美しい物は目には見えない・男の友情 『座頭市物語』
ニャロ目でござんす。
今回は名監督三隅研次の『座頭市物語』(1962年、96分)を取り上げたいと思います。
主演はもちろん、勝新太郎。
誕生から半世紀すぎてもなおファンが絶えない『座頭市』シリーズ。
その原点に迫りたいと思います。
予告と本編は結構違います…。
物語の構図
物語は非常にシンプルです。
飯岡と笹川は対立しています。
市(勝新太郎)は飯岡に世話になり、平手造酒(天知茂)は笹川の用心棒となります。
ひょんなことから二人は知り合い、お互い孤独の身であることをしり、静かに意気投合します。
そんな中、飯岡と笹川の対立が深刻化し、討ち入りとなります。
市と平手はついに一対一の決闘を迎えるのです。
画面の構図
全体的に非常に抑えた構図で見やすいです。
あまりカメラの切り返しは行われません。
もちろん時代性や題材を考えると、それほど大仰にバンバンと画面を切り返したりはしないのでしょうが、それにしても落ち着いた画面を作っていました。
でも決して単調にならない。
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複数人で会話しているような場面は、それぞれを画面内に配置して無闇に動かさず、場の緊張感を高めています。
それぞれの立ち位置をしっかりと計算し、無理のない構図を作っているんですね。
なので、見ていても全然疲れない、むしろ心地よい気分になります。
つまらなさとは無縁のシンプルさ。
何を写して何を省略するか、そのチョイスが絶妙なんです。
これはたぶん監督である三隅研次の持つ能力なのでしょう。
特に気に入ったシーンは、飯岡たちの目の前で市が蝋燭を真っ二つに切るシーン。
この場面はさりげなく蝋燭を構図に入れたり、市の妙技を目の前にして驚愕する子分たちと冷静な市を同時に映したりと、いい絵がたくさん見受けられます。
ほかにもたくさんいい撮り方をしているので、見応えのある映画ですよ。
座頭市と平手造酒
市と平手は、ため池のほとりで出会います。
お互いに釣りをしながら言葉を交わすのですがこの場面の緊張感はたまりません。
はたからみればただ単に釣り人が仲良く肩を並べているようにしかみえないはずなのに、初対面であるお互いを探り合っているのです。
まさに水面下の攻防です(釣りだけに)。
平手は呼吸だけで病気を見破られてしまいます。
また、平手の竿がひいてるのを平手自身よりもはやく市は気づいて指摘します。
その研ぎ澄まされた感覚に驚きながらも彼は少しうれしそうです。
孤高で病気持ちの自分の前に現れた、盲目の男。
二度目に池で偶然出会った二人は、平手の逗留する浄勝寺で酒を酌み交わします。
運命の悪戯か、お互い敵同士となってはいますが、どちらの仲間よりもお互いを認め合っています。
なごやかな会談は笹川の闖入により、終わります。
また一緒に酒を飲もうと約束する二人でしたが、次に会った時にはそれぞれ盃ではなく刀を握って対峙することとなります。
んー、しびれますね!
この二人の友情と、最後に戦わなければならないという運命!
水辺は相反するイメージを持つ
さて、この映画は池や川など水辺がよくでてきます。
女の死体があがるのも池ですし、市と平手の出会いの場もため池。
飯岡は船に乗って笹川を討ちにいきますし、市と平手の決戦の場も橋の上。
そういえばオープニングも、市が川を慎重に渡ろうとするシーンがありました。
むこうとこちら、生と死、相反するものをつなげるのが水であり橋であるのです。
橋の上で出会ってしまったら、どちらかが生きて、どちらかは死ななければならない。
短いながらも説得力のある決闘シーンはまさにお見事でした!
北野武と勝新太郎
北野武版の『座頭市』はオープニングからばっさばっさと敵を切っていましたが、勝・三隅版の今作では、市が直接人を斬るシーンがでるのは中盤を過ぎてからです。
それまでは、耳の異様な良さ、嗅覚の鋭さ、前述した蝋燭を斬る巧みさなどで市の凄みを表現していました。
どちらの『座頭市』も見応えがありますし、エンタメしてるんですが、自分はよりシンプルな構成の勝・三隅版の『座頭市物語』が好みです(あとは、岡本喜八監督『座頭市対用心棒』も好き)。
自分はまだ勝版の『座頭市』シリーズを全部観ていないので近いうちにコンプリートしてみたいです!
北野版『座頭市』の感想はこちら