紹介してみます。

 

・神和連合会

仁義なき戦い 完結篇』に登場した共政会(作中では天政会)がモデルと思われます。広島ヤクザが大同団結した組織です。関東同志会が広島に進出を目論んだことから、これに対抗するため小林旭演じる北条が提案。組織のトップはその北条。本部の窓から原爆ドームを眺めることができます(すごい演出)。

余談ですが小林旭は『仁義なき戦い』シリーズでも武田という役を演じており、どちらもほぼ同じような役回りになっております。いわば、武田の側から見た『仁義なき戦い 完結篇』ともいえます。

 

・大西組

広島のヤクザ組織ながら神和連合会に参加せず。わずかに残った元構成員は幹部の神野(松方弘樹)の8年ぶりの出所を機に組の再生をはかります。しかしながら神野はヤクザをやめて堅気になることを宣言してしまい…。

 

・関東同志会

広島進出を狙い、抗争をしかけるも神野らの前にあえなく敗走。総会屋稼業から足を洗ったと思われていましたが実は東邦汽船という会社とつながっていました。

 

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・旭経済研究所(旭グループ)

沖本(室田日出男)、柏木(地井武男)ら元広島ヤクザが所属している東京の総会屋グループ。沖本らはかつての盟友・北条の広島ヤクザの大同団結の意見に反対したため広島の地に二度と足を踏み入れることができない「ところ払い」の処分を受けています。そのため東京の地にて新しいシノギとして総会屋を始め、出所して彼を訪ねてきた神野にもこの稼業を勧めます。

広島仁義 人質奪回作戦 [VHS]

広島仁義 人質奪回作戦 [VHS]

 

 

友情、愛情、わかれ道

 本作がやくざ路線でも一風変わった印象を与えるのは、やくざ者の対立に友情と愛情を挟み込んだ部分にあると思われます・

北条とその妹である涼子(中島ゆたか)、そして神野は元々知り合いで、しかも神野と涼子はデキています。そうした関係性が物語が進むごとに破綻していく、叙情性をも感じさせます。

そこにプラスして室田演じる沖本の存在も重要です。

関東やくざの広島進出を北条、神野、沖本の三人を中心に防ぐも、神野は全ての罪を被り収監され、北条は広島やくざの団結を唱え連合会を結成、それに異を唱える沖本を広島から追放する、という、結束の強かったはずの三人がバラバラになります。その後、出所し、カタギになることを北条に伝えた神野に東京にて総会屋という仕事を紹介したのは沖本です。

この三人、それぞれの信念に従った行動するもののそれがために対立することとなる、いってみればクラシックな任侠的世界も感じさせる関係性なのです。

ヤクザ、そして総会屋

 『仁義なき戦い』というとその印象的なBGMとともに凄惨な抗争シーンを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、もちろんそればかりではありません。盃外交の描写があったり、いかにうまい金の稼ぎ方を考えるかなど金銭に関する生々しい話もあったりします。『広島仁義 人質奪回作戦』もまたその流れを汲んで、血の抗争シーンから始まりそれが経済の世界へと続いていきます。

ヤクザと総会屋といえば『暴力金脈』という素晴らしすぎるタイトルの映画があり、そちらも松方弘樹がでています。東映やくざ映画も目先の血なまぐさい映像から、利権を巡る企業とやくざや総会屋との関係性を描くという流れに変化していったといえるでしょう。

cinematoblog.hatenablog.com

 

東邦汽船という会社にはかつて広島進出を狙うも返り討ちにあった関東同志会が総会屋としてついていました。

沖本の設立した旭グループの柏木が同士会(遠藤太津雄がいかしている)に命を狙われ、総会屋としてカタギになったはずの神野も結局は再びヤクザたちとの抗争の真っ只中に戻っていかなければならなかったのです。

本『東映実録路線 最後の真実』の中でも脚本家の高田宏治が指摘した、北条、神野、涼子の三人で鍋を囲み、酒を飲むシーンは、お互いが抗争の最中であるのにかつての仲が良かった当時を思い起こさせるようなパセティックな名シーンです。

『広島仁義 人質奪回作戦』感想・評価 まとめ

そんなわけで、この松方弘樹小林旭。二人はラスト最終決戦に挑むわけですがそこには悲しい最後が待っていました。未見の方はぜひご確認下さい!

といっても、本作はDVD未発売なようですので観るためにはGYAO!ストアやAmazonビデオなどでその都度購入して観ないといけません。でも、その場でお手軽に観ることができるのでお勧めです。

暴力団をやめた小林旭が妹に対し、「カタギにみえるじゃろ?」といって真面目な顔でスーツ姿を披露するシーンがありますが、100人が100人「いやヤクザにしかみえへんがな!」とツッコミを入れたくなりますので、そこだけでもいいので皆さんに見ていただきたいですね。

広島仁義 人質奪回作戦
 

 

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